仕草
wataru
第1話
「火、貸してもらえますか?」
驚いて顔を上げた。
見知らぬ女性に話しかけられたからだ。
声の主はタバコをくわえて僕を見ていた。
僕は彼女の細く切れ長な目に見とれてしまっていた。
そんな僕を見て彼女は続けた。
「ごめん、誰かと話したくなってさ」
僕は恥ずかしくなって頭の後ろをかきながら答えた。
「大丈夫です。あと、火は持ってないです」
そう言ったあと二人は沈黙し、雨がバス停の屋根を叩く音だけが響いていた。
先ほどまで二人の間には気まずさなどなかったのに、たった一言交わしただけで今はこの沈黙が気まずかった。
だから僕は彼女との会話を続けることにした。
「なんで僕に聞いたんですか?」
カバンからライターを探していた彼女は、手を動かしながら答えた。
「あなたがタバコを吸ってたら素敵だなと思って」
彼女はようやくライターを見つけたようで、タバコに火をつけフーッと煙をはいてみせた。
僕は彼女の答えにまた恥ずかしくなって頭の後ろを大きくかいた。
すると彼女は僕をまじまじと見てこう聞いた。
「その仕草なに?」
「好きだった人の仕草なんです」
「そう」
彼女はそう言うとタバコを消して
「じゃあね、素敵なアンドロイドさん」
と別れの挨拶をしてバス停を去っていった。
気がつくと僕は頭の後ろをかいていた。
仕草 wataru @tpwata8991
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