第3話やりやがったなクソコンビ!

「あのー。守先生。これって工事現場の人達がよく使う、ヘルメット…ですよね?」


「よく分かったな。経費削減の為、安い物を元にしたんだ」


 守先生が先ほど助手が出てきた部屋を指してこう続けた。


「以前はあの部屋いっぱいにヘルメットがあってな。今では失敗ばかり繰り返して今ではここにある完成品と参考の為の1つ前の失敗作の2つしかないよ」


 こう言って守先生は声を出して笑った。

 正直心配である。


「なぁに心配する事は無いよ。ジョージがその証拠さ」


「ジョージ?」


「実験で使って唯一成功結果を出した猿の名前さ」


 猿……余計心配だ。


「まぁまぁ、見た目に囚われちゃいかんよ。ゲーム内容は凄いんだから」


「『量より質』って言いますもんね」


 助手よ。量とは?


「じゃあそろそろゲーム説明をしようか。誠君お願いする」


「分かりました」


 遂に説明か。


「早くゲームをプレイしたそうなので簡単に説明させて頂きます」


「お願いします!」


「まずこの装置はゲームの世界、つまり異世界へと我々を転送する装置です。その世界で狩りをし報酬を得て生活していく、というのが主なゲーム内容です」


 確か似たようなゲームが父さんの時代にあった気がする。

 確か“モンスターライフ”だとか。


「しかしゲームだと思ってもらっては困ります」


 その言葉に首をかしげる。


「このゲームには『セーブ』と『コンテニュー』、『住民』しかプログラムされていません」


「へ?」


「つまり現実と同じようにゲームは不規則に進んで行きます」


「え?でも『セーブ』と『コンテニュー』が使えるんだったら、死んでも生き返れるんですよね」


「そうです」


「もしですよ?もしゲームの世界で好きな子に告白をしました。振られました。『セーブ』と『コンテニュー』をうまく使えば、シュチュエーションを変えてまた告白出来るって事ですよね?」


「それは違いますね」


「え?」


「最初に言った通り現実と同じように不規則に進みます」


「けど『セーブ』と『コンテニュー』がある限り不規則に進む事はないでしょう」


「言い忘れてましたが、『コンテニュー』してもあなたの時間が記憶を残したまま戻るだけです。つまり『セーブ』した場所に戻るだけでゲーム自体の時間は戻りません」


 なんだそれ!


「例としてあげると。狩に出かける前に『セーブ』します。モンスターに殺されてしまいます。防具はボロボロ。武器は壊れ、お金は戦いの最中に落としてしまいました。『コンテニュー』します」


「防具はボロボロ。武器は壊れたままでお金は落とした場所にあるまま『セーブ』した場所に戻って来る……ですか?」


「そう言う事ですね」


「そこまでやります?」


「リアリティを求めたので」


 リアルすぎでしょ…。


「説明はこれで以上です」


 あれ?なんか大事な事を忘れてる気が…。


「あのー。ゲームクリア条件は」


「ないです」


 理由は分かる。


「リアリティですか……」


「リアリティです」


 凄いゲームだ。凄いゲームだが……人類が踏み入ってはいけない気がするのは俺だけか。

 いや、しかし今回はたかが先行プレイ。

 少しの時間異世界に旅に出るだけだ。

 日帰り旅行気分で行こう。


「説明も終わった事だしそろそろ行こうか」


 どっこいしょっと守先生が椅子から立ち上がる。


「それじゃあヘルメットを被って貰えるかな」


 俺はヘルメットを持ち上げて頭へと被る。

 重くはなく中は電子回路が貼られていた。

 こんな物で本当に成功したのだろうか。

 つばの裏側にはボタンがありそれぞれ『転送』『帰還』と書かれている。

 これで異世界を行き来するのだろう。


「ボタンにも気がついたし操作説明はいらないね」


「このボタンを押すだけですか?」


「ポチッと一回押すだけ」


 技術がここまで進化したのかと感心する。


「自分のタイミングで押すといい」


 優しく守先生が言った。


「そしてゲームの世界に行った時、私の偉大さ、凄さを改めて実感するだろう。そして帰ってきた時私に向かってこう言うのだ。『貴方は神ですか』っと」


「先生。もう居ませんよ」


「あのクソガキャあああああ!」



****



 ボタンを押すと視界は真っ白になった。


「-ッ。」


 あまりの眩しさに目を閉じて手を顔の前に持っていった。

 光が小さくなっていくのと同時に手を退け目を開けていくと-


「-異世界だ…」


 そこは噴水のある商店街の様な場所で大変にぎやかであった。

 見た目は人間と変わらない人々がいる。

 男性はガッチリとした体型の人が多く、女性は俗に言う美人さんがほとんどだった。

 これだけ見ると現実と変わらない。

 しばらく周りを見渡していると奥から何か来る。

 それは鎧を着て大剣を背負った男性、杖を持った魔法使いらしき女性、弓を持った狙撃手らしき眼帯をつけたお爺さんが後ろの檻にモンスターを捕まえて向かって来る。


「キタ…キタキタキタ来たー!異世界だあああああ!!!」


 嬉しさのあまり大声で叫びながらジャンプした。

 そんな声と行動に反応してその場にいた人みんながこっちへと視線を変える。

 なんでだろうみんな口を開けたまま動かない。

 なになに?突然のイケメン登場で声も出ないの?

 などと思っていたら1人の女性が悲鳴をあげた。


「イヤああああああああ」


 え?なになに?

 マジで有名人にあったみたいな反応しますやん。

 と思っていたら手で顔を隠して指を突き出してこう言った。


「か…人!!!」


 頭がおかしいのかコイツ。

 何を言ってるのか分からなかった。

 しかし疑問を抱く。

 指を指してる所が顔とは違う事に気がついた。

 指の先を慎重に追っていくと……。

 俺の息子をしっかりと指差していた。


「誰が人じゃごらああああああ!」


 必死に自分の息子を手で隠しながら対抗した。


(俺の住んでた国では6〜7割人だ!)


 などと心の中で叫んだ。

 どうやら転送中になんらかのミスで服がどこかへ行ってしまった様だ。

 今まで異世界に大興奮してしまい自分の格好に気がつかなかったのだ。


「変質者だ!取っ捕まえろ!」


「ウォォォォォォォ!」


 1人の男性の声に感化され俺に向かって全力で向かってくる。

 ガタイが良いせいか威圧が凄い。

 俺はすぐさま方向を変えて走り出した。


「あーっのクソコンビ!」


 俺は守と誠を全力で呪いなが全力で走った。



****



 細い路地を上手く使って逃げ切ることに成功した。

 安全を確認し人気の無い所で休憩する事にした。


「ゔぁー疲れた」


 普段部活に入って無いため運動は全くしてない上に、徹夜でゲーム三昧だと体力なんてあるわけない。

 強いて言うなら登下校のウォーキングぐらいだ。

 いや、問題はそこじゃ無い。

 まずはこの格好をどうにかせねばならない。

 とは言ってもお店に買いに行く事も出来ない。

 迂闊に動いて見つかったらもう逃げる体力も残ってない。


「仕方ない。一回戻るか。あのクソコンビには言いたい事もあるしな」


 そう言って大事に抱えていたヘルメットを被り『帰還』ボタンを押す。


「…」


 押す。


「……」


 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「マジで?」


 身体中に溢れる冷や汗を夕焼けがテカらしていた。



****



 研究所では2人でくつろぎながらコーヒーを飲んでいた。


「そうだ誠君。思ったんだけど2つ見た目同じ装置があっただろ?よく完成品と失敗作の見分けがついたな」


 コーヒーをすすりながら助手に感心していた。


「見分けなんてつきませんよ。ただ綺麗に置かれているのと横たわっているのがあったので、綺麗に置かれている方を持ってきただけです」


 コーヒーを飲んでいた口からダラダラと滝の様にコーヒーが出てくる。


「守先生。まさか、そっちが失敗作とか言わないですよね」


「やったな。やりおったな誠君!」


 袖で口を拭いて助手に摑みかかる。


「ちょ、先生、先生も悪いですからね!」


「俺は完成品を持って来いと言ったんだ!なぜ失敗作を持ってくる!」


「誰でも丁寧に置かれてる方が完成品だと思うでしょうが!もっと見分けがつく様にしてくださいよ!」


「あークソ!完成品を取ってくる!俺がゲームの世界に行って未到君を連れ戻してくるよ」


「それは無理ですよ」


 嫌な予感がしつつも一様聞いてみる。


「…なんで?」


「先生が『完成品取ってくるついでに失敗作を処分しといてくれ』と言ったので処分しました」


 おい。俺をそんな目で見るな。

 原点はお前だみたいな目で見ないでくれ。

 ………。


「すいませんでしたあああ!!」


 開発チームのリーダーとは辛いものだ。

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異世界旅行 Different wold travel @PamPom

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