あの子観察

春風月葉

あの子観察

 あの子はいつも無表情だ。

 あの子は滅多に口をきかない。

 私はあの子がわからない。

 私はあの子が苦手だ。

 それだけはわかるけれど、あの子はどうなんだろう。

 あの子は私をどう思っているんだろう。

 それともあの子の目に私は写ってすらいないのかな。

 顔が見たいな。

 声も聴きたい。

 あの子のことは苦手だし、全然わからないけれど、前に長い前髪の隙間を縫って見えたあの子の黒く深い瞳は少しだけ好きなんだ。

 あの時の目には私が写っていたけれど、今はあの目に何を写しているのだろう。

 はっと視線を感じる。

 振り返るとそこにはあの子がいる。

 …まさか、ね?

 じっと見つめるけれど、長い前髪に隠れてわからない。

 やっぱり、私はあの子が苦手だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの子観察 春風月葉 @HarukazeTsukiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る