第2話新作ゲームとの出会い

「未到!起きなさい!」


いつもの母親の声がヘッドホン越しに届く。

パソコンに向かいながら返事をする。


「起きてるよー」


 そう言ってヘッドホンを取る。

 窓の外を見ると朝日で明るかった。


「もう朝か…」


 そう言って立ち上がり伸びをする。

 パソコンの画面には昨夜インストールした新作ゲームが映っている。

 グラフィックは良く、音もリアル。民度も高いバトルロイヤルゲームである。

 最近技術産業が急激に発達し、ゲームもよりリアルになった。

 更に急なバトルロイヤルゲームが人気となり、ゲーム会社は技術を結集しその開発に取り掛かる。

 電気屋さんに行っても、ゲームコーナーはバトルロイヤルゲームコーナーと化している。


「飽きたな」


 そう言ってパソコンの電源を切る。

 流石にずっとパソコンに向かって徹夜すると眠いものだ。

 階段を降り、いつもの朝食の準備されたテーブルの前に座る。

 トースト2枚に目玉焼き、ウィンナーが2つ。

 トーストに目玉焼きを挟んでかぶりつく。

 いつもと変わらない食べ方

 いつもと変わらない味。

 いつもと変わらない景色。

 いつもと変わらない朝を迎え。

 いつもと変わらない夜がやってくる。

 刺激も何もない日々。

 まるで無限ループのような世の中。


(-はぁ)


 深いため息を心の中で吐きながら、変わらない通学路を通って学校へ向かう。



****



 いつもどうりの学校が終わった。

 このままいつもどうりコンビニでコーラを買って家に帰る……はずだった。


「なんだあれ」


 コーラを買い終えてコンビニから出ようとした時、あるゲームの募集の広告が目に飛び込んだ。


“異世界旅行 Different wold travel”


 なんだあのネーミングセンスの無い題名のゲームは…。

 それでも久々のバトルロイヤルゲームの様な題名でないため、興味を持ってしまった。

 詳細には

『ゲームの世界に行ける』

『誰よりも早くプレイしてみよう』

 などと胡散臭い事が書かれていた。


「……馬鹿馬鹿しい」


 しかし久々のバトルロイヤルゲームでは無いゲームが、誰よりも早くプレイ出来ると思うと心踊らされた。

 抽選で1名と書かれている。

 確率は低いだろうが、応募せずに後悔するより応募して後悔した方がまだマシだ。


(やらぬ後悔よりやる後悔!)


 そう心に言い聞かせて、記載されていたQRコードをスマートフォンで認証し、ウェブサイトへ飛んだ。

住所と電話番号、生年月日、名前などを打ち込むだけの簡単な応募を済ませてコンビニを後にした。



****



 忘れた頃にやってくる。

 まさにこの事であろう。

 2ヶ月前にコンビニで応募した会社から、当選ハガキが来たのだ。


「一生分の運使ったかも」


 内心とても楽しみで当たったと分かると自然に笑みがこぼれる。

 ハガキには『8月25日、南天堂本社に来てください。』と書かれている。

 今は8月18日、1週間後、あの有名なゲーム会社の場所へ。

 そう考えただけでこの1週間は退屈では無かった。



****



 8月25日当日。

 夏休みであるため、本当に何もしなかったが今日は違う。

 あの有名なゲーム会社の前にいる。

 今から中に入って世界で一番早く新作ゲームをプレイする。

 いつもとは違う今日がある。


「-スゥッ…よし!」


 緊張を解く様に気合を入れ直して中に入る。

 中に入り受付の前を通って奥へ行こうとすると…。


「すいません。関係者以外これ以上の入場はお断りしておりまして…」


 受付の女性が声をかけてきた。

 顔の整った少しふっくらとした優しそうな女性で美人の部類に入るであろう。

 うっかりしていた。

 気持ちが高ぶって何も考えずに奥へと進んでいた。


「す、すいません。この企画で当選した者でして」


 そう言ってハガキを出そうとする。

 異性と滅多に話さないため、テンパってしまい中々ハガキが見つからない。

 しかし女性は何かを察した様に


「もしかして、夕凪 未到さんですか?」


 と言った。

 名前を呼ばれた自分は驚いた。

 ぎこちない返事をする。


「そうです」


「それは大変失礼しました。未到さん、遠い所からお疲れ様です。お部屋はこの奥を進んで右へ曲がり、突き当たりのお部屋です。右に曲がればそのお部屋しかございませんので、間違えることは無いと思います」


「ありがとうございます!」


 頭を軽く下げ奥へと進んでいく。

 奥まで行くと右と左に分かれており、言われた通り右へと曲がった。

 突き当たりまで行く途中何もなかった。

 突き当たりに着いてやっと1つの扉の前まで来た。


「フゥ…」


 深く深呼吸しドアノブに手を掛けた時、部屋の中から夫婦喧嘩の様な会話が聞こえてきた。


「やっぱりあのゲーム名はダメでしょう!勝手に変な名前つけて!求人募集ポスターの欄に大きくあんな名前載ってるの見て、とっても恥ずかしかったですよ!」


「さっきから何を言うかと思ったら俺のネーミングセンスの愚痴しか言ってないじゃ無いか!誠君ならどんないい名前をつけるんだろうねぇえ!」


「私なら少なくとも守先生の様なダサい名前はつけないです。もっとポスターを見て興味を持って貰える様な名前にします」


「あの素晴らしい名前に興味を持たない人がいるだろうか。否!興味を持って応募が殺到したに違いない!」


「1人です」


 一度静かになる。


「今、なんて?」


「応募者は1人ですと言いました」


「嘘やん。あの素晴らしい名前に興味を持った人がたったの1人?」


「そうです。あのダサい名前に引かれて応募した馬鹿が1人……先生?どうしました?なんで泣いているのです?」


「あんなに頑張って開発して。あんなに頑張って名前を付けたのに。1人って……」


「 確かに頑張って開発はしました。名前は知らないですが。名前はダサくても確実に楽しめるゲームなのは確かです!なので泣かないでください……プッ」


「今笑っただろ!今名前思い出して笑っただろ!馬鹿らしい名前かも知れないがそれに興味を持ってくれた人がいる!馬鹿なのかも知れないけど、馬鹿でもゲームに興味を持つこ…とぉ……」


 助手の誠の顔が青ざめているのに気づき、恐る恐るその見つめる方へと目線を移す。


「ウッ…ウッ…ヒック」


 そこには馬鹿らしい名前のゲームに興味を持った馬鹿が、顔を赤らめ肩を震わせて今にも泣きそうな青年がいた。

 落ち着かせるのに1時間かかった。





「えぇっと。君が夕凪 未到君?」


「はい!」


「あのーさっきはごめんね。馬鹿馬鹿言って」


「いえ大丈夫です。どちらかと言うと、僕1人だけあのポスターに興味を持ったって思うと、恥ずかしくて…」


 しばらく恥ずかしくて顔を合わせられなかったが今はもう平気である。


「けど嬉しいですね!先生!1人でも応募者がいて」


 そう言いながら目の前のテーブルにコーヒーを置く。

 この人は助手なのであろう。


「自己紹介が遅れたね。私はこの開発チームのリーダー・安原 守」


「そして助手の亜山 誠です」


 軽い自己紹介が終わった所でふと疑問に思った。


「2人だけなんですか?」


「そうだよ」


「……すげぇ」


 素直な感想である。


「幾多の苦難を乗り越えて我々は新作ゲームの開発をしたんだ。まずはその数々の苦難の話をし-」


「あ、結構です」


 未到が守先生の熱演をすぐさま遮った。

 少し悲しそうな顔をする守先生を横目に、

 いをこらえる助手の誠。


「そ、それじゃぁ早速新作ゲームをプレイするかい?」


「はい!」


 守先生の熱演が目当てで来ていない。

 新作ゲームをプレイしに来たのだ。


「よし!それじゃぁ誠君。準備をしてくれ」


「分かりました」


 そう言って助手は奥の部屋へと入っていった。


「未到君。今から君はゲームの世界へと転送される。誰も行ったことのないゲームの世界にだ」


 思わず唾を飲む。


「けど安心してくれ。我々は何度も猿で実験を行い成功するのは立証済みだ」


 助手が部屋から何やら手に持って出てきた。


「あれがゲームの世界へと転送する装置!」


 横で身振り手振り激しく熱演する守先生を気にせず、その装置に釘付けであった。


「その名も……」


 見た目はとても見慣れてる被り物で、前には『安全第一』としっかり書かれている黄色い物。


「“異世界旅行 Different wold travel”!」


 ダセぇぇぇぇっ





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