第2話こんな弱い光、初めて……

 倒れたまま暫く脱力していると、足音が近づいてきた。


「おい、大丈夫か? 何があったか聞かせて欲しいんだが……」


 え? 何か言葉が分かるんですけど。どういう事? 

 日本語じゃん。

 何それ、やっぱりチート能力授かった系?

 と、取りあえずどうしよう。

 行き倒れ作戦でいくんだったよな。初志貫徹でいくか。


「お、お腹がすいて動けません……」

「ああ、ちゃんと話を聞かせてくれるんなら一食くらい食わせてやるがどうだ?」

「願ってもないです。お願いします」


 彼は支える様に立ち上がらせてくれて、門の端にある小屋に案内してくれた。


 おお、これはミッションコンプリートか!

 いや、これからか。でも出だしは好調だ、うん。


 えっと、正直に話すにしても、なんて言えば良いんだろう。

 遭った通りに説明したらきっと言った瞬間、何言ってんだこいつってなるよな。

 おかしくない程度に話を盛るか。

 まず記憶喪失は必須。だってこの世界の事なんて何も知らないし。

 後は森に捨てられてたとかそんな感じでいいか。


 などと必至こいて考えていた事を話したが、彼らが聞きたかった事はそこではなかった。

 靴を調達した森、その周辺で異常が無かったか。魔物の群れを見なかったかと言う事。それが知りたかったらしい。

 それに対して群れは見ていない事、どんな生物かは判断がつかないくらい遠くに動くものをみた。

 それが人か魔物かは分からないが片手で数えられる程度だった、と答えた。


「そうか。良かった。これ以上襲って来られたらヤバイからな。それで、お前は如何するんだ?」

「出来たら仕事を紹介して欲しい所ですが、難しいですよね?」


 申し訳なさそうに頭を掻いてそれは無理だと言われた。

 だが、この話の流れだと普通に町の中に入れてくれるみたいだ。

 通行証などは必要ないのだろうか? と尋ねてみた。


「さくっと通りたいなら必要だな。だが、これがあるから外の奴を見捨てる必要は無いのさ」


 と取り出されたのは丸い水晶の様な玉で、名は『カルマの光』と言うらしい。

 その言葉ですぐに思い浮かんだのは過去にやっていたMMO『シャイニングストーン』だ。そのゲームにも同じアイテムがあった。


 ああ、そう言う事か。あの動画も聖光石(シャイニングストーン)関連だったし、ゲーム世界に入り込んだ系なのかも。ただ、今の所自分が目にした中では顔面偏差値が異様に高い所意外はリアルだ。

 因みにこのアイテムは過去一ヶ月に渡りPKを行っていないかを判別できるもの。その程度の判別で信用しちゃって良いのだろうか?

 と小首をかしげていると、知らないと思われたのだろう。カルマの光について説明をしてくれた。


「これはだな、おおよそ過去10年間に渡り殺人を犯していないかを確実に判別してくれる物だ。他にも盗みや強姦の類も判別できる」


 え? 時間の方はゲーム時間の誤差かなって考える事もできるけど、そんな機能なかったよ? 

 まあ、いいや。

 身の証明になるのなら今は願ってもない事だとその水晶に手を伸ばす。

 触れた瞬間ゲームの時と同じエフェクトの白い光を発した。

 これがPKを行った後にやると赤い光となる。


「よし、問題なさそうだな。んじゃこれをやろう」


 と、渡されたのはタレがたっぷり塗られた串焼きだった。どうやら先ほどの約束を守ってくれたらしい。

 お礼を言って受け取り、異世界飯はどんなもんだ? とかぶりついた。


「な、何だこれ! うまっ!」


 肉の味よりもタレが良い仕事をしていた。これはあっつあつの状態で是非食したいものだ。


「だろう? アリゲーター肉の串焼きだ。この町アルールの名物でもある」


 え? あいつ食えるの?

 ああ、でもドロップでアリゲーターの肉ってあったわ。

 アルールってのも初期に居る町の隣町だ。さらにシャイニングストーンの世界に入った可能性が高くなったな。

 あ、そうなると俺のレベルってやっぱりLv1からなんかな?

 コンバートとかされててくれたら楽なんだけど……

 って木に絡まった蔦程度を引きちぎれないんだからLv1からだわな。

 ならレベル上げからか。サブキャラで何度もやったからルートは覚えてる。

 最初はブルースライムからのブルーホーンラビットそしてゴブリンへと進んで行くルートが安全で経験効率が良い。


 因みに強さによって色分けされている魔物が大半だ。ブルー、グリーン、イエロー、レッド、ブラックの順で強くなる。その種族の上位主の様な感じだ。

 その中でもゴブリンやオークは呼ばれ方が変わる。

 他にも竜、魔人、悪魔、アンデットの上位種は固有名詞を持っていたりする。


 まあ、最初だからデスペナを気にせずメイン装備で飛ばす奴も多かったが、ギルドで必要とされない限りは初期状態を楽しんで適正狩場を回った。

 おかげでデスペナはほとんど食らった事がない。

 いや、ペナルティがそのレベル帯の経験値3%を失う。レベルダウンも有り。

 だったからデスペナ喰らいまくる奴はそもそもカンストまでいけないのだ。

 だから人に寄っては、ゲームなのに死ぬ事に異常に忌避感を持ってしまう場合がある。俺もその一人だった。


「よし、確認も出来た。約束も果たした。んじゃ中に入る事を許可する」

「ご馳走様でした。今は無一文ですが、いつかお礼しますね」


 彼は気にすんなと町の門を開き、顎で早く入れと促した。

 そのすれ違い様に『如何しようも無くなったら冒険者ギルドへ行け。それでもダメならまたここに来い』と言ってくれた。かなり世話焼きな人のようだ。これはますます恩を返さねばならないだろう。

 町に入り、深くお辞儀を一つして踵を返した。


 さて、どうしようか。

 先ほどまでの悲壮感はどこかに行ってしまった。今だ危機的状況は脱していない。異世界で恐らくLv1の装備なければ金もない。

 だが、進むべき道が見えただけで心の重さが消えた。

 MMOでお金を稼ぐとしたら初期段階だと魔物討伐とクエスト遂行だが……そもそもクエストと言うものがあるのかは分からない。

 聖光石のゲームスタートはアルールの隣町でレウトという町だ。スタートから違う。いや、その前に町の外スタートだったけど。

 それにメニューウィンドウが無い。そして何より、NPCでは無く人が生活しているのだから行けば困った所に出くわすと言う事にはならないだろう。

 となれば残るは魔物討伐。ブルースライム相手なら恐らく石や木で自作した原始的武器でもいけるだろう。ゲーム時に装備外したレベル1でも戦えたのだから。

 ゲームと同様の動きをするのなら、とも言う但し書きがつくが。

 問題はドロップがどうなっているのかだな。ゲームの様に倒せば消えてお金とドロップを獲得するのであれば良いのだが。NPCが普通の人間っぽい所を見るに、そこもゲームとは違い、死体が残り己で解体して売りさばけと言う事になりそうな予感。


 とりあえず、冒険者ギルドに行って情報収集かな。

 衛兵さんがどうしようもなくなったら行けと言っていた理由が気になるがカルマの光がある世界だ。痛い思いはしても殺される様な事にはならないだろう。

 アルールの町なら勝手知ったるとさくさくと冒険者ギルドの受付まで進んだ。


「すみません。冒険者の事について色々お聞きしたいのですが」


 と、二十代と思われる美人受付穣の顔を伺う。

 美人とはいえ町ですれ違う人々を見ても、全体的に顔面偏差値が高いので取り分けこの人が美人と言う訳では無いのかも知れないが、俺にとっては関係ない。

 ものすっごく良い感じです。


「はい。勿論構いませんが、冒険者の何についてでしょうか? ご登録ですか? それともご依頼でしょうか?」

「あー、登録の方です。後は魔物の事に対しても知識が殆ど無いので軽くでも教えて頂ければ有難いのですが」


 その問いに快い了承の返事を貰い、登録の為の用紙を渡された。日本語で良いのだろうかと見渡した。すると用紙に書かれた文字はやはり日本語だった。


 文字すらも日本語か。

 ゲームの中に入ったのならNPCが意思を持つのがおかしいし、そもそもここまでリアルな世界じゃない。逆にあのゲームがここを模して作られたと予想してみたがその考えが如何であれ何も変わらない事に気がつき用紙に意識を戻した。


 名前、性別、年齢、特技、備考に分かれている。特技と備考はなしで埋めた。年齢と性別はそのままに書いた。だが、名前を如何するかで手が止まった。

 俺の名前は少し変わっている。いや、普通と言えば普通なのだが。

 神野剣也と言う。私は神の剣なり! みたいな名前をこの多分神がいるだろう世界で書いて良いのか? と言うか皆さんの名前って日本名なの?

 など、色々と疑問が湧く。


「……こういうのも何ですが、偽名でも構いませんよ? お忍びで登録されるお偉方や、家族に内緒にしたいと言う方など普通に皆偽名ですから」

「それはありがたい。因みに貴方のお名前をお伺いしても?」


 うおぉぉぉ、何かめっちゃ恥ずかしいぞ。ナンパじゃ無いんだ! 無知なだけなんだよぉ。


「はい、アルールの冒険者ギルド受付係、ミアーヌと申します」


 ぬあっ、立ち上がってお辞儀までしてくれた。これはこっちも返さないと。

 で、でもでも名前が……やっぱり日本名だと浮きそう……

 も、もう何でもいいやっ! アニメ主人公でいいや!


「これはご丁寧に、私は……ラ……ランスロットと申します」


 おーい! ランスロットって何だよ! ロボットか? 

 いや、待てよ? これ元々人名じゃね? でも違和感がぱねぇ……


「ふふふ、では、ランスさんと呼ばせて頂きますね。匿名希望さん」


 な、なんだなんだ? これはナンパ成功なのか!?

 って優しい人だから合わせてくれたという事だろ。

 いい年してドキドキしてんじゃねぇよ!

 あー、めっちゃ恥ずかしい。


「あ、ありがとうございます……」


 と言うか良く考えたら顔面偏差値が高いこの世界、俺は超ブ男の部類に入るんじゃないか?

 ……そう考えたら余計恥ずかしいな。

 さっさと用件を終わらせてお暇しよう。ノリ良く返してくれたミアーヌさんの為にも。


「では次に、ブルースライムやホーンラビットから取れる素材で売れる部位と言うのは何処になるのでしょうか?」

「ブルースライムの場合は倒すと弾けてしまうので核である魔石だけですね。

 ホーンラビットですと食用にもなりますので血抜きだけして持ってきて頂ければこちらで本体のまま買取しています。

 もちろん自身で解体されて直でお店に売ってもかまいませんが、そちらでのトラブル等は持ち込まないようお願いします」


 だよなぁ。都合よく魔物から通貨がドロップしないよなぁ。

 まあ、予想通り死体が消えるパターンじゃない事は分かった。

 次は一日生活する為にはどのくらい倒せば良いのかだ。

 なんて聞こうかな。


「えっと、変な事をお伺いしますが……

 家無しが一日質素な生活を送ると仮定して、スライム何匹倒せば暮せますか?」

「は、はぁ、質素ですか。少々お待ちくださいね」


 彼女は指折り数え始め、真剣に考えてくれた。

 この世界良い人ばかりなんか?

 それとも衛兵さんとこの人がとても親切なのか? 

 何にしても有難い。


「えっと、二百三十匹ですね! フフ、大変です」


 あ、笑った! 素な感じの笑顔可愛い。

 じゃない! 笑われた。でもちょっと嬉しい。

 M属性は無いのに、美人ってずるい。


「あはは、丁寧に教えてくださってありがとう御座います。では私はこれで……」

「ええっ! あの、ごめんなさいっ。そんなつもりは無かったんですっ!」

「ええっ!? いや、違いますよ? 聞きたいことを聞けたのでこれ以上はお仕事のお邪魔かなと」


 バッと立ち上がり必至に謝罪されてめっちゃびびったわ。

 そんなに謝らなくても、と思ったがまだ登録も途中らしい。

 『アビリティギフト』通称能力石に触れてギルドランクを決めなくてはいけない。そんなシステムあったなぁ。ゲームだとレベルが見れるからランクなんて殆ど話しに上がらなかったけど。

 ちなみに魔物を倒す事で強くなれるのは神様の計らいだと考えられている。それを知れると言う事でこの石がアビリティギフトと呼ばれているのだ。


 彼女との誤解を解いて、気を取り直し登録の続きを行った。

 『アビリティギフト』に手を置いた瞬間、彼女の表情は驚愕へと変わった。


「えっと、Fランクです……よね? 壊れちゃったのかな……こんな弱い光初めて……」


 な、なにぃ~!

 ああ、分かった。分かったよ。

 Lv1なんて存在早々いないんだろ? 生きていれば何かしらで上がっちゃうみたいな。

 けど、そんな残念そうな目で見ないで……泣くよ?


「光が弱いのは当然です。弱いですからね……では、私はこれで」

「わぁ~、待ってくださいっ待ってくださいっ。このカードが無いと登録した事にはなりませんよ?」


 と手元にあるカードを見せられ、受け取ろうと手を伸ばした。だが、彼女のその手がこちらに向かう事は無かった。それどころか渡しませんと言いた気にカードを胸元へと持って行く。

 まだ何かあるのだろうか? と、首を傾げた。


「あの、そのお召し物、何処で売っているのか教えてくださいっ」


 彼女は身を乗り出し顔をずずいと近づけて問いかけた。

 あ~そう言う事、女の子はお洋服好きだもんね。けど、売ってないって言えないんだよなぁ。まあ、衛兵さんと交わした受け答えを繰り返すしかないか。

 今までの経緯を説明して何処で売っているかを知らないと伝えた。


 彼女はしょんぼりと『そうですかぁ~』と溜息をつきながらも俺の服の裾を弄っている。

 止めて欲しい。

 なんかどきどきしちゃうからぁ!

 と、どぎまぎしているのを傍目に彼女は唐突に気を取り直し声を上げた。


「ラ、ランスさんは無一文の装備なしなんですよね? 今物凄く困っている状態ですよね?」


 どうしたのだろうと困惑しながらも「まあ、そうですが」と返事を返すと、どうやら物々交換で上着を譲って欲しいらしい。

 彼女が使わなくなってしまった武器と男でも使える部位の防具、後は宿に三泊出来る程度の金銭もつけてくれるらしい。

 こんな男が着ていた服をそこまで高額で良いのだろうか? と思わないでもないが考えてみればこの世界ではどれだけ金を出しても手に入らない物だろう。

 ならば負い目を感じる必要は無いように思う。

 三枚着込んでいるうちの上着一つで良いのなら喜んで交換に応じようじゃないか。

 その旨を彼女に伝えると顔を輝かせもうすぐ仕事上がれるから待っていて欲しいと言われた。ギルドカードもその時に渡しますと。まあ、応じるつもりなので構わないが職権乱用ではないだろうか?

 これ以上仕事の邪魔を続ける訳にもいかないだろうと受付から離れ、依頼書の張

られた掲示板に目を通した。


 色々見ていくと、先ほど衛兵さんに頂いた串焼きの店からだと思われる依頼を発見した。


 収集依頼

 アリゲーターの肉

 キロ銅貨3枚

 上限200キロ

 需要次第で取り下げる事も有り。

 帰還時に依頼書が張られてない場合、買取しない場合がございます。


 あれ一体でどれだけの量が取れるんだろうか。

 まあ、まだこいつはやらないから後でいいや。

 うーん、流石にアリゲーターより上の魔物しか依頼書が出てないな。きっと冒険者に頼まなくても自力でやれるんだろうな。


 他にもイビルゲイルの目玉? あんな気持ち悪い魔物の目玉なんて何に使うんだろ。生産系キャラも作ったけど使った覚えねぇぞ?

 おっ、定番の薬草採取あった。と言ってもやるつもりは無いけど。

 あ~でも自作ポーションと店売りポーションだと物凄い性能差があるんだよな。

 製作者の魔力で上乗せされるから、レベルキャップが100レベルの時でも店売りより上だったのに、最終255レベルまでいけるようになったからな。装備性能も上がったし。

 まあ、最初は店売りでなんら問題ないから後回しだな。

 まずは生活確保だ。


 他に得られる情報は無いかなぁ~っと辺りを見回すと、壁の高いところに地図や魔物の生息図が書いた羊皮紙だろうか? 厚手の紙の様な物が張ってあった。


 地図に載っているのは始まりの町レウトからここアルールそしてその先のルーフェン。

 ここまでが俗に言う初心者ゾーンだ。レベル1から30までのかなり優しい仕様となっている。ここを越えるとびっくりするほどいきなり難易度が上がる。最初はスレで設定がおかしいと叩かれまくっていた。

 アップデートされていき更なる強者が続々と出始めるとそのくらいで甘えんなと逆に言われてしまっていたが。

 そう言いたくなるくらいには難易度の差が酷かったのは確かだ。


「うん。生息場所も一切変わりはなさそうだな」


 思わずそう呟くと後ろから声が聞こえた。


「へぇ、昔の事は覚えているんですね? って全部忘れてたら言葉も喋れませんよね」


 どうやらミアーヌさんが仕事の時間を終えていた様で、いらぬ呟きを聞かれてしまっていた。ただ、お忍びや訳ありを仕事で対応している彼女だ。誤魔化しに突っ込んできたりはしないだろう。しないよね?

 少し不安に思いながらも軽く笑いながら「なんとなく思ったから口に出たんでしょうね?」と疑問系で言葉を返した。

 その返答に彼女はやはり気にした様子も無く、続けた。


「じゃあ、早速ですけど、行きましょうか。私の家に」


 そう言われて方がビクンと反応してしまった。

 え? 本当に? 良いのかよ、知り合ったばかりの男を家に呼んで……

 と思ったが、彼女は服が早く欲しいのか「ついて来て下さい」と先を促す。

 そのまま、どちらが女性か分からない感じに俺は彼女の家まで連れて行かれた。

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