第23話我が家を失ってしまった。

 気分を落ち着けた俺は、取り合えずブロコリー商会に行った。

 借り物を壊してしまったのだから、まずは報告をしないといけないだろう。


「なるほど。冒険者の様な賊に攻撃されたと。学校で貴族に目を付けられてしまった為ですか。それは災難でしたね。とは言え、心苦しくはありますが、弁償をして頂かないとなりません」


 当然だろうな。貴族うんぬんはブロコリー商会には関係ない。

 俺が借りてるものが壊れたのだ。やった奴に俺が弁償させて俺が払うのが筋だろう。

 それに納得の意を示し、提示された金貨30枚を支払った。

 建て直しになるので家を出て行って貰う事になってしまう様で、代わりの家を提示されたが、断っておいた。

 最近王都にちょっと嫌気がさしてきている。これ以上何かあったら本当に貴族とやりあって、他に行くかも知れないからだ。

 イゴールを攻撃してみて、俺は自分の新しい一面を知ってしまったから。

 共感覚は敵と認識して攻撃した時には派手にやっても発生しないと。

 流石に足を落とすまでやって何とも感じないとは思わなかった。

 危険な兆候の様にも感じるが、抑える手立てはないし、長年悩まされてきた俺にとっては僥倖と言って良い出来事だ。

 それに、一切危険が無いほどに格下すぎたから危険な兆候だとか思うのだろうとも感じる。

 ならば、多分俺はムカつきが限度を超したらやるだろう。

 キーボードを叩き壊した時の様に。


 ブロコリーさんは終始凄く気を使ってくれた。

『学校に行っているのなら寮に入ることも出来ます。その貴族がまだ危険な状態であれば、宿屋の情報も纏めて来ましょう。荷物を保管してくれる倉庫もあります』

 等々、色々手間を掛けて説明してくれた。

 もう借りないと言ったのだからお客ではないのに。

 優しい人も居るのだと言う事に安心しつつ、お礼を言って家に戻った。


「そう。ここ、出なきゃいけないんだ……どうする?」

「金貨は千枚以上あるし、余裕なんだけどさ。ちょっとここに定住するかは考え直したいと思って、借りるの止めたんだよね」


 と、今の心情を彼女に伝えて、共に考えてみた。

 学校に友達も出来たのだし、このまま出るのも……でもまた何かあったら多分爆発するし、その時に余り根を張っていると精神的にきそうだとか。

 ミラは嫌な顔をするでもなく、考え提案してくれた。


「なら、寮に入れるか聞いてみよう。これ以上攻撃されるのか否か。それをランスが見て感じた方が判断がつきやすいと思う。遊びだし、気楽に行こう。でしょ?」


 な、なんと。逆に気遣われてしまった。

 折角の雰囲気なので抱きしめてもみもみしておこう。

 正面から抱きしめてるとおっぱいが揉み辛い。辛い。


「ほら、この家出るなら色々やる事あるでしょ。こんな事してる場合じゃないからっ!」

「これがメインだ。こんな事じゃない! とは言え、そうだな……」


 しぶしぶ離し、荷車を大きくして家具を積み込んでいった。

 仕方が無いので、城の方に移動して一室を占拠してしまっておいた。

 寮生活で必要なものだけ後で取りに来ればいい。

 そうして、漸く学校へと行けるようになった。

 だが、もうお昼過ぎ。今日はもう行っても仕方が無いが、寮の事だけは聞いておこうと学校の理事長室を訪ねた。

 そして事のあらましを説明した。


「な、何ですって!? 街中で冒険者に魔法を使わせて家を破壊させるなんて……そんな事をしたら、また暴動が起こってしまうわ……もうっ! 何の為に貴族と平民が共に通う学校があると思っているのよ!」


 よくよく話を伺っていくと、彼女はエドウィナ・マクレーンの祖母であることが分かった。

 要するに、伯爵家前当主の妻だ。

 隠居してからは、息子の邪魔しない様に王都に夫妻で移り住んだのだとか。

 夫が亡くなり、手持ち無沙汰なので学園の理事長をやっているそうだ。

 領地の方は息子がしっかり治めているらしい。


 彼女もここ数十年ほどでゆっくりと貴族の意識が変わっていっている事に気が付いていた。なので、暇を潰すのなら国の為にと唯一平民と接点が出来るこの学校の理事を引き受けたのだそうだ。

 権力は持ち込ませない様に話を親に通したり、クラス分けも気を使ってきた。

 険悪にならないようにと考え実行していた彼女にとって、憤りが強い出来事だったのだろう。

 流石にこの国でも街中で家を破壊するのはNGの様だ。まあ、当然か……


「それで……それだけの事があったのに、この学校の寮に入りたいのですか?」

「ええ、話し合い、思い改めて貰ったので大丈夫でしょうから」


 その一言で会話の流れが止まった。イゴールの性格を把握しているのだろう。

 目を見開いてゆっくりを茶を啜った後、彼女は息を吐いて唐突に国王の話をし始めた。


「今の陛下がこの国を治めて45年。若くして継いでしまった事で、経験が足りず失敗が続いてしまったわ。そのせいで新しい事を頑なにやらなくなってしまったの」


 雰囲気的に茶化せる状況じゃない。真剣な面持ちで彼女の言葉に耳を傾けた。


「心根が悪い方ではないわ。

 けど、新しく起こる出来事には、対応しなくなってしまったの。

 今まで通りにやっていれば良いと。

 貧民街の治安の悪化も、貴族と平民の対立も、帝国の内乱も全てから目を逸らしてしまったの。

 昔からの事は守られているから、そこまで目立ってはいなかったのだけれど、私はそろそろ限界じゃないかと思っているわ」


 余り興味は無いが『なるほど。そういった事柄が、今回の事態を招いたと言う事ですか』と頷き言葉を返す。


「貴方は知っていて、正してきたのではないの? 物乞いの孤児に、オーガの討伐、今回の事、家の襲撃までは知らなかったけど、色々調べさせて貰ったわよ」

「全くもって知りませんでしたね。孤児たちが見ていられなかったから手を差し伸べただけ、今回も見ていられなかったから彼女の代わりに叩かれようと思っただけです。オーガ討伐は……何でしょう。注目されたかったから、でしょうか」


 うん。これはガチで本当だ。

 これを善人だからとか勘違いされるのは困るんだよな。

 そうなると多分、変な期待されて面倒を押し付けられるだろうから。


「そう。もし、手が及ぶのであれば、他の子たちの意識も変えて欲しいと思ったのだけど……」

「えっと……それを言うのなら、お宅のお孫さんを如何にかした方がいいんじゃないですか……? 初日から苛められましたよ?」


 そ、そんなまさか、うちのエドウィナちゃんが!? と言わんばかりに反応をした。なので、そこまでの事はされていません。と訂正を入れる。


「そ、そう。しっかりと言いつけておくわ。

 貴方みたいに力ある冒険者は住まう者全員にとって支えるべき重要な人物だと思っています。

 今この王都はおかしくなってしまっているけど、貴族の本来のあり方を理解している者も沢山居ります。

 それを、貴方には理解していて欲しいと切に願います」


 なるほど。オーガの件を知っていたから敵になって欲しく無い、と話が飛んで国王の話が始まったのか。

 けど、嫌な感じはしないな。何より、親にまで権力は持ち込むなと話を通していた所に好感を持てる。かなり大変だろうに。

 だが、貴族の意識を一人一人変えるとか、無理だしやりたくもない。

 なので、この返答は勘違いさせないようしっかりと言おう。


「冒険者の活動はこの国に居る限りしっかりやるつもりですが、学校の民意までは俺には不可能です。それに……これ以上殺そうとしてくる相手が居るようなら国を出る事も考えていますし」

「そ……そう、ですわよね。ええ、それで十分ですわ。宜しくお願いしますね。では、入寮の事でしたね。ミラさんはどうされますか? 隣室も可能ですが」

「同室で! お願い……します。別なら寮には入れません……」


 借りてきた猫だった彼女がいきなり反応した。

 まあ、これは当然か。

 まだまだ怖いみたいだもんな。

 それにしても、軽く引き下がってくれたな。

 いや、深い関係じゃないし、これが普通っちゃ普通か。

 助かるけど、裏とか無いといいな……考えすぎか?

 俺一人が何かしたってたかが知れてることは分かっているだろうし。


「同室、ですか。風紀的に校内でそれはちょっと頷けません。隣同士と言う事で我慢して下さい」

「わ、わかり……ました……」

「では、もう休日に入ってしまいますが、すぐに必要でしょうし、案内しましょう。金銭の方は壊さない限りかからないので安心してください。壊された場合も壊した側に弁償させます」


 え? ミラ、絶対断ると思ってたけど、それでいいんだ?

 まあ、俺もそれくらいの方が今はいいや。

 同棲生活とかサイコーなんて思ってたし、実際嬉しい事多いけど、俺の性欲が強すぎるのか正直辛すぎる。

 強引にやっちまえばいいんだろうけど、大切になればなるほど出来なくなる、性欲も高まる、余計辛くなるの悪循環中なのだ。

 まあ、糸口は見えている。鍵はアナスタシアちゃんだ。

 彼女の鍵付きの小窓を解放しようとすれば、きっと釣られてミラも恐怖を克服する事だろう。自ら鍵穴をクパァしてくれること間違い無しだ。


「こちらの二部屋を使ってください。浴場も共同のがあります。トイレはそちらの角に。食事は食堂に行けば時間の案内があるのでそれを。あと当然ですが風呂トイレは男女別ですので、気をつけてくださいね。罰則も厳しくしています」


 おおう。邪な心の内を覗き見られたか? だが、そっちじゃないんだよ。

 俺が欲しいのは実技だよ、実技。

 俺たちは彼女が去った後、当然の様に一つの部屋に入った。


「ん? 自分の部屋確認しないのか?」

「ここが私達の部屋。隣は空室。ランス、寝ぼけてる?」


 待て、魂胆は分かったが、何故俺が寝ぼけている事になる……

 こいつめ、ほっぺたうにうにしてやる。


「ごめんなひゃい、うひょれす」

「そうか、俺はミラの顔を好き勝手さわれてうひょーだ」

「いみわはらない。はなひて」


 手を離し改めてミラの体を見回す。150cm足らずの身長、Cカップあるかないかの小ぶりなおっぱい、細い体、小さなお尻、すらっとした細い足。

 そして、この顔だ。燐としているのに可愛い系。

 僅かに釣り目の大きな瞳に、綺麗な形の鼻、小さな口、清涼感溢れるほんの僅かに青みが掛かった銀髪。

 良い匂いだ。見ていると吸い寄せられていく。


「え? ちょっと、どうしたの!? 顔……近い……」


 勝手に胸に手が伸びる。彼女の顔もまだ恐怖を感じていない。照れて赤くなっているくらいだ。

 イケる。イケるよ!

 そのまま口付けをしようとした所で赤みを帯びた顔が青ざめていく。


「き……気にせず続けて……嫌じゃないの! だからっ」


 笑顔は引きつり、とても辛そうだ。

 下半身と上半身で別の生き物になったかのように違う主張をする。

 犯りたい。

 出来る訳無いだろ。

 今日も理性の方が勝ってしまった。そろそろ負けてくれよ……

 まあ、ミラの為だ。頑張ろう。

 そう、想って離れた。

 のだが……


「やっぱり、出来ないよね。妾すら失格だよね……」


 そう言われて、イラっと来た。何でそう言う事を言うの? と、だがそう思いつつも彼女の気持ちを考察した。一瞬で分かった。何故イラっとしたのかと思う程。

 結果、想ってくれていて、できない事を苦しんでいるのは一緒だと思い至った。


「言っただろう。それでも離さないし、俺の嫁さんだ。てか、ミラも悩んでたんだな。やりたい方向で。ミラもエッチで安心したよ」


 ニヤニヤ ニヨニヨ


 汚い笑みを浮かべて彼女と向き合った。

 気持ちを切り替えていつものペースに戻りたい。だから、弄り倒す事にした。


「べ、別にしたくなっちゃったとかじゃないからっ! 我慢させてばかりだから、その、して貰っても良いと思ってるだけで……べ、別に犯されたい訳じゃないんだからぁっ!」


 バッと離れたと思ったら、急に顔を赤くしてそんな事を言い出すミラ。

 止めれ、止めてくれっ、そんなエロ同人誌みたいな事言われたら、おれは、もう……


 俺の理性が削られていく。

 ミラの言葉が表情付きでフラッシュバックし続ける。

 脳内で、半裸で顔を真っ赤にさせて目を潤ませたミラが『犯されたい訳じゃないんだからぁっ!(はぁと)』と、言い続ける。

 脳内で勝手にどんどんその映像が進化していった。局部だけをリボンで隠した状態に変わり、目のハイライトがハァト型に変わり、涙目で呼吸も荒くなっている。

 もうダメだ。もうダメだよ。と呟きながらも進化は止まらなかった。

 もはやそれは神化と言っても良いくらいだろう。


 そうして俺の理性は弾け飛んだ。

 あっ、そうだ。ミラがダメならアナスタシアはどこだ? いや、エレオノーラでもいい。

 最悪エドウィナでもいいや……もう誰でも良い。俺に、穴を……


「ちょ、ちょっとちょっと! ど、どこ行くの? 何でゾンビみたいな動きなの!?」

「ワルイガ、オレハイク。アナガアルホウヘ」

「えっ……やっ、やだよぉ! ねぇ、どうしちゃったの!? 居なくなっちゃやだぁ……やだよぉ……」



 ◆◇◆◇◆



 結局、歩きまわったが、二人は見つからなかった。

 分かってしまったのはエドウィナの部屋だけだった。

 部屋の前を通りかかると、知った声が聞こえて来た事で判明した。


「エドウィナちゃん。どうしてそんな事をしてしまったのか、ちゃんと聞かせて頂戴。ちゃんと話して反省するまで許しませんからね」

「待ってください。おばあ様、これには深いわけがあって……」


 彼女の事情が聞こえてくる。

 彼女曰く、見せ付けるように苛めていないとイゴールが手酷い暴力に出るからだと言うのだ。彼と話したところ、改める気はなく平民が逆らわないと思えるくらいに虐げると言っていた様で、余り暴力に訴えないように出る杭を先に打っておこうとしたのだそうだ。


「言いたい事は分かりました。

 少し安心も出来ました。

 ですが、そもそも、民を虐げるのは間違いだと何度も言って聞かせたでしょう! 

 貴方が虐げた方は、更新こそしていませんからBランクですが、実力はSランク冒険者ですよ。

 本気で怒らせたら王都が半壊してもおかしくないほどの実力の持ち主です。

 分かっているのですか!?」


 やっぱり、そっちを心配してたかぁ。

 まあ、ビビらせるのが当初の思惑だけども。

 それにしても流石、元伯爵夫人。もう俺の事を調べたってのはすごいな。

 通い始めたの一昨日だよ?

 あー、切っ掛けは紹介状か? 会長の印とか、直筆だとか驚いてたし、合わせてイゴールと揉めたからなのかも。どっちにしてもはええよ。


「え!? そ、そんなの聞いていませんよぉ。ど、どうしたら……」

「彼の話に寄ると、ディケンズ家の次男坊は黙らせたようですよ。今日、入寮に来ました」


 はい。そして扉の前で聞いています!

 ミラが、心配そうに服を引っつかんでこちらを見上げている。

 まだ、おかしいままなのかを心配しているのだろう。

 だが、こんな話を聞いていると、流石に理性が戻っていた。

 ミラの頭を撫でつつも、その場に居座る。


「ま、まさか、寮に入れたんですか!?」

「当然でしょう!! 何を言っているのですか。入れない理由が何処にありますか!」


 そうだ! 当たり前の権利だ!

 ふざけた事を抜かしてると、お仕置きしちゃうぞぉ。


「そんなぁ~……」


 そんなメス豚さんは出荷よぉ~!

 さて、どうなるのだろうか。

 先が気になってきたので、スキル『音消し』を発動。

 俺は更にドアに近づいた。


「ランスロットさんは幸いにも優しい心を持っている様です。

 調査した者の話によれば、市民門前に居た100名近い物乞いの子供達を自分の資産で保護し、自発的にオーガの討伐に向かい、その挙句、ゴブリンに襲われそうな遠い村にまで足を運び、報酬無しで助けた方ですから」


 な、何でそんな事まで知ってるんだよぉ。

 あっ、ギルドへの依頼を取り下げに来た村人が言ったのか……

 追加金出したとか言ってたし、そりゃ取り返しに来るか……

 確かにミラを助けてからもう五日くらいは経ってるし、おかしくは無いか。


「そ、そんなに実績が……おばあさまぁ……どうしよぉ~」

「そう言いたいのはこっちです! それほどの冒険者にこれ以上何かあれば国を出るとまで言わせたのですよ。その事にうちが関わっていると知られたら周りになんて言われることやら……」

「だ、だってぇ……」


 おお、水面下で俺の株が上昇してる。ストップ高万歳。

 それに今の所だけど、ポーションもアクセサリーも話が出回ってない所が嬉しい。皆、約束守ってくれてんだな。

 うん。何か気分も良くなったし、部屋に戻ろう。


「結局、何がしたかったの?」

「誰かとエッチ」

「……この、スケベ」


 あ、しまった。つい言ってしまった。しかも、そんな事を口走ったのに優しいジト目でそんなこと言われたらムラムラが……さっきの神化した映像が……

 まて、やめろ、そう……考えるのを止めろ。そう、ムラムラではない。村々だ。

 えっと、村々……村々……

 あっ、他にも襲われる村があったな。次はオークに襲われる村に行こう。

 うん。そっちのが確実じゃね? ちょっと遠いけど、国内だし。うん。大丈夫。


 それに皆、口ばっかでやらせてくれねーし。


 ほんと口ばっか……


「くち……っ!?」

「どっ、どうしたの?」 


 ……お口でご奉仕。ああ、それだ! 


 そうして、俺は目先のエロい事に囚われながら、寮生活一日目を過ごした。


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