第7話現地妻一号

 流石の俺も24時間は寝れ無いようだ。

 今はまだ夜19時、ポーション作りで足を止められたとはいえ、午前10時には眠りにつけた。9時間なら大体丁度良い睡眠時間だろう。

 と、考えているとキィーとゆっくりと扉が開く音がした。即座に『シールド』『マジックシールド』を展開してみたが、視線を送った先に居る人物を見て警戒を解く。


「夕ご飯ですよぉ、起きてまちゅかぁ?」

「起きてるよ! というかいい加減にしないと怒るからな?」

「あら、夜はお強いのですね? 名も知れぬ旅人さん」


 入って来たのは赤みが強い茶髪をサイドテールにしたチャーミングな女の子。

 彼女はまるで異性を誘うかの様にしなを作りながら隣に腰掛けた。かなりどきどきはするが、経験のない俺でもわかる。これは面白半分でやっているだけだと。

 そう言えば名前も知らないな。このくらいの距離感で来るのだから聞いてもいいかも知れない。

 自分の名前は言いたくないのだが。


「大人をからかうものじゃないよ。お子ちゃま君」

「あー! 何ですかその言い方ぁ! 私は大人です。しっかりと自立してるんですから。皆自立してて偉いねぇって言ってくれるんですかね?」


 お互いに笑みを隠しきれて居ない事を知りながら軽口を叩く。

 そんなやり取りが空気を暖かく感じさせた。

 だが、残念。大人は自立しても偉いなんて言われないのだ。


「そう言えば、名前も聞いていなかったね。聞いても大丈夫?」

「え、もうおふざけ終了なんですか? 残念。じゃあ、この店を切り盛りしつつも看板娘も板前もしちゃってる超絶美少女の名前を教えてあげましょう」


 え? マジで? 凄いな。

 でも、なんか笑顔に陰りが差したな。これはよろしくない。

 この顔は知ってる。諦めだ。俺がもっとも得意な顔だった。

 親にこの顔させるのも得意だった……


「うん? キミがこの美味しい食事を作ってるのか。よし。じゃあこの超絶ブ男のお嫁さんにしてあげよう。幾らだね?」

「あはは、お兄さんよく見ると結構カッコいいよ? 他と違う感じで。まあ、最初に泊まり来た時はかなり微妙だなとか思ったりもしたけど。あっと脱線。うんとこの私、ユーカ様を買いたいのであれば、そうだなぁ……そうだなぁ……」


 あら、失敗したようだ。作り笑顔すら失われてしまった。

 ユーカちゃんか、俺が原因じゃないっぽいけどどうしたのだろう。


 とりあえず、話を聞くか。

 もうすぐ町を出てく予定だし、力技で解決もやろうと思えば出来るだろう。

 店を持った彼女を連れて行く訳にもいかないだろうが、金で済むならある程度何とかできる。衛兵さんに更にポーション売りつければ結構な金額が貰えるだろう。

 一つも助ける義理なんて無いんだけど、この人懐っこい子が気に入っちゃったんだよなぁ。勝手に入ってきたり、からかってきたりとちょっと悪戯が過ぎるが。

 それに何より下心があるからな。ワンチャンあるかも知れんのだ。


「まあ、何かあるなら言ってみなよ。解決してやれるかは分からないけど、相談に乗ったり知識を分けてやる事は出来る」


 ってめっちゃ偉そうに言ったけど、知識なんてほとんどない。と言うか、これでただの勘違いだったらまた切ない思いをしそうだ……

 と言うかこの宿の経営者なら金はあるだろうし、普通に恋愛相談とかされるんじゃ? やめてよ? 死体蹴りみたいなものだからね?


「えへへ、違うよ。大丈夫。

 ただね、こうやって誰かと仲良くなっても、私はここを動けないし皆宿にずっとなんて泊まらないでしょ?

 だからさ、ずっと私はこのままなのかなって……

 毎日毎日料理、お洗濯、掃除、お買い物、料理で何も出来ないから。

 お兄さんみたく、楽しくおしゃべりしてくれる人なんて居ないし」


「そうなのか……どうしてそうなったのか、聞いてもいい?」


 彼女は、ははは、と乾いた笑いを浮かべながらも語ってくれた。


 それから、ゆっくりと彼女の話を聞いていった。

 元冒険者の父と母が職を変えて宿屋の経営を始めた。

 元々病気がちだった姉が病を患って直らなくなったからせめて傍に居られるようにと思い切ったらしい。

 美味しい料理と丁寧なサービスで人気のある宿屋となった。彼女もその頃から手伝いをしていた様だ。そのときは毎日が楽しかったと切なげに語る。


 その幸せは何の前置きも無く突如壊れる事となった。


 父と母が冒険者ギルドから呼び出しを受けた。

 ギルド職員が飛び込むように宿に入り伝えられた言葉は「魔物の襲撃だ。ギルドに来い」だった。だが、父も母も、冒険者はもう辞めたはず。

 どうやらギルドから席を抜いて居なかった事で、領主から冒険者も強制で参加するようにという命令の対象となってしまったのだ。 

 そして三年前のその日、父と母は帰らぬ人となってしまった。

 残されたのは病に侵された姉、宿の切り盛りを永遠と続けていかなければいけない自分、と言う図だった。

 だが、彼女は最後に自分をあざ笑う様に言う。


「正直、持たざるものからしたら殴られかねない悩みですよね。私、こう見えてお金は結構持ってますし……」


 そんな事はないだろう。子供が宿屋の経営を一人で全てやってるなんて相当の不安と苦痛だ。サービス業とは精神面で結構嫌な思いをする。多感な年頃だとより辛いだろう。仕事量も半端じゃない筈だ。それを一人でなんて。

 きっと相当溜め込んでいる。それも麻痺するくらいに。

 だから、多分褒めてやるべきなんじゃないかなと彼女の頭をゆっくり優しく撫でた。

 髪が柔らかい、良いにおい、体も触りたいと言う邪な気持ちはひた隠しにして。


「ユーカは偉いな。良く頑張ってるな。じゃあ、凄く頑張ってるユーカにご褒美上げないとなぁ」

「お、大人にそれは失礼じゃないかな? だからお金は持ってるから自分で買えるんですって。あっ、ダメですよ? 私はそんなにお安くは手に入りませーん」


 その言葉に、近所の人が大人だと褒めてくれると言っていた事を思い出す。

 ああ、俺と同じ気持ちになったのだろう。

 俺は二番煎じか……

 じゃあ、ちょっと本気で手助けしちゃおうかな?


「これでも俺、治療系の魔法がほとんど使えちゃったりするんだよなぁ。お姉さんが元気になればユーカへのご褒美になるんじゃないかなぁ?」


 面と向かって自慢見たく言うのが気が引けたので視線を逸らしながら伝えると、胸倉を捉まれ押し倒された。口と口がつきそうな程に顔が近い。

 え? マジで?


「ほ、本当ですか!? キュアーの上の魔法も使えますか!?」


 彼女は子供だ。余り自分の力を見せるべきではない。

 この世界の人間がどの程度の魔法を使えるかも知らないのだから。

 だが、そう言うのはもういいや。

 どう考えても現時点で騙されてはいないだろう。

 この宿で彼女以外を見た事は無い。

 大人が居るのなら、三日も子供にまかせきりになんて事はしないはずだし。

 何より、これほどに心の近い場所に寄ってきてくれた異性は初めてだ。

 下心は込みだが、出来る事はしてやろう。


「えっと、使えるけど、内緒にしてくれよ? こっちは冗談じゃ済まないから」


 コクコクと頷きながらも彼女は胸倉を両手でつかんだまま起き上がらせ、引きずり回す様に宿屋内を誘導していく。

 カウンターを越えて調理場に入り、更に超えた通路の先にユーカの姉の部屋があった。

 入ってまず感じたのは排泄物の異臭だ。起き上がることが出来ないのだろう。

 ユーカの姉は彼女と違い、ブロンドの髪をしていた。

 痩せすぎて不健康そうな顔になっていなければ、この世界の人たちらしく、美女感が凄いのだろうなと感じる。

 草臥くたびれた体でありながら見せる体の若さが痛々しさをより強く感じさせた。

 コヒューコヒューと呼吸音を繰り返し続けている様に胸が締め付けられる。

 すぐさま楽にしてやろうと魔法をかけた。


「『フルキュアー』」


 疑問に思われないように声に出して魔法を唱えた。淡い回復魔法と同じような色の光がほわほわと揺らめいて消える。

 だが、彼女の様態は変化を見せない。

 ど、どういう事だ? これで直らないとお手上げなんだけど……


「やっぱり、ダメですか……上級キュアポーションでもダメでした」


 歯を食いしばり、目を伏せるユーカ。

 せめて今だけでもともう一つ魔法を唱える。


『サンクチュアリ』


 おなじみの魔法だ。継続回復だからボス戦などの範囲毒や呪いを食らった後衛に使って置くとHP管理が楽になる。少しでもこれで楽になればいいのだが。


「あぁ、うぅ……ユーカ?」

「お、お姉ちゃん!? 声が出るの!?」

「とうとう死んじゃったのかな? 一つも辛くないのは初めてだよ」


 そう言ってはいるが、サンクチュアリに状態異常回復能力は無いから根本的回復はしていない。だけど、キュアーで直らない場合どうしたらいいのだろう。正直レベル的にエリクサーの素材はまだ集められないし。万能薬も近くで取れる素材じゃない。

 何も出来ないのだろうか。


「え? な、何でお客様が居るの!? やだっ、恥ずかしいっ」

「お姉ちゃん、黙ってて。今治療できないか試してもらっているの」

「え、あっ……ご、ごめんなさい……」

「気にしないで。俺としてもキミを直してあげたいから。でも、フルキュアーでダメだともうキュアーじゃダメって事だから」


「『エクスヒーリング』」

 これと言って変わった様子は無いな。当然か。サンクチュアリで回復してんだし。


「『ホーリーベル』『ディスペル』」

「「あっ」」


 呪いを解く『ホーリーベル』では効果が無かったが、魔法系のデバフや、憑依状態を解く『ディスペル』を唱えた所で俺とお姉さんの声が被った。

 彼女が呟く「何かが抜けていった気がします」と。

 ビンゴだ。多分ゴースト系の使ってくる憑依状態が続いて居たのだろう。

 魔法のデバフであれば時間が解決するが、憑依だと最初の頃は教会で払ってもらわないと永遠と解けなかったのだから。

 ステータスのデバフが結構酷いとはいえHPの損失は無いのに、どうして『サンクチュアリ』で楽になったのだろうか。

 ああ、もしかしたらサンクチュアリという聖域内では憑依状態も緩和されるのかも知れないな。魔物が入れない領域だしありえなくない。


「効いた手ごたえがあったので多分これで良くなると思います。後は安静に静養してください」

「ほ、本当? 本当に本当? ねぇ! もう病気にならない?」


 お姉さんの方よりもユーカの方が必至だった。姉が大切なのだろう。

 だが、確約は出来ない。本当は大丈夫だと言ってやりたいのだが。


「ごめん。病気にならないとかは約束できないよ。俺は魔法が使えるだけで全てが分かってる訳じゃない」

「そ、それを聞いて安心した……」

「「えっ?」」


 またお姉さんと声が被った。


「え? 違うよ? だってお医者さんは皆これで大丈夫って言って嘘をついてお金だけ持っていったもの。だから手を尽くしたけど分からないって言われた方が信用出来るって事だよ? 嘘じゃないよ?」


 焦ってるユーカの頭をぽふぽふと撫でて落ち着かせた。

 扱い方が気に入らないのか口を尖らせこっちを睨んでいる。


「さて、俺は部屋に戻るよ。お姉さんに何か作ってやるといい」

「うんっ。分かった!」


 あっ、その前に体拭いてあげたら?

 けどそれを指摘するのも気まずい。

 まあ、俺がいなくなればそこら辺は勝手にやるか。

 うん。気に入ったやつの手助けをしてやるのは気持が良いなと、ユーカと一緒に調理場に入りそのまま部屋に戻った。


 あー……もう完全に自分でばらしていくスタイルになっちゃってるなぁ。

 アクセにポーションに魔法。全て晒しちゃってるやん。

 でも仕方無いじゃん。なついてきた可愛い女の子が辛い思いしてたら助けてやりたいじゃん、ヤリたいじゃん、犯りたいじゃん……

 いや、徒労に終わるまでが下心ありの手助けです。と言うのは良く知ってるんだけど……

 それで後で教室で聞こえてくるんだぜ、神野? うん、良い奴だけどないよねぇ、あの顔は流石になぁ、とか。


 その頃を思い出すともっと非情になるべきだと心の悪魔が勝手に囁きだす。

『やっちゃえよ。今なら断れねぇだろ? 無理やりしたって謝るだけで許してくれるぜ? 恩人を訴えると思うか?』などと。

 って心の悪魔なんて言っちゃってるけど、俺が考えてるだけなんだけどな。

 良い感じに腐ってるな。


 まあ、どちらにしても俺のメンタルでは泣いてる奴に無理やりとか絶対無理。

 あわあわして必至に謝ちゃうわ、きっと。


 いい年したおっさんが『あわっ、あわわっ』とか言っちゃうわ。きっと。


 あ、そう言えば予定だと明日にはこの町を立つ予定だったんだ。お姉さんの経過を見るのはどうしよう。って、そんなに時間が掛かる事は流石にごめんだな。

 ならば予定通り明日出発するか。


 えっとアルールの次はルーフェンか。一応初心者卒業の町って事でレウトやアルールと比べてかなり大きい町だ。

 そこからなら魔物に襲われる村のクエストもどうなっているのか調べられるな。

 ……滅びてないといいけど。


 横になり思考をひと段落させたところで良い匂いがしてきた。

 お姉さんに作った料理が出来たのだろう。そう意識してみるとどうなってるのか気になるな。まだ知り合って三日目、その上たいした関係でもないのにな……

 うん。あの子はキャバ穣の素質があるな。出会ってすぐ貢がせるその才能、恐ろしい。まあ、俺が単純な上に耐性がなく、性欲が強いのだからそっちが原因かも知れないが。

 性欲か。発散させたいなぁ。娼館とかあるのかなやっぱり、日本ですら風俗行った事ないから行くのは怖いけど、あるのか無いのかは知っておきたい所。


 コンコン


 おや? ご飯食べさせるんじゃないの?

 食べ終わったにしては時間的に早いと思うんだけど……

 そう思いつつも「どうぞ~」と声を返した。


「お兄さん、ご飯できたので一緒に食べましょ? 今日はもう流石に寝ないでしょ? 朝までにお腹空いちゃうだろうから」


 あ、言われてみればそうだった。引き篭もってたからそこら辺の間隔がなぁ……

 コンビニなんてもんは無いんだった。


「そこらへん考えてなかったら、助かるよ」

「よし、じゃあ、お姉ちゃんも待ってるからいくよぉ~」


 と、今度は胸倉じゃなく手を取られての移動。ちっちゃいな。けど、毎日仕事してる人の手だ。

 確かに子供だなんて馬鹿にするのは失礼かもな。

 場所は先ほどの部屋ではなくお姉さんの方も身奇麗になっている。

 結構な早業だな。流石宿屋を一人で切り盛りしていただけはある。


「じゃーん、お祝いに豪華なお鍋です! お礼ですのでじゃんじゃん食べて下さいね」


 四角いテーブルを三人で囲む。何故かお姉さんの向かいに俺とユーカだ。病み上がりなんだからついて居てやれよ。と心配しながら見ていると普通にお姉さんが皆の分をよそいだした。

 大丈夫なの? 筋力とか落ちてない? 凄くハラハラするんだけど。

 だが、軽く声をかけても断られてしまった。もてなしたいのだと。


「あの、何とお礼を言って良いのか……本当に有難う御座いました。私からも出来る限りのお礼をさせて頂きます」

「あー、気まぐれというか、ユーカちゃんが気に入ったからというか、お礼は……いらないかな」


 ……畏まられるのに恐縮して言ってしまった。

 本当はエロいお礼が欲しいです。

 でも、十代半ばの少女二人、かたや病み上がりでやせ細った少女。そんな相手にお礼してとエッチな事を強要は出来ない。

 やっぱりあれだな。こういうのは後から言うから罪悪感が厳しいのだろう。最初に約束しておけばいいのだ。きっと。


「えぇ~? お兄さんは私が欲しいんじゃなかったっけぇ?」


 おう、欲しい。でも止めて。そういう話は二人の時にしよ? 

 いやいや、今の俺はお代官様状態。

 ちょっと言って見ようかな? 試しに、試しに……


「こら、ユーカ。貴方まだ子供じゃない。お客様に失礼だよ」


 ……言わせないスタイルきました。


「まあ、将来を見越せば欲しいかな? けど、俺明日にはこの町出るんだよね」

「えっ? なんで? やだっ! やだよ!? ねぇどうして?」

「こらっ、ユーカ止めなってば」


 再び胸倉を捕まれ、揺らされる。

 彼女が好意を持っていてくれる事を強く認識出来た。

 魔が差して初めて異性を正面からギュッと抱きしめた。

 だが、この場にはお姉さんも居る。ここからどうしたら良い?

 えっとお父さん的なイメージだ。そう、それが一番安全。きっと。


「仕事があるんだよ。ユーカだって仕事があるだろう? 本当はもう少しこの町にいたいんだけど、それは出来ないんだ」

「でも、でもぉ……」


 恐る恐るちらりとお姉さんに目をやると、『えっ?』って顔で絶句していた。

 ただのお客さんだと思っていたのだろう。うん俺もそう思ってた。だが、俺の胸の中でユーカはスンスンと鼻を鳴らしている。

 『俺の胸の中で離れたくないと女が泣いている』ああ、なんて甘美な響きだろうか。

 どうやらお姉さんを見るにお父さんぽくは無かった様だ。

 でももうちょっと、もうちょっといいだろ? 暖かいんだよ。柔らかいんだよ。美少女抱きしめるなんて初めてなんだよ!!


「えっと、大丈夫。また来るよ。そうだなぁ。一月以内にまた泊まりに来るからさ」

「ほんとう? 絶対にきてくれる?」


 ああ、絶対だ。だからまたギュッとしていい? ね? お安いでしょ?

 そう思いながらコクリと頷くと『分かった』と言って彼女は体を離した。


「ええと、あっ、そう言えばお名前もまだ伺っていませんでした。私、ユーカの姉で、ユミルと申します」

「あ、はい。俺は冒険者のランスロットと申します」


 うっわぁ、相変わらず名前の違和感がひでぇ。スレが立つレベル。

 異世界転移でおっさんが自分の名前をランスロットって付けた件について。

 あれだ。略してランスにしとくか? それも危険な名前だが。


「冒険者……ですか……」


 と、お姉さんは目を伏せた。両親の事を思い浮かべているのだろうか。

 その隣で何故かユーカが頬を膨らませていた。何故怒っている?

 構って欲しいのかと頬を潰して空気を抜いてみた。『ブフッ』っと空気が抜けると物凄い勢いで叩かれた。乱暴はいけないと思います。


「私には名前教えてくれなかった! お姉ちゃんがいいの? お嫁さんにしてくれるって言ったのに!」

「「えっ?」」


 同時に疑問の声を上げた後ふと、お姉さんと目が合った。

『何このロリコン、そんな事を言っていたの?』

 そう言われている気がした。日本の倫理感からくる強迫観念かもしれないが。


「待てよ。名前言う前に胸倉つかんで無理やり部屋へと引っ張り込んだのはユーカだろう?」


 口元を押さえ『わぁ』と呟いたユミル。少し頬が赤い。

 うむ、どうやらロリコンとかは思われていないようだ。少しワクワクした表情を向けられた。


「そ、そうでした……」


 な、何この沈黙……誤解の解き方が分からない。


「えっと、ユーカ、ランスロットさんとは本当にそう言う関係なの?」


 お姉さんが攻めてきた。


「わ、分かんない。ど、どうなの?」

「いや、如何考えても今はまだ違うだろ? 知り合って三日だし、好意を持っているってだけでまだ何も無いのだし」

「そ、そっか。ま、まぁそうだよね。うん。知ってた」


 何とか言葉の攻防を制する事が出来たようだ。

 ユミルもホッと一息、ユーカもニマニマしているから問題なし、と言う事で俺も一息つけた。

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