第3話あったよ、チートあったよ!
彼女の家で待ち受けていたのは身の丈二メートル近い熊の様な男だった。
「あっ、帰ってたんだね。私も今終わった所だよ」
「お、おう。で、そっちの男はなんだ?」
ああ、良かった。どうやらいきなりキレられる様な事にはなら無そうだ。元々やましい事がある訳では無い。
うん。分かっていたさ。顔面偏差値的に。
一応話がこじれない様に、彼に向かって丁寧にお辞儀をした。
彼もそれに軽く返し、彼女の説明に耳を傾けている。
『ねぇ~、どうしてもほしいのぉ~、いいでしょ~?』『いいけど、お前の装備を他の男にやるのか?』『あげるんじゃないわよ? 物々交換!』
などとイチャイチャ感を見せ付けられ精神的に削られていった。だが、その甲斐あってか、彼はすっかり訝しげな表情を取り下げて、笑顔で家に招きいれた。
「なるほど、そう言う事情持ちなのか。いいぜ? こいつのはダメだが俺のお古をくれてやる。言っておくが俺のお古の方が高いぜ」
「それは有り難いですね。本当に無一文の宿無し。俺の財産と言えばこの服くらいなものですからね。装備や三日分の宿代と交換して頂けるなら、惜しくは無いです」
「俺としては他の男のお古を着せるというのは不本意なんだが、あいつが服に関して何か言い出したら聞かないからなぁ」
苦笑いをしながらも棚の上にしまわれている箱を下ろして武器、防具を出してくれた。
並べられたのは皮で出来た防具一式と金属で出来た丸盾と剣。
ためしにつけてみろよと促され、上着を脱いだ。因みにしま○らで3980円で買った柔らかいが薄手で安物のコートだ。暖房をつけたくなくてたまたま羽織っていたものだ。
その下にはフード付きのパーカーを着ている。正直その上に着るのはこちらの世界の服でもなんら問題はない。どちらにしてもいずれはこちらの服に慣れなくてはいけないのだし。
防具の付け方に少々手間取ったが、僅かに大きいもののベルトで調整が聞く仕様なので問題はない。ゲームでいう所の20Lvの装備だ。
確かにゲームではこの町で買える装備では一番良い装備だった。流石は本職冒険者のお古と言った所だろう。
お金の方も銀貨一枚貰った。普通の宿が銅貨30枚程度らしい。
その話から察するに、銅貨100枚で銀貨一枚なのだろうと把握した。折角事情を知っている相手なので硬貨の種類や一食の金額、この武器の新品の時の価格などを尋ねてみた。
銀貨から上は全て十枚で繰り上がり大銀貨、金貨、白金貨と続くようだ。
だが、白金貨はあるにはあるが、一般には使われて居ないそうだ。
一食の金額はピンきりだが、平民なら銅貨1枚から10枚程度だろうとの事。
ちょっと失礼な質問かもと思いつつも尋ねた交換した剣の値段だが、何と大銀貨で3枚だった。
仮に銅貨一枚100円と仮定するのなら、30万円だ。ちょっと高すぎない?
20レベル程度の装備でこれだとこの先どうなるんだろう。ゲームだと、カンストで255レベルまであるんだけど。
少し、驚愕して再びお礼を告げると、彼はコートを触って確かめてから口を開いた。
「いや、これもいい物だ。間違っても安物じゃない。と言うか、これこっちの方が儲けているんじゃないか? 作りが丁寧すぎるし、材質もいいぞ」
「でしょ! 私の目は間違いないんだから!」
確かに技術的な価値はあるだろうからコートなら数十万は余裕か。
お互い中古同士と考えればある程度つりあいの取れている取引なのかも知れない。
「それなら良かった。今の俺の状況ではこの取引は絶対に必要なので。では、どちらにしてもお互いに後から何も言わない方向でよろしくお願いします」
「勿論言いません。こちらも受付の仕事で融通とかは出来ないのでよろしくお願いしますね」
「はい。では、良い取引をして頂きありがとうございました。流石に夜も老けてきたのでお暇しますね」
そう言って彼らの愛の巣を出て、宿へと向かう。
ちゃんとした靴を手にした事で口元が緩む。手に持った靴だったものをそこら辺にぽいしたい気持ちにかられるが、一応止めておこうと折ってポケットに突っ込んだ。
遠ざかりながらも先ほどまでお邪魔していた家を見つめる。
……これからあの二人はハッスルするのだろうか。そう考えると無性に切なくなった。まあ? 俺はもうちょっと若い方がいいし?
いや、余計辛くなる。止めよう。
……早く相手を見つけなくては。
ああ、俺はハーレムを作るんだった。うんうん。
その為に必要なのは金、強さ、権力だな。若さと容姿はどうにもならんし。
ここがマジでゲームの世界ならその三つを満たす自信はある。
五大要素中三つだ! ならば六割方モテると言って過言ではないだろう。
何割モテるとか意味分からないけど。
その為にはレベリングか。
このリアル世界だとカンストまでどのくらい時間掛かるんだろうなぁ。
ゲームなら初期キャラで3年だったけど……いやいや、レベルキャップ開放待ちが無ければ1年半でいけたな。サブキャラは1年経たずにいけてるんだし。
あっ! その前にレベルが見れないんだった。アビリティギフトで計れるのってレベル140までだし。
まあ、でも5年もかければいけるだろうか?
同様の仕様なら……いや、如何だろう。
移動時間、肉体疲労、安全マージン強化。一番のネックは移動時間かな。
あそこから町までで数時間持っていかれたわけだ。
スライムの場所も同じくらい距離がある。
門の開放時間は8時から18時の計10時間と言っていた。
徹夜する気で行かないとほとんど時間使えないんじゃん。
リアル肉体だから休憩もいるだろうし、そのうち休みだって欲しくなる。その上安全マージンまで考えていたら流石にいつまで経っても上がらない気がする。
いや、それでも安全マージンは削る気にならないけど。
『ああ、そうか』と夜空を見上げてニヤリと笑みを浮かべた。
逆にすればいいと。
空に並ぶ赤い月、白い月、黄色い月を見上げて思う。こんなに明るいなら深い森に入らない限り普通に戦えるだろう。ならば、夕方に出て夜どうし狩りをして朝に戻り宿で寝る。
と言う事なら今日はだらだらと寝続けよう。ひたすらに。まだ、20時から22時の間くらいだろうから、頑張って二度寝しても昼前だな。
最初は気張るだろうからその時間からで丁度いいだろう。
そう思っていると宿屋の前についていた。この町の宿屋はここしか知らない。安い方の宿屋であってくれとカウンターのおばちゃんに声をかけた。
「とりあえず今日1日頼みたい。幾らだろうか?」
「食事込みなら銅貨25枚、泊まりだけなら20枚だよ」
おし、彼女が言ってた値段より安い。
うーん。飯か……買い食いしたいけど、それは慣れてからでいいか。
「じゃあ、食事有りでお願いします」
「はいよ。飯の時間には鐘を鳴らす。自分でとりに来るんだね。夜食べるならそこに並んでるの持っていきな。三番だ。部屋に番号がふってある。間違えるんじゃないよ? トラブルはごめんだからね」
強い口調のおばちゃんに少し押されながらも銀貨一枚を出し支払いをする。
お釣りの75枚は一々数えるのだろうかと思ったが、おばちゃんが持ってきた箱に手を当てると魔法陣が浮かび上がり、箱の中でカチャカチャと音を立てた。その箱を持ち上げると、銅貨が十枚づつ八列に並んでいた。そこから五枚取ると確認するよう促された。
箱について聞くと、少し表情を崩して答えてくれた。割と高いものだが、旦那さんがプレゼントしてくれた魔道具だと言う。
ちっ、何処行ってものろけを聞かされる。衛兵さんだけが同士だと、愛想笑いを返しつつも部屋へと移動。
食事は簡素な作りのスープとパンだ。ギリギリ食えるレベルではあるがあの串焼きと比べると悲しくなるくらい美味しくない。一泊にしておいて正解だな。稼ぎの次第で外食に変えよう。
さっさと食事をとり、食器を戻して装備を外しベットに転がった。
「ベットまでかてぇ」
思わず口に出てしまった。割と大きな声で。
これがこの世界の仕様なのか、素泊まり銅貨30枚の方はふかふかなのかは分からないが、少なくとも数日はこの硬さを味わう事になるのだろう。
まあ、フローリングに絨毯だけのコタツで寝てるのと大差ないし、絶えられない事もないか。コタツで寝るの割と好きだったし。イケルイケル。
そう思っていた時期が僕にもありました。
いやー朝早く起きたね。
二度寝? する気にもなれないね。だって体痛いから起きたのだもの。
まあ、丁度いいんじゃないか? 今からもう行っちゃおうか。
そう、今から行けば無理ゲーだった時、帰るという選択肢が生まれる。
そんな言い訳をならべ意気揚々と朝食を取り、装備を纏うと宿屋を出る。昼過ぎくらいまでは居て良い様だから少し勿体無い気もするが、あのベットで惰眠はむさぼれないので居た所でメリットは無かった。
さて、お次はもしもの為のポーションを買おう。
あっ! 帰還魔法陣って売ってるんかな? 安ければ移動短縮に是非とも欲しいけど、ゲームでも宿屋が5ゴールドのところ、帰還魔法陣は200ゴールドもしたんだった。安いわきゃないか。
最初は買ってられなくてクエスト達成報酬のを大事にやりくりしてたなぁ。
でも転移って一度体験してみたいん……してたわ、昨日。日本からここに。
ふぅ、と気を取り直した所で道具屋に着いた。
ゲームでも見た事ないものがごろごろ売っていて店主にこれは何と何度もたずねてしまった。殆どが家電に変わる魔道具であった。
おっ、時計も売ってるんだな。懐中時計で簡素な作りだが、移動に掛かる時間や開門時間や開店時間、狩り効率など時間管理は大切だ。銅貨20枚なら是非欲しい。
帰還魔法陣なるものは聞いたこともないらしい。そもそも転移なんてあるのかとたずねられたくらいだ。
最終的に時計と最下級ポーション一個を銅貨37枚で買った。
相場よりもかなり高い時期だけど良いのかと問われたが構わず購入した。命が掛かっているのにポーション無しで出かけるなどありえない。といってもこれはただの保険で通常の狩り使う状態に陥るつもりはさらさらないが。
目標は初心者ゾーン卒業までこのポーションを守りきる事だ。
だけど何でポーションの値段が上がってるんです? とポーションを装備付属のポシェットにしまいたずねてみた。
「この前魔物の群れが襲って来ただろう? その時にポーションが全て領主様に買い上げられたのさ。その時の煽りでまだ生産が追いついて無い。だからこればかりは仕方ないのさ。俺達は逆に感謝しなきゃいけない」
「そう言う事なら納得です。色々教えて頂き助かりました」
「いいって。まあ、また来てくれ」
武器防具にポーションと後は飯だな。朝は食ったから3食分か。
昨日の串焼きが売ってれば……
おっ、あそこで準備してるのがそうだな。一食2本でいいか。
七本買って一本は出来たてを食べながら行こう。
さて、行くか。
目のすぐ先にある門に向かって歩き出した。
昨日ほど兵士が居ないな。昨日の衛兵さんも見当たらないのでそのまま狩場へと向かう。
その向かう先はブルーホーンラビット生息域だ。20レベル装備がありポーションもあるなら余裕。
スライムの場所より断然近いしゴブリン生息域にもすぐ移動できる距離だ。
ゲーム世界ならゴブリンに行くところだが、リアル異世界な上に初戦闘なのでかなり余裕を持っている。
体感してもゲームと変わらないようならすぐにゴブリンへと移行しよう。
そう言えば、スキル取得とかどうやるんだろう。モーション真似ればいいのかな? いや、仮にそうだとしてもじゃあパッシブスキル(常時発動形)は?
流石にステータスアップ系のパッシブくらいは無いと厳しいぞ?
『アジリティアップ』や『ストレングスアップ』を序盤で使えればかなり楽なんだけど覚え方が……と考えた所で頭の中でカチリと音がした。
ん? まさか?
ためしに全力で走ってみたが、良く分からなかったので走りながらオフと念じるとカチリと音がして明らかに速度が落ちた。
マジかよ。
もしかしてスキルは覚えたままなのか?
『バイタリティアップ』『デクスタリティアップ』『剣士の資質』『剣術』『槍術』『盾術』『スキルダメージ増加』『英雄の資質』『韋駄天』『HP回復力増加』『物理ダメージ増加』『物理防御増加』『取得経験値増加』『製造成功率増加』
あれ? つい製造成功率までオンにしたけど、何で出来るんだ?
え? まさかのサブキャラスキルも同時使用可能?
『マジックアップ』『マインドアップ』『斧術』『短剣術』『杖術』『賢者の資質』『MP回復力増加』『回復魔法能力向上』『聖なる加護』『プリーストの資質』『魔法ダメージ増加』『魔法防御増加』『無詠唱』『魔法使いの資質』『夜目』『音消し』『匂い消し』『隠密』『気配感知』『暗殺成功率増加』『身代わり』『暗殺者の資質』『製造コスト減少』『製造時間短縮』『製造性能向上』『錬金術師の資質』『所持重量上限増加』『商人の資質』『目利き』
後はなんだっけ。俺が持ってたのは6キャラで剣士、ヒーラー、魔法使い、アサシン、錬金術師、商人だ。流石に他は無理だよな?
『鷹の目』オン……ダメか。まあ、仕方ない。後から覚えられるかも知れないし。
いやいや、恵まれすぎでしょ! 全職のバッシブ使えるとかさ。
あ、この感じで行くとアクティブや魔法もいけそうじゃね?
足を止め、剣を抜いてモーションを真似つつ振りぬく。
「『飛翔閃』! で、でたぁぁぁ」
ヤバイ。この斬撃を飛ばすスキルが最初から使えるのはマジヤバイ。
ま、魔法の方はどうなんだ? 昨日は使えなかったけど、魔法名とか口にしてなかったし、そもそもシャイニングストーンの世界と結びついて無かったし。
試してみよう。
火は怖いから地属性の一番弱いのいくか。
「『ストーンバレット』! お、おおっ!」
こぶしほどの大きさの石が五つ狙いを定めた一箇所に向かって高速で飛んでいった。少し先の盛り上がった土に突き刺さる。
走って近づき飛ばした物体がどうなっているのかを調べてみると、そのままの形を保ったままだった。魔法で生み出した物体はすぐに霧散するわけでは無いらしい。
その石がどれほど形を保っているのか知りたいので、ポケットに入りっぱなしになっていた靴もどきをポイして一つだけ魔法で作った石をしまう。
次に口に出さずに魔法を使ってみようと心の中で『ウィンドウォーク』と唱えた。
「よしよし! 無詠唱持ってるもんな」
問題なく使えたので、ゴブリン生息域に向かって走った。ウィンドウォークは移動速度増加、バッシブスキルでも韋駄天とアジリティアップをオンにしている。
速度は凄い事になっていた。
60キロくらい出ているのではないだろうか。そして何よりその速度で走っても息が切れない。楽しくなってそのままひた走った。
結局、町を出て20分程度で着いてしまった。まあ、ゴブリンの場所が一番近かったという事もあるが、それでも物凄い速さだ。
さて、ここからが本番か。
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