第8話きっとこれは罠だ。スルーしようと思う。

 小鳥の囀り亭を出て、門に向かう。

 あれから飯食ったら眠くなって普通に寝れたので、朝一番で町を出ようかと思ったが、もうちょっとだけ居て欲しいとせがまれて結局もう11時だ。

 おかげでユミルともある程度仲良くなった。次に泊まりにくるのが楽しみで仕方がない。

 こんなモテ期到来は初めてなので自分でも気持ち悪いくらい心が躍る。

 もうこのままあの姉妹を口説き落として姉妹丼ルートで良いのではないかと思うが、誰が何をしてきても跳ね除けられる強さが欲しい。

 ゲームの時の様に、大規模討伐イベントや、大型ボスイベントなどがこっちでも来るようなら、今のままだと普通に死ねるのだから。

 レベルカンスト達成してから攫いに来よう。

 でもカンストは遠いな……ちょっと無理しちゃおうかな。

 ……ルーフェンの近場だと高Lv狩場は一つも無いし。


 素通りして王都へ行っちまうか? あそこなら大迷宮と呼ばれる巨大ダンジョンがある。この前に行った地下墓地みたいに6階層程度ではない。

 地下墓地より階層は狭いが、それでも50階層まであるガチな大型ダンジョンだ。

 最深部は適正200レベルと高レベルダンジョン。レベルキャップが200で長い事止まっていたから、通い捲くった馴染みの深いところだ。

 うん。そうしよう。迷宮の方が移動無しで楽だし。


「おーい!」


 王都に行くって事は街道使わない方が早いな。てか、移動が走りってだるいなぁ。これから何時間走る事になるんだろ……


「おーーい!」

「えっ? ああ、こんにちわ」

「お、おう。昨日はありがとう。お前のおかげで大切な人の命を救えた。心より感謝する」


 声をかけて来たのは衛兵さんだった。

 隣に女の子が、ってガチガチに鎧着込んでるじゃないか。違和感がぱない。

 この子も兵士なのかな?


「それは良かった。では、俺はこれで」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。是非ともお礼を伝えたいって人が居るんだ。話する時間だけでも貰えないか?」

「えーと、一応用事があるので、この場で済むのであれば……」


 そう、じゃあ今から領主の館まで、なんて言われたら困るのだ。

 けど多分そう言われているんだろうなぁ……彼には少し悪い気もするが、ここは断固として断ろう。


「あの、お初にお目にかかります。私、この町の騎士団団長を務めるエリーゼ・アルールと申します」

「あ、どうも、私は冒険者のランスです」


 うん。語呂的にランスはセーフな気がする。

 って、アルール? 領主じゃねぇか!

 逃亡失敗。マジか……まさか、領主の系譜自らの出待ちパターンだったとは……

 って、子供騎士団長とか何それカッコいい。どうせめっちゃ強いんだろ?


「このたびは私の命と兵士の命を救ってくださり、深く感謝致します。自由を尊ぶ方とお聞きいたしまして、足を運ばせていただきました。お時間を頂いてしまう事何卒ご容赦ください」


 あ、これ、弱いパターンだ。この町の防衛で瀕死は流石に弱いパターンだ。


「これはご丁寧に。お言葉は謹んでお受け取りさせて頂きます。ですが、あれは町を守る方々へのお返しとして渡したものですので、それに対してこれ以上お礼を用意する必要は御座いません」


 ってこんな子供だましの言い訳じゃ通用しないだろうなぁ。

 いや、通用するなら逆に信じれるかもしれん。利用する目的じゃなく本当に礼を言いに来たと思えるから。まあ、その場合このままバイバイだからどっちにしても縁は無いんだけど。


「ああ、ハンスの言っていた通り、なんて高貴なお方……下心を持って近づいた自分が恥ずかしい」


 えっ? 暴露してくるパターンは想定してなかったけど……

 どうしよう。素直そうだし聞いてみるか。


「ええと、差し支えなければ、何をさせたかったのかをお尋ねしても?」

「……わ、わた、わたわた」

「え? わたわた?」


 あ、聞き返したら真っ赤になって止まってしまった。どうしよう。

 お、深呼吸した。


「失礼しました……そ、その……私と結婚してくださいっ!」

「お断りします」


 あ、つい勢いで一刀両断してしまった。

 けど、無理じゃん。絶対お父さん出てくるじゃん。喧嘩になるか利用されるかのどっちかじゃん。

 ほら、衛兵さんも絶句してるよ? これ絶対領主様も知らないパターンだよ。

 あと、ハーレムの夢が潰えるしね。

 でもどうしよう。めっちゃ傷ついてる。フォローしとくか。


「ええと、俺にはなさねばならぬ事があるのです。貴方がどうと言う以前にそれは出来ないのです。魅力的なお話でしたが、それ故に、きっぱりお断りさせて頂きます。気持を揺るがすわけにはまいりませんので」


 そう。強くなってハーレムを築く。その為にこれを受ける訳にはいかんのだよ。

 幾ら金髪のお人形さんレベルな美少女だとしても。

 って見れば見るほど可愛いな。もっと動いて見せてぇ~。


「わ、私じゃダメという事では無いのですか?」

「外見的なお話でしたら貴方ほどの美女を見て断る人はいないでしょうね」

「ま、まぁ……でも、じゃあ何故……」


 何故って世界を揺るがすほどの化け物が居る世界なんだよ。

 それをやり方次第でそれをどうにか出来るんだからやるしかないでしょ。

 他のやつに任せて済むのなら引き篭もりたいけど……それは希望的観測過ぎる気がするし。

 後、仮に折角作ったハーレムメンバーを殺されたりしたら俺が世界壊すよ?

 まだ誰も居ないから安心だけど。って、候補メンバーのユーカが居るじゃん! やったね俺。

 よし、この子単純そうだし、ちょっと勇者の旅立ちっぽくなりきってみるか。通用するかもしれない。

 えーと、一番最初に出てきた大型ボスって何だっけ。

 あー、アダマンタインとかいう巨大亀だったか。その設定でいこう。


「人々の命を守る為に、アダマンタインの凶行を阻止せねばならぬのです」

「あ、アダマンタイン……ですか?」

「はい、山を砕き、大地を割る。と言われる超大型の魔物です」

「そ、そんな魔物が……」


 と、オーバーリアクションに気を良くした俺はノリノリで話し出すが。


「いや、お前、記憶無いんだろ? しかもめっちゃ弱いらしいじゃん」


 彼は先ほどの彼女の告白がお気に召さないみたいだ。

 しかもミアーヌさん俺の情報流しやがった! くっそぉ……

 だが、その情報は古いぜ? 今さっき120レベルレイスの魔石を大量に売って来たから多分評価が変わってるはず。

 って、あっ、衛兵さんがめっちゃ足踏まれてる。

 なるほど、恩人だからビップ待遇ってやつですね。


「ええ、記憶はまだ断片的ですし、凄く弱いです。ですから、だからこそ強くならなきゃいけないのです」

「では、それまでは私がお守り致します。どうかその崇高な旅のお供に」


 ええ~。そうきちゃう? 興味をなくして貰う為に弱いって強調したんだけど。

 ああ、見せた技能はクリエイトポーションだった。強さと関係がねぇ。

 何という失策。


「いえ、貴方にはこの町を守るという使命があるのでしょう? 町の人たちを見捨てると言うおつもりですか?」


 ふっふっふ。これで何も言えまい騎士団長様よ。

 もうこの町に戦力が居ない事は分かっているのですよ。

 衛兵さんも機嫌を直したっぽいし。

 ここら辺でお暇しよう。


「では、私はこれで……」

「あっ、諦められないです!」


 ええぇ~……どうしろってのさ。


「では、どうしますか? 倒して言う事を聞かせますか?」

「えっ? 戦って勝てば言う事を聞いて下さいますの?」


 あ、しまった。

 ええ? マジで言ってる? 

 今までの話の流れだとそんな子じゃないでしょ?

 ああ、あれでいこう、と俺は武器を外して下に置いた。


「では、どうぞ」

「な、何故武器を置いたのです?」

「暴力で言う事を聞かせるのでしょう? 痛みに屈するつもりはありませんが、やるというのであれば」


 一応『シールド』掛けておこう。叩いてきたら縁切りだな。

 もう構ってもあげないんだからねっ。


「そ、そんな……勝負して勝ったらと言う話だと……」

「そうでしたか。早とちりをしてしまいました。ではこれで失礼」


 と、武器を拾い踵を返す。


「ちょっと待ってくれ」


 衛兵さんの声がして再び振り返る。

 いい加減呼び止め続けるの止めてくれませんかね?

 去るタイミング掴むの難しいんだけど。


「領主様から、もしこの地に留まらずに去ってしまう様であればこの金を渡してくれ、と言われている。知らないかもしれないが、貴族様にとってこうした事に礼を返さないのは物凄い恥なんだ。せめてこれだけは受け取って欲しい」


 あー、俺が言った理由じゃ弱いからダメって事か。

 そりゃそうだわな。

 って、よく見ればポーションの御礼としての書状も付いている。

 難癖つけるつもりはありませんという意思表示だろう。

 そして金額は金貨10枚。一気にお金持ちだ。やったね。


 てか、お父さんも知っているパターンだったか。家の命令で頑張っていたわけね。どうも感じる性格と行動が合わないわけだ。

 ちょっと悪い事をしたな。


「エリーゼ様、ちょっとこちらに来ていただけますか?」

「は、はい……」


 めっちゃ意気消沈してしまっている。罪悪感がぱない。

 ここは奮発して元気出して貰おう。

 ブレスレットの留め金を外し、彼女の手の上にゆっくりと置いた。


「悲しい思いをさせてしまったお詫びです。『物理防御増加』『魔法防御増加』『取得経験値増加』の付与が付いています。きっと貴方の助けになるでしょう。良ければ貰って頂けませんか?」

「そっ、そんな高価なものを私に!?」

「魅力的なエリーゼ様にああ言って貰えて嬉しかったですよ。それを受け止められないのは悲しいですが、せめてお元気で居て欲しいので」


 気持悪いくらいに臭いな。あーくさいくさい。

 けど、女の子ってこういうの好きだろ? ゲームの中だけとか言うなよ?

 ああ、大丈夫。これ、ゲームの様な世界だった。


「あ、あのう……また、お会いすることはできませんかぁ?」


 あ、ヤバイ、泣きそう。ユーカといい、この子といいチョロ過ぎじゃないですかね?

 でもチョロイ子って逆に心配よね。どうせ、一月後とかに会ったら他の男の腕に抱きついてるんだろ?


「ええと、一月以内に一度戻る予定はありますが……」

「……私と会うのはイヤですかぁ?」

「あー、分かりました。では、戻ったら門兵さんに一言宿を告げましょう。それでいいですね?」

「はいっ! お待ちしています。ランス様っ」


 機嫌は直ったが、次の約束を取り付けられてしまった。これが全部計算だったらどうしよう。まあ、そのルートがエリーゼ様の旦那になる事ならまあ悪くないが……


 そして俺は金貨10枚を得てブレスレットを失い、アルールに戻る用事が二つできてしまいつつも王都ハウラーンへと走り出した。


「はぁ、はぁ、流石に4時間の全力疾走は疲れた。てか、レベルアップすげぇな。実際に走り続けられちゃうんだから。『エクスヒーリング』」


 ダメか。疲労にはあんまし効かねぇ。

 足の張った痛みは消えたけど、だるい。

 にしても、領主サイドの対応が思いのほか優しかったし、あんまり隠す必要もないのかな。

 だが断る、からの無礼者! にならないのは意外だった。

 ひけらかすつもりは元々無いから、今程度で必要なら使っていいのかも。

 どうせ大型ボスが出てきたらそんな事言ってられないし。


 さて、さっさとレベル上げてユーカにエッチな悪戯しよ。

 きっと仲良くなったから大丈夫なはず。たぶん。

 やべぇ。めっちゃ捗るわ。もう今から大迷宮いこうかな。

 いやいや、流石に食料は必要だ。ユーカに貰ったお弁当だけじゃ籠もれない。


 あーマップが無いのが不便。

 オークの森越えて暫く来たから半分は余裕で越えてる筈なんだけど。

 まあ、王都付近で合流する街道と街道の間を走ってるからまたがない限りは方向を間違える事は無いし。後は気合入れて走るだけなんだけど。  

 何かついでに出来る事ないかなぁ。鉱山でもあれば寄り道するんだけど、王都の向こう側だしなぁ。しかも遠い。


 転移が出来ないのがネックだよな。このゲーム、帰還魔法陣と課金アイテムの場所を記憶できるアイテム以外に転移は無かったしな。

 だからこそ『ウィンドウォーク』は需要が高かった。スクロールにして他職でも使えるから。それと別で韋駄天も持ってるからメインキャラはゲーム内での移動は早い方だった。だが、こっちの世界は時間の流れが違うからか、その分移動速度も落ちる。この苦痛は慣れるしかないだろうな。

 地下墓地でレベル上げしたおかげでスピードは明らかに上がってるし。


 さて、文句ばかりつけていても如何にもならないし走るか。

 って、見えてきた見えてきた。この街道合流地点を越えればすぐだ。

 おー、外壁が見えた。けど王都のわりにしょぼくね? もっと凄かったはずなんだが……

 だが、開門はされている。とりあえず行ってみよう。


「通交証を出せ。ああ? Fランクが一人旅かよ。よく無事に着いたな」

「街道通って来ましたし、ずっと一人だったわけでもないですよ?」


 出発時はエリーゼ様だったり、魔物追いかけっこしたり。


「ああ、そうかい。まあ、『カルマの光』で審査したばかりなら安心だ。じゃあ、旅人さん王都ハウラーンへようこそ」

「ありがとうございます。お仕事お疲れ様です」


 と、心地よい挨拶を交わして門を通り抜けた。

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