第一話 『彼』の称号(5)
「…『観察』は素晴らしい。その人間の人となりに行き着く方法でも、また本性を知る方法でもない。だがそんな中でも『ジャンキーの観察』は俺にとって新たなる境地、発見の連続…そして『普通の人』である俺に刺激と興奮を与えてくれる…」
ヤバイ。氷のように澄んだ声で熱弁する目の前の男。その場の男達の背筋に悪寒が走る。
「ジャンキーは素晴らしい。お前達程度のしょうもないジャンキーですら俺の鼻腔をくすぐる。観察、時間が許すならもう少し遊んでやりたいところだがそんな時間は無くなった。次に会う時は穴が開くほど観察してやろう」
伊予の口角がくいと上がる。不気味に整った笑みは何か、そこら辺でジャンキーを自負するインサイドの人間など凌駕するほどに狂気的でもあった。ジャンキーをこよなく愛し、讃え、尊敬し、ジャンキーから嫌われ、恐れられ、畏怖される極めて特異な自称・普通の人。それが伊予だ。五人の男達を体感したことのない震えが襲う。伊予と武器子は既に背を向け去って行く姿が見えるのみだが、一人ががちがちと鳴る奥歯を噛み殺し仲間に問う。
「な、なぁ…あの野郎…」
一人が口火を切れば他の四人もぽつりぽつりと言葉を零す。
「い、インサイドのヤバい連中リストに、居るよな?」
「自称・普通の人…間違いねぇ、ジャンキーが悲鳴をあげて逃げ出す観察者…」
「好きな物・ジャンキー、趣味・ジャンキー観察、特技・ジャンキーの嗅ぎ分け、長所・ジャンキーと対等に話せる…」
「短所・ジャンキーにすら容赦ない」
伊予はジャンキーに執着する。自身が持ち得ないものを持つ者に強すぎる憧れを抱いてしまった。好んでしまった。だがそれは特定のものでも人でもない。特定ではないだけ。彼の興味と好奇心は全てのジャンキーに注がれる。故に彼はインサイドでも畏れられ、こう呼ばれるのだ。
「『ジャンキー・ジャンキー』…」
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