第4話クリエイト

「にしても、ゴブリンの生息域ってこの森だったかぁ」


 そう、ここは靴もどきを作成した森である。

 ただ、昨日居た場所は比較的安全な所のようだ。ギルドの生息域の図を見るに街道側の近場は森の中でも枠内に入ってなかった。

 出ない事は無いだろうが、少ないのだろう。

 そう言えば、マップが無い場合ってソナーのスキルはどうなるんだろう。

 『ソナー』は全職業が取得できるスキルで、マップに敵の赤点を表示してくれる便利スキルだ。そこはバッシブにしろよとかなり批判が上がって最終的にバッシブスキルに移行されたという経緯を持つ。


『ソナー』


 試しに唱えると確かに赤点が現れた。だが、現れた場所は実際に森の中だった。これは見づらいなぁ。

 ああ、でも意識を向けると、なんとなくどのくらいの距離かも分かるのね。

 無いよりは断然いい。

 早速ご対面と行こうか。

『シールド』『フォートレス』

 20レベル装備にこれほどのバフとバッシブスキルが付いたらもう危険度0だ。シールドがあるだけでゴブリン程度なら数十発ダメージ無効だろうし。

 まあ、魔力依存だから何発なのかは要検証だが。

 英雄の資質に付いてる恐慌耐性も働いているのかあれだけ入りたくないと思った森の中も気にならなくなったな。


「グギャ」

「ギャーギャ」

「グギャギャ」


 三体のゴブリンが現れた。瞬間に首を落とす。

 うん。思ったとおり弱い。

 魔力を使う必要もなさそうだ。丁度良いや、魔力切れで森の中で倒れましたなんて洒落にならんし。まあ、魔力が切れても倒れるのか知らんけど。


 鳩尾辺りに埋まっている魔石をくり貫いてみたが、これをポケットに入れたくないなと思考。仕方が無いのでポーションを衣服のポケットに、魔石を装備付属のポシェットにと入れ替えた。


「ふっふっふ、この森のゴブリンを狩り尽くしてやるぜ!」


 そう意気込んで4時間後。


「『ソナー』『ソナー』! ええぇぇ!? リポップしねぇのかよ! はぁ? どうすんの?」


 本当に狩り尽くしてしまった。仕方が無いので隣のブルーホーンラビットもある程度狩り尽くし、ブルーアリゲーターの狩場に向かう。

 そこで10体ほど倒した所で一つ思いついた。


「そう言えばこいつの肉買取してたな。とりあえず持てるだけ今すぐ持って帰って売るか」


 只今の時刻は16時。ここからでも最初からフルで走れば一時間は掛からない。銅貨24枚しか持ってない俺には必要な行動だろうと4匹を抱えた。

 必至に走り門兵にギルドカードを見せて素通りし、ギルド受付まで到着した。

 今日も受付にミアーヌさんも居たので彼女のところに持って行った。


「え、えええ? 買取……ですか?」

「はい。まだ倒して二時間ほどです。このまま買い取りお願いできますか?」

「で、では裏まで運んで頂いて、そのまま査定しますので少々お待ちください……」


 どうやらこういった生ものや大きな素材は裏に直接持って行くものなのだそうだ。

 解体のおじさんにアリゲーターを渡すと血抜きをしてない事を怒られた。今回は鮮度に問題が無いから買い取るが次回からは倒した直後にやれと言われた。

 だが、アリゲーター肉は不足気味なので助かったとお礼を言われた。

 

 買取価格は魔石込みで銀貨3枚と銅貨9枚になった。依頼書も今日、明日辺りはこれで取り下げとなるだろうとの事。

 ゴブリンの魔石も全て売却したが、銀貨1枚と銅貨18枚程度にしかならなかった。

 時間的にゴブリンに四時間、アリゲーターは10分程度だというのに。


 まあ、それはいいや。依頼がある魔物だったからだし。

 そんな事より問題は魔物のリポップがどのくらいかと言う事。

 そこら辺をミアーヌさんに尋ねてみた。


「再度魔物が沸くまでの時間、ですか……厳密にはわかりませんが、騎士団の方々が行軍してほぼほぼ狩り尽くしても、大凡一週間でほぼ元通りになるとは聞きますね」

「なるほど……」


 そんなに掛かるのか……


「あ、でも意味はあるんですよ!? それをする事で魔素を蓄え過ぎた魔物が減ります。なので町が安全になるんです」


 どういう事? と話を掘り下げて聞いていくと、魔物が自分の生息域を出るには相応の魔素が必要になるらしい。だから生息域で魔素を蓄える必要がある。そして外に出られた魔物は種類にも寄るが、他の群れに加わるか自分の群れを作り人の集落を襲うようだ。

 それを阻止する為に人は魔物を狩り、体に魔素を取り込み浄化するのだとか。

 沢山魔素を浄化した人は神様からご褒美として力やスキル、魔法が授けられるのだと考えられているらしい。

 中々面白い話ではあったが、人妻に興味はないので早々に退散させてもらった。

 余り近づき過ぎると、二メートルの大男がポップしてしまう。


 むむぅ、魔物のリポップにそれだけの時間が掛かるんじゃレベリングが大変じゃないか。効率に拘らないで行ける所は全部殲滅していくつもりでローテーション組まなきゃダメだな。

 いや、シールド系統の防御魔法やスキルがあれば、もう少し適正あげても問題ないな。一応その前に魔力の測定をしてどのくらい魔法が使えるのかを知っておかなきゃだな。

 魔力が減った時に体にどういった影響が出るのかも知っておかないといけないし。

 とりあえず今日はそのまま宿とってMP数値を計ろう。そこから魔力もある程度は測定できるし。

 それならばついでにあれをやるか。


 今考えているあれとは、錬金術スキル、クリエイトシリーズの一つ。クリエイトアクセサリーである。

 このスキルは必要な素材があればスキル一つで加工を全てやってくれるものである。

 魔法ダメージや物理ダメージの軽減装備は幾らあってもいい。というか無くちゃダメだ。

 まずは攻撃食らっても死なない事、これ絶対。いや、ゲームにも寄るんだけど。

 シャイニングストーンではカッチカチやでーが出来るゲームだったのでかなり有効だ。ものすっごい勢いで散財するけど。


 とりあえず道具屋に行って鉱石や宝石は置いていないかを確認したが、置いていない様だ。専門店を紹介して貰いすぐさま向かった。


「はい、いらっしゃい。見ない顔ですな。外からですかな?」


 古めかしいが綺麗な内装の店、そのカウンターに座っているお爺さんから入った瞬間に声をかけられた。


「ええ、昨日この町に初めてきました。この店にこぶし程度のミスリル鉱石は置いてますか? あれば宝石各種もお見せいただきたい」


 ミスリルは原石から加工ができる人材が早々居ないという設定なはず。その上のオリハルコンだとNPCたちは加工不可能だと言っていたくらいだ。

 ミスリルでも値段的に原石ですら買えないと思うが、そこは交渉してみようと思う。


「ほう、ミスリルですか。有るには有りますが、作り手に伝手が?」

「ええ。自分が加工出来ますので」


 小さく『なんとぉ』と呟き、箱から5キロくらいはありそうな原石を出した。

 『鑑定』で確認したが、間違いなくミスリルの原石だ。


「物はこれしかございません。使い手も無くずっと眠っていた物でしてね。そうですなぁ……金貨2枚程度ならお譲りしても構いませんが」

「あー、いえいえ、現金購入と言う訳では無くてですね。ミスリルは加工後こそ価値がありますよね? ですから、この場でそれを全て加工しますんでその大きさですと、五分の一程度譲って頂けないかと」


 この大きさで五分の一もあればネックレス、指輪、ブレスレットを全て作っても余るだろう。問題はこのお爺さんが加工出来る価値にしっかり気がついているかどうか。


「……失敗した場合は如何なさるおつもりで?」

「証文でその損失額を一月以内に払うと誓いましょう」


 おっ、目が輝いた。これは問題なさそうだな。ミスリルの加工程度で失敗するようなスキルレベルじゃない。ベースレベルが低いから魔力不足で装飾加工で失敗する可能性はあるが。

 因みに証文の事はメインクエストで出てきたので知っている。国に認められたちゃんとした契約書だね。

 お、いそいそと証文を作成しているお爺さんの手が止まった。

 渡された証文をしっかりと読み、問題が無いので自身の名前を入れて魔力も送った。これで法律上完遂しないと犯罪者になって最悪奴隷落ちだ。

 まあ、金貨2枚で一ヶ月の猶予があれば、失敗しても余裕で返せる。


「では、行わせて頂きますね」


 手に取り一応補助魔法やスキルを掛ける。『クリエイトソウル』『グローリーハンド』『ブレッシング』『ホーリーベル』『天使の祝福』『開運』

 

 一応最後だけ声に出して「『クリエイトミスリル』」と唱える


「お、おおっ! す、素晴らしい」


 早速計りの上に載せて取り分を貰う。

 宝石の方も欲しいのでここからの加工もお爺さんに見せた。


「『クリエイトリング』」


 一番使用量が少なく、簡単に出来るリングからにした。


「ど、どういう事ですかな? か、加工が早すぎます」

「これでも錬金術に精通していますので。所で、再び取引しませんか? この様にアクセサリーにするには宝石が欲しい所。貴方の分も作るので宝石を先ほどの様に譲って頂きたい」

「よ、宜しいのですか!? こちらが得をし過ぎてしまいますが……」

「ええ、今日に限っては構いません。信じてくれた貴方への感謝の気持ちと言う事で」


 と、適当な事を言いながらその後、合計6点の品を作った。自分の分が4つでお爺さんのを二つ作った。その過程で一度細工の過程を無理し過ぎて失敗してしまったが儲けは十分なので構わないそうだ。


 流石にここから付与までするのはサービスが過ぎるというか気軽に売れない金額になりすぎてお爺さんも困るだろうとこのまま店を出た。

 彼の見立てだと渡した二つで金貨10枚は堅いと言っていた。

 そしてミスリル自体も三分の二は余っている。


 少し怖くなったのでお爺さんに流れの錬金術師と取引をしたという事は伝えていいが、名は伏せてくれと頼んだら、証文を返されて「名前はまだ覚えておりませんので何もしなくてもその通りになるでしょう」などと粋な言葉を返された。


 少し談笑していい宿屋の場所を教えてもらって店を出た。


 宿屋の名前は小鳥の囀り亭。お爺さん曰くお値段は少し高めだがサービスもいいし飯も上手いと言っていた。

 その宿屋に入ると「いらっしゃいませぇ。お泊りですか?」と可愛らしい声が聞こえて来る。


「ええ、一応料金の案内をお願いできますか?」

「はーい、お泊りだけなら銅貨50枚、朝と夜のお食事込みだと銅貨70枚になります。お湯やタオルはサービスなのでどちらでも無料です」


 十代半ばだろう。しっかりした対応だが、容姿のあどけなさが目立つ。

 赤茶色な髪をサイドで一まとめにしている様がとても良く似合っている。


「では、食事込みで一泊お願いします」

「畏まりましたぁ、お部屋にご案内しますね。お食事は朝8時、夜19時となります。前もって言ってくだされば前後一時間くらいは調整出来ますのでよろしくお願いします」


 流石昨日の倍の金額だ。サービスが違う。

 その様に安心して銀貨一枚出し、お釣りを貰う。


「ありがとう。今日はもう食事を取ったから朝に頼むよ」

「分かりました。こちらのお部屋になります。朝にお食事をお持ちいたしますのでごゆっくりどうぞ~」


 にこにこと可愛い笑顔を振りまいてカウンターへと戻っていった。

 いいな。ちょっと若すぎるが一晩相手してくれるなら金貨一枚くらい出してもいい。

 そんなに持ってないけど。

 そんなくだらない事を考えながら装備を外し、ベットにダイブ。


「おおぉぉ! 柔らかい! 昨日と比べれば断然!」


 よし、金は掛かるけど今日からここに泊まろう。

 今日の感じだとこの程度の金策なんて余裕だし。

 あっと、余り時間を置きすぎたらMPが回復してしまう。


 アクセサリーを取り出して付与魔法を掛けるのだが、その前に容量の確認をする。

 魔法を入れられる容量の次第でどれだけ付与できるかも決まる。そしてその量はリアルラックも関わってくるのだ。流石にスキルレベル的に一つも入らないなんて事は無いが、運がよければ最大三つまで入れられる。


『鑑定』


 あ~リングが両方とも1か。ブレスレットが3ついけるのはめっちゃラッキーだな。確か5%くらいだっただろ。んでネックレス2ね。

 折角だからリングは作り直すか。まだミスリル余ってるし。

 補助魔法をかけ直して再度チャレンジ。


『分解』

『クリエイトリング』

『鑑定』


 繰り返し行い二つとも作り直した。 

 うん。両方とも2つか。上出来だ。片方は売却用だけど、高くなる分にはありがたい。

 その全てのアクセに『物理防御上昇』『魔法防御上昇』をつけてブレスレットには『取得経験値上昇』をつけた。これは重複無しだし効果も低いからまあ、気持ち程度なんだけど、今は気持ち程度でも欲しい。

 って、全部作ってもMP余裕じゃないかよ!

 おかしいな。レベルとMPにかなり開きがある。MP量からの魔力測定がこれじゃあてにならないな。


 ……ん? ちょっと待てよ。付与成功率は魔力依存だったよな。全部ストレートでいった。しかも魔力をあげる補助魔法かけ忘れた状態でだ。試行回数七回だからそこまであてには出来ないけど、間違いなく低くは無いな。だってある程度高くならないと成功率ほぼ0だし。


 ダメージ数値が出れば簡単なんだけどなぁ。

 あっ、あったよ。魔力依存で回数が変わる魔法が!

 って、考えてみればいくつかあるな。けど街中でぶっ放せるやつってなると……


『サンクチュアリ』


 継続型のエリア指定回復魔法。魔物が入れないフィールドを作り出す。回復量、回復回数は魔力依存。


「あっ、回復回数ってHPマックスでどうやって調べんの? 馬鹿なの?」


 少し悲しい気持ちになりながらも仕方が無いとベットにひたすらサンクチュアリを重ねがけしてMPがどのくらいで切れるのかを調べた。


「サンクチュアリが250回~サンクチュアリが251回~」


 俺は羊を数える様に眠りに落ちていった。

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