第9話何故、女の子がいない。くそう(心の声)

 門を通り抜けたはいいが、そこは農村地帯。どうみても村じゃないですかね? 

 門の内側に居る門兵さんに問いかけると、結構な勢いで笑われた。


「余所者で物を知らん奴だと思われるからもう聞くのはやめときな。王都は城以外にも貴族門、市民門、外門の三つに分かれてるんだ。ここは外門。市民門潜ればお目当てのものが見れるだろうさ」


 そこまで教えてくれればもう聞かないって。でも助かったな。ゲームだとそんなの無かったからなぁ。また差異を発見してしまった。やっぱりただの似た世界と思っておいた方がいいかな。


 まあ、何にしても今日は宿とって寝たいし、ちゃっちゃと町の中に行こう。

 小走りにボチボチと古めかしい民家と畑が並ぶ道を走っていく。

 そして、堀を張り巡らされた大きな外壁が見えてきた。堀から門までは大きな橋が架かっている。流石魔物を想定しているからか、堀も広く深い。

 これが市民門ってやつだろう。

 見えてきた橋に目を向けていると、橋の両脇に人が座っていた。

 あれか? バザー的なやつ?

 そう思って近づいて行ったが、実際に見えたのは見当違いなものだった。


 小さな子供が箱の様な物を目の前において、土下座し始めた。

 よく見れば全員男の子だ。顔を一人一人伺っていくと大凡だが、5才から15才程度だろうか? 恐らくだが、やっている事は物乞いだろう。

 どうしてこんな人数がそんな事になっているのかが気になった。少なく見ても30人は居る。

 一番年齢が高そうな子の隣に腰を下ろした。

 少年の肩がビクリと震える。


「ああ、話を聞きたいだけなんだ。御代も出すよ。酷い事はしないから付き合ってくれない?」

「は、はい。喜んで」


 うん。受け答えもしっかりしている。どうしてだろう。

 話を聞いていくとここにいるのは大半が娼婦の子供らしい。ある程度顔立ちがはっきりするまでは育てられて、男の場合に限り、容姿が相当良くない限り捨てられるのだとか。


 そういった子供は技能も無いし雇ってくれる場所などない。結果、盗みを働いて生きていくしかない。見つかると追い出される。こっちでは盗むものが収穫期以外は殆どない。そしてここで盗みがバレればもう外だ。生きていけない事は子供にでもわかる。農作物の手伝いにあぶれた子供は生きる為には物乞いをするくらいしかやれる事がないのだとか。


 ここで頭を下げているのは従順に働きますという意思表示でもあるのだそうだ。 

 知りたいことをしっかりと教えてくれた彼には銀貨2枚渡した。銅貨200枚あればとうぶん飯は食えるだろう。

 日本で生きてきたからか、こういう痩せすぎた子供とか見るとどうしても助けてあげたくなっちゃうなぁ。しかも親いないんだろ?

 何か考えて商売でもするか?


 そんな事を考えながら一人銀貨一枚ずつ箱に入れていった。

 一人一人大きな声で『ありがとうございます!』と叫ぶ様が更に切なくさせた。

 こんなにとか、銅貨の間違いじゃ、とか問いかける子達に大声で言わないよう言い聞かせた。案の定門兵にあざ笑う様な声をかけられた。


「おいおい、銅貨一枚でもあれだけあれば結構な金だぜ? 捨てるくらいなら俺にくれよ」

「じゃあはい」


 と、彼には銅貨一枚渡した。ほくそ笑みながら。

 この世界に来てから人に気安く接しられるようになったな。

 力を得たからか? 相変わらずの浅ましさだな。


 そして町の中に入り、まずは宿探しから。

 と思ったが、宿屋は一杯あるだろうし情報を得る為にとりあえずギルドに移動。依頼書にも適当に目を通してからカウンターへ行った。

 ギルドカードとオークの魔石を差し出す。


「これの換金と、出来たら評判のいい宿屋があれば教えて欲しい。銀貨一枚程度で」


 受付穣はギルドカードを見ながら魔石の大きさを確認している。


「畏まりました……ギルドランクの更新は致しますか?」


 うんと、利点あるんかな? あ、いや、やっておこう。迷宮産の魔石を換金する時に逆に目立っちゃう……いや、100レベル上をごろごろ持ってきたらどっちにしても目立つか。金稼ぐには目立たないルートは厳しいな。

 金はあるんだし、魔石は少量換金して残りは宿にでも置いておけばいいか。

 ランクの更新は今やっておいてここからは当分止めておこう。


「では、お願いします」

「では、こちらに手を置いて頂けますか?」


 そう促され『アビリティギフト』の上に手を置く。

 そしてカウンターのお姉さんは二度見した。思わず笑いそうになるほど見事な二度見だった。だが、何がおかしいのだろうか。多分Cランク辺りだよな?


「ずっと、ランク更新されていなかったのですね。おめでとう御座います。ランスロット様の冒険者ランクはBランク、一流冒険者の仲間入りとなります」

「あはは、お金にならない事には無頓着でして」


 なるほど、たまにそういう方もいらっしゃいます。などと笑顔で対応してくれた。

 そうか80~99がBだったわ。120レベルばかすか狩ってればいくわな。

 70レベルくらいまで本当にサクサク上がるゲームだったし。

 そして新たなカードが渡された。作りが少し豪華になっている。それをポケットに突っ込み、宿の話を聞いた。銀貨1枚なら普通の宿に泊まれると言われた。流石王都。安宿でも銅貨50枚とかになるそうだ。

 そしてお姉さんのお勧めは陽光の木漏れ日亭という宿。

 清潔感があり、名の通り日当たりが良く、食事もそこそこのを出してくれるらしい。

 道を聞いているとき、この道には入らないようにと言われた事に違和感を覚えて理由を聞く。


「そこから西は貧民街となります。治安も悪く不衛生です。女性を安く買いたい方が行くそうなのですが、私には信じられませんね」


 思いの他憤っている彼女に合わせて言葉を返した。彼氏に浮気でもされたのだろうか。『私が居ながら貧民街の汚い女抱くってどういうことぉ?』みたいな。

 どうでもいいが、睨んでくるの止めてくれない?

 そう思いつつ早々に退散。


 貧民街を見てみるか迷ったが、また心を揺らされそうなので止めておいた。

 宿に入り出迎えたのは厳ついおっさんだ。似合わねぇ店名つけてんじゃねぇよ。いやいや、このおっさんは悪くないか。 


「いらっしゃい。うちは一泊銀貨一枚だ。他は湯、布、蝋燭、飯、全部サービスだ。どうする?」

「一泊お願いします」

「はいよ。ああ、連れ込みするんなら静かにな? 人数は制限しねぇが飯を人数分欲しいんなら当然、別料金だ」


 いい笑顔で言われたが、童貞の俺には苦笑いしか出来ない。

 だが、お勧めだけあって話せるおっさんのようだ。とりあえずエロい事を気にする辺り親近感がわいた。

 丁度飯が出来たところの様で後ろから美人さんが出てきた。


「おう、運がいいな。出来たてだ、持ってきな」


 美人さんに『あなた、出来たわよ』などと声をかけられている。親近感は取り下げだ。

 だが、美人さんが作った飯は高評価だな。うん。

 飯を受け取り部屋へと引っ込んだ。


 食事を取りながらこれからの事を考えた。正直大迷宮に籠もって200Lvまであげればもう心配は無い。事もないか。大型ボスが順番無視して出てきたら……って待て待てソロるの? あの皆で叩くボスを? あー、考えてなかったぁ。

 いや、チートもらってるけどさ? 

 上げるしかないか。


 にしても、アルールと偉い違いだな。とってもいい町に最初に入れたんだな。

 あの子供達どうしよう。あの子の話じゃ月に一度は誰か死ぬ的な感じだったしな。それにまだまだ居るらしいし。

 ユーカの言ってた事が良く分かったわ。あの子供達がお金はあるけど休みが無い事を愚痴られたら切れるか泣くんじゃないかな。

 だけど、お金上げるのも違うんだよなぁ。

 他の町に連れ出せても『カルマの光』で引っかかるだろうし。

 あれだ、異世界チートよろしくで村でも作っちまうか? でも俺なんかにそんな能力はなぁ……あれだ、戦争は出来ても侵略後の統治が出来ない的なやつ。

 一番いいのはこの町で商人とかにコネ作ってあの農業地帯に仕事できる場所を作る事だ。全うに生きてれば10年でまたなかに入れるし。ってなげぇな。

 まあ、盗みで追い出されたんじゃ、あいつらが悪い……とは言いたくないな。

 悪いのは親だ。生んだらある程度責任もてっての。

 うちの両親見習え。それはダメか。彼らが引き篭もりになってしまう。

 ならなかったらならなかったで俺が精神的ダメージを負う。


 ああ、外の土地借りてあいつ等に農業やらせればいいんじゃね?

 飢えないしある程度金になるだろ。人数いるんだし手広く借りて次の年からは自分達で土地代払えってすればやっていけるだろ。一応農家の人に金渡して教師として人を寄越してもらえばマジいけそう。幾らいるだろうなぁ。

 日本じゃ絶対こんな慈善事業みたいな真似しなかったけど、さくっと作れるポーション40本が金貨10枚で売れるし金貨2枚でミスリルの原石買えば金貨数百枚くらいいける。その程度の手間で手に入るのなら、自分の自己満足で不快なものを無くすのは可笑しな事じゃないだろう。


 金払いさえ済ませれば数日でいけそうな予感。明日大迷宮行く前にあいつ等にその意思があるかを聞いてみるか。

 そんな考え煮詰めていると、いつの間にか眠りに落ちていた。


 ◆◇◆◇◆



 朝七時、やりたい事があるおかげでさくっと起きられた。だが、門の近くに来て初めて気がつく。開いてるのかと。その気苦労は徒労に終わった。

 アルールよりも開いている時間が長かった。必要なのだろう。

 朝6時から夜19時までだそうだ。


 門兵との軽い雑談を終えて橋にたどり着いた。が、ちらほらしか人が居ない。この時間は余り人が通らないから美味しくないのだろう。昨日銀貨を上げた子達がちらほらこちらを見ている。その中の数人がこちらに寄ってきた。


「あの、ありがとうございました」


 一斉に頭を下げられて逆にこっちが言葉を失ってしまった。俺としてはクレクレ君が近寄ってきたのでファイナルアンサーとか思っていたのだ。


「おう、お前達全員に話したい事があるんだ。と言っても強制じゃないし聞くだけ聞いて断っても構わない。勿論昨日の金を返せなんて絶対に言わない。だから聞いても良いって人を集めてくれるか?」


 子供達はキョロキョロと自分の仲間を見渡し、どうしていいか分からない様子だ。昨日話を聞いた子供が前に出てきた。


「あのう。昨日居なかった子達は来ないと思います。中の人を怖がっているので。僕が間に入ってはダメですか?」

「そう言うなら頼んでいいか? お前達にはとても良い話になると思うんだ」


 そう前置きをして彼らに説明を始める。


「まず、俺が仕事を用意してやったらやる気があるのか。それが無い奴は聞く必要は無い。勿論教われば誰でも出来る仕事だ。罪になる様な事は一切やらせないし、教えてくれる人材も用意する。簡単に言えば、一緒に仕事をしてお金を稼ごうって事だな」


 全員の目が見開き過ぎて怖い。


「毎日ご飯食べられますか?」


 小さな子供が尋ねた。


「おう、それは俺が約束する。仕事をさせている間は儲けが出なくても朝と夜のご飯が食べられる分の金はやる。儲けが少しでもでたらその倍以上は出してやるぞ」


 全員が一斉に頭を下げた。お願いしますと。


「分かった。やる仕事は多分農業。畑を耕す事になると思う。多分というのは商人達に話を通して認められる必要があるからだ。まあ俺がやりたい事は商売だ。畑がダメでも何か考えて仕事は回すつもりでいる。だからこそお前達にやる気があるのかを知りたい。やりたい奴は全員雇う。だから心配せずに話をまわして欲しい」


 ここの農家たちはまず間違いなく元締めがいるだろう。全員が完全に個人でやっているということは無い筈。仮にそうだったとしても、商人たちと作るものの相談くらいはしてるはずだ。

 そして商人にもヒエラルキーがあり、美味しい所を持っていこうとするとこういう閉じた空間では叩かれてしまうもの。

 俺が求めるのはこいつらが食っていける輪の作成。変に儲けを考える必要はない。

 とはいえ製造だけでなく、出荷場所の確立までは俺が手を回さないといけないだろう。

 となると、行き先は商会? いや、その前に商人ギルドか。そっちで登録して情報を得てからの農協的な商会へだな。土地の借用はどこだろうか。国の機関だとは思うが……それもギルドの方で聞いておこう。


「あのう。いつからでしょうか?」


 そうだ。それを伝えないといけないんだな。


「三日後だ。それまでには何とか調整をつけておく。それを超えるようならその日から飯代は出してやる」


 はしゃぐ子供たち、だが、一番年長であろう彼だけは少し表情が優れない。

 良い話過ぎて怖いのだろうか。


「おい、そこのお前、ちょっとまた聞きたい事があるんだが、いいか?」

「は、はいっ!」


 すぐにでも死んでしまいそうなもの、その気があるのに働く事が厳しいものは居るのか問いかけた。


「いっぱい、居ます……」

「怪我でも病気でも治してやる。案内してくれ」


 彼は少し首を傾け続けながらも外門の壁沿いにあるほぼ屋根しかないあばら家に案内してくれた。


 これは酷い……

 申し訳程度に下半身に布を巻いた骨と皮だけの地面に転がる子らがいた。


「『サンクチュアリ』『フルキュアー』『ブレッシング』」


 これで、怪我、病気、雑多な状態異常は治る。

 魔物いないし、流石に呪いは受けていないだろう。という事で除外。

 だが、栄養不足からの回復は時間が掛かるだろう。

 案内してくれた彼に追加で銀貨8枚渡した。

 もっと渡すには崩さないと無い。だが、金貨を渡しては少々危険かもしれない。

 きっと奪われたりしたら怖くなって逃げてしまうだろうし。


「三日この子らにご飯を食べさせてやってくれないか?」

「こ、こんなにっ!?」

「ああ、他にも食べたい奴全員分だ。しっかりやってくれたら三日後にまたお小遣いをやる。頼めるか?」


 ブンブンと首を縦に振る少年。


「あの、どうしてそんなに良くしてくれるのですか?」

「そりゃ、あれだ。良くして貰ったら信用が出来るだろう? まあ、敵を作ろうとするより味方一杯作った方が人生楽しいんだよ。それにこれは施しじゃないぞ? お互いに働いて儲けるんだ。お前達と一緒にな」


 うーん、いまいち表情が優れないな。何を気にしてるんだか。


「僕達に出来ますか?」

「ああ、最初は出来なくてもいいぞ? 金なら出してやる。もっと先を見てるからな。お前達が成長して体が出来て頭も良くなってそん時に儲けが出てくれればいい。んでそんとき俺が困ってたら助けてくれ。まあ、俺が困る事なんて無いがな。ガハハ」


 ガハハはまずいな。無いわ。

 あっ、でも元気になったっぽいな。

 よし。じゃあギルド行くか。

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