第12話やっとレベル上げにいけたよ。
装備が完成して、一息つくと大変な事を思い出した。
今日は少年達との約束の日。時計を見れば12時を回っていた。
流石におっさんに頼んでいるとはいえ初日に居ないってのは無いだろう。急いで彼らの元へと走る。
着いてみれば、小さなお城の前におっさんと子供達が立っていた。
「すいません。取引で遅れてしまいました」
気まずさから仕事アピールをしつつも輪に入っていく。
「おうっ、あんちゃんこれすげぇなぁ。どうやったんでいっ」
「魔法ですよ、魔法。ってただのハリボテで中に何もありませんけどね」
おっさんは『おう、見た見た。それでもすげぇだろ』と快活に笑う。
子供達も困惑の表情からある程度気持を持ち直したようだ。結構待たせていたのだろうな。
「じゃあ、お前達。これから彼が先生となって畑の作り方を教えてくれる。失礼な事は言わず、教えて貰った事を頑張って覚えるように」
はいっ。と元気な声が響く。まだ、骨と皮だけななのがすっごく目立つが、飯を食ってるからか、声は出るようだ。
「あと、お前達はご飯を食べられなかったせいで力が出ない体になっている。ご飯一杯食べて動けるようになるまでは疲れたら自由に休むように。忘れるなよ?」
おっさんが驚いた様にこちらを向く。『死んでしまったら教えた事がパアですからね』と彼に軽く答えて話を進めた。
「とりあえず、俺はご飯買いに行って来るからお前達は先生の言う事を聞いて畑を作りを開始しろ」
「おーい、先生ってのはやめろってぇ。俺はロドってんだ。ロドさんって呼べ、分かったなわっぱども!」
ロドさんにゆっくりペースで良いから指示してやってくれと頼み、市民街で荷車を買い、食料、家電の変わりになる魔道具、服、などをガッツリ買い込んだ。
もうそれは無駄になるんじゃないかってくらいに。
だが、金貨は10枚しか減らなかった。
芸術的に積み上げられた荷車を引き、彼らのところへと戻った。
少年達は俺のやることに慣れて来たのか目を輝かせては居るが、おっさんはたまげてしまったようだ。
「お、おまっ! これっ、どうすんだ?」
基本魔道具は小さい。だが、色々と買った中には大きいものもある。冷蔵庫として使うものは当然中に入れなくてはならないので箱型で大きい。他にレンジの変わりや、トイレなどもある程度の大きさとなる。乗り切らないので冷蔵庫三つの中に食料品をぶち込み四つのレンジの中に衣服をぶち込み五つのトイレを積み上げとかなり頑張った。服が入りきらなくて古新聞みたいに縛って積み上げてる。
「どうするって、この人数が生活するなら必要でしょう?」
「あ、ああ? うちにはトイレや冷蔵魔具はあるけんど、レンジなんてねぇぞ?」
「では一つ持って帰ってください。あったら便利でしょうし。これからお世話になりますしね」
変わってるなぁと連呼しつつも喜んでいたのでよしとしよう。
俺は一人城の中に入り、内装を変えていく。
『クリエイトストーン』を使い床を石で固め、ついでに家具を置く棚類や大きなテーブルと椅子を作った。次に『クリエイトアイアン』を多用して食器類を作成。石より鉄の方が壊れないと思うが、買ってきた鉱石の量が足りないので後にしよう。
どちらにしても冷たいと思うがそこは我慢して貰おう。その分寝床は暖かくなっているし、服も与えるから大丈夫だろう。
これで内装が結構まともになった。だだっ広い空間だが、フォックス皮の大きな寝床と、食堂の様な細長いテーブルが並び、壁際には冷蔵庫とレンジが並び、トイレも五つ設置した。しっかりと個室になっているので、外からは見えない。トイレは匂いを消す魔道具と排水する魔道具の複合だ。なので外に穴を掘り、そこに落とすようにパイプを作り繋げた。
キッチンも大きめに作った。両側から使える広いシステムキッチン石仕様だ。
火を起こす魔道具も設置。水を出す魔道具も設置。排水に城の外に井戸の様な穴も掘った。
後は部屋の中と外に一つずつ大きな時計もつけた。あいつらがいつまで仕事すれば良いのか分からなくなっちまうからな。
まだまだ空間的に余っていて寂しいが、あいつらが中に入ればある程度埋まるだろう。
「よーし、お前達お昼だー、休憩にすんぞー」
そう伝えて彼らを集める。正直もうお昼はとっくに過ぎて15時を回ってる。
おっさんが休ませたかは知らないが三時間近く仕事をしていただろう。
とりあえず食事を与えて休ませる事にした。
積み上げられた衣服を一人一セット取らせて中で着させた。物凄く汚いので新品が汚れてしまうが、風呂も無いので着せてしまった。
だが、ここで買い忘れたものに気がついた。
靴がない。この辛さは知っている。この世界に来た時、靴下のみで数キロ歩いたから。
靴が無いのって辛いんだぜ? これは今日中に買ってこよう。だがその前に飯だ。
俺は漫画やアニメであるような食材を空中に投げて切るという離れ業を披露して結構盛り上がった。失敗するかと思ったら普通に綺麗に切れて逆にびっくりした。流石ゲーム世界。
作る予定になっている調味料をふんだんに使い、皆に説明しながら肉や野菜をふるまった。俺とおっさんを含め87人分も作るのは相当厳しいかと思われたが、俺が先生役となり、自分達で調味料をふらせて焼かせてやれば、割とすんなりと終わった。
キッチンを広くして、コンロを10個も設置した甲斐があったな。
日本では普通の家でも三つついてたりするから多めに買ったのだ。
因みにフライパンやらは俺のお手製。鉄のみだから取っ手まで熱くなる残念性能だ。冷えるまで触るなと言ってあるし、火傷くらいならすぐ治せるし大丈夫だろう。
おっさんも何故か大喜びだった。次は酒を頼むと何故か彼もこの家の住人みたくなっていた。
飯の時間とは別に1時間ほど休憩を取らせて再び開始した。5時回っていたので19時で今日は終りにするようにと告げる。
普段は9時から12時までそこから一時間休憩して13時から16時までだと言うこと伝えた。やる気に漲っていたから今日はやらせたが、子供なのだからその程度でいいだろう。
おっさんにもそれで済む程度に畑を使ってくれとお願いする。
人数が多すぎるからその時間で十分だろうと言っていたので問題はなさそうだ。
その隙に靴を買い最後に配った。
「明日から当分来れないけど、そのうち見に来るからな。無理しない程度に頑張れよ」
そう継げて、念の為に最初に話をした少年に大銀貨で手持ちの全てである6枚渡しておいた。何か皆に必要なものがあれば好きに使っていいと告げて。
◆◇◆◇◆
宿屋に戻り、あいつらの楽しそうな顔が頭に浮かんだ。
だが、同時に不安も過ぎる。
ここ数日、まともにレベル上げ出来てない。装備の為にと迷宮からすぐ戻ってしまったので、アルールを出てからレベル上げをしていなかった。
装備がそろってチートが追加された様なものなので、停滞している訳では無いのだが、いつどんなイベントが起こるか分からないと考えると、ただ強くなる事に全力疾走するべきなんじゃないかとも思う。
「まあ、明日だ。明日からはガチでやろう」
脅迫観念からか自然と言葉が口に出る。
人妻美女の作った夕食を食べて、横になると、ふと思う。
こっち来てからありえないくらい変わったな。お店と交渉したり、土地を借りたり、自分で作ったものを直接売りに行ったり、日本に置き換えて想像したら鳥肌が出るほどにありえないわ。
はは、実は外見すらも変わっていたりしてな。
……そう言えば鏡見たこと無いけど、大丈夫だよな?
この世界で、今のところまだ鏡を見ていない。
アルールの道具屋とかには売ってなかったし。こっちの道具屋は買いたいものが決まっている状態でしか行ってないから物色してない。
クリエイトで作ってみるか?
いや、見たところでだよな。
顔面偏差値の差で萎えそう。変わってなくて萎えそう。
てか、素材全部使っちゃったし? 今作れないし? あとだあと、後回し。
寝よ寝よ。
◆◇◆◇◆
「よっしゃぁ! 45階層制覇!」
昨日の不安から、狩り方を変える事にした。
とはいえ、魔石を拾わず最高効率でこの迷宮を駆け抜けようというだけの話だが。
お金なら有り余っているのだ。正直こんなにあっても今の所使い道が無い。
奴隷の女の子を一杯買うのもありだが、そもそも奴隷がどういう風な感じなのかが分からない。何を何処までしていいのかということだ。そんな事を聞ける相手もいないし、物乞いの子らを見たせいか、奴隷の可愛そうな子たちを見るのも少し怖い。貧民街辺りで売っていたりするのだろうか……いや、考えるのやめよ。
なわけで、今は何も考えずひたすら効率厨目指して頑張っている。
実際アホみたいに早い。今の所全て魔法で一発。念じるだけ。ただ駆け抜けてます。良さ気なドロップが目に付けば拾っているが。というかここのドロップは見逃せないものがあってちょっと効率落ちている。
アイテム名、堕落の昇天。
これはそう、男の素敵アイテム、媚薬だ。
説明文にはこれを塗られた女性は我慢出来なくなる。とだけ記載されていた。どこに? 何を? と想像を沸きたてられたものも少なくないだろう。
掻く言う俺もそのひとりだ。
そんな俺が、このドロップを確認してしまったのだ。それはもう効率が落ちても拾うってものだろう。しかもいいドロップ率だ。計11個ゲットした。大切にしまっておこう。
まだ使う相手もいないし。
因みに落とす魔物はインキュバス。サキュバスの方は精力剤が出る。何故かどちらも少量のMP回復効果が隠し効果としてついている。
大抵この階層でパーティー狩りすると『ねえ、媚薬飲んでいい?』と誰かが聞く。大抵俺は『なんだ? もう我慢が出来なくなったのか』と返していた。
ちょっと道草を食ったが再スタートだ。これほどの素敵アイテムは他にもう無い。ここから完全制覇まではもうすぐだろう。
と思ったら次はサキュバスだった。一応精力剤も貰っておこう。こっちは3個でいいや、有り余ってるし。
もう47階層だ。『ソナー』
そう言えば45階から上は悪魔シリーズだったな。ダークゲイザーか。
『ライトニングボルト』うん。一撃だ。
ほいほいほいほい、っと倒し捲くってこの階も制覇っと。
48階層がトロール、49階層ケルベロス。50階層、デーモン。
おーし! 後はボス倒して完全制覇だな。
扉でけぇ~、確かにグラフィックでもでかかったけど。
おおう、ボスもでけぇな。確かに縮尺を考えるとこんなもんか。
二階建ての一軒家ほどか?
200レベルボス、ベヒーモスがこちらに気がつき顔を上げた。
「グォォォ」
こういうのは初撃で落とすつもりで撃つに限る。
「『シールド』『マジックシールド』『フォートレス』『マジックバリア』『リフレクトシールド』『グラビティフィールド』『スロウ』『スワンプ』『魔力増幅』『メテオ』『フレアバースト』『フレアバースト』『フレアバースト』『フレアバースト』」
ええっ!? マジで? 適正パーティだと、上位魔法十数発は必要なのに。その間は勿論前衛が攻撃してだ。ゲームだとクールタイムがあるから結構な時間多職も攻撃してるってのに。
5発程度でいけちゃうのか。増幅入れてるからメテオダメージは結構加算されてるから、6発必要かもな。これなら一人でも大型結構削れそうだ。遠くから連発だけで倒せるかも。
ただ、俺メインキャラ前衛なのよね。それでいいの? って命に代えられないしそんな所で意地張って命かける気はないけど。
あ、流石にボスのドロップは確認しなきゃな。
あふっ、ゴミ泥。
ベヒーモスの角だ。ボス泥でありながらも店売りされる悲しい品。
ってそれだけかよ! しゃーなしだな。帰ろう帰ろう。
魔石だけを袋に入れて、身軽な状態のままその場を後にした。
◆◇◆◇◆
もう16時か。急いでも変わらない時間になってしまったので、歩いて地上を目指した。階を上がるごとにホントにリポップしないんだなぁと実感する。
20階層についてそこから階段を降りていくとふと声が聞こえた。
「まってぇ、ごめんなさい! もう無いの魔力が無いのよぉ! やだぁ、死にたくない! 死にたくないぃぃ!」
ま、マジか。ど、どこだ? 『ソナー』向こうの方向だと、確かこっちの道だったよな?
全力疾走でいると思われる場所に向かう。視界の開けた先には斧を振り上げたグリーンオークが女性冒険者に振り下ろそうとしている所だった。
「いやぁぁぁぁぁぁ」
オークの斧が彼女の腕に振り下ろされる。絶対に間に合わない。だけど、切られるのがあの場所ならなんとか命は助けられそうだ。
ダッシュで走って近寄り、グリーンオークを蹴っ飛ばして彼女から遠ざけた。
腕を落とされ、そのままわき腹に刺さった斧を取っ払って魔法を唱える。
「『エクスヒーリング』」
せめて命だけでも助けてやろう、と唱えた魔法だが失った腕まで再生された。
え? マジで? と下に落ちている彼女の腕をみた。うん。落ちてる。
マジかよ、部位欠損まで治すのかよ、すげーな『エクスヒーリング』は。
ああ、そんな事考えている場合じゃない。もう一人居たよな。
気を失った彼女を抱えて剣を抜き、吹き飛ばしたオークの首を飛ばしつつ、もう一人の居場所を探しに先に進む。
「いやぁぁぁ、くるなぁ! くるなぁ!」
すぐ先の道を曲がった所にいた。
レッドオークか。グリーンオークも三体居るな。
彼女の後ろに倒れた女性が二人。叫んでいる子が牽制というよりむちゃくちゃに剣を振り回して、近寄れないようにしている。
ああ、これなら何とか間に合いそうだ。
どうせならば、カッコ良く助けてみよう。
そうすれば、きっとこの醜い外見もちっとはマシに見えるだろう。
必死な彼女が知ったら怒りそうな事を考えつつも『隠密』を起動しながらオークと彼女の間に入った。
彼女の方を向き『隠密』を解除して変わりに『シールド』を展開した。
「キミの声が聞こえた。手助けは必要かい?」
俺は全力でさわやかさをだそうとニカッっと笑った。自分のやっている演技に自分で笑いそうになってしまうが必至に堪えた。
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