第一話 『彼』の称号(2)
「……………」
「どしたの、伊予くん?」
「…かなり濃い『匂い』がする」
「あー…最近近所に溜まってる馬鹿どもかなぁ」
「…缶、瓶、アルコール。間違いない。飲酒ジャンキーだ」
「あー、アル中ね。俺には一切わからないけど…伊予くんが言うなら間違いないんでしょ」
「武器子!武装準備!武器を借りるぞ、タルト」
「あれ?行くの?」
「決まっているだろう。ジャンキーが近くに居るのに出向かない理由が無い」
「武装してまで?」
「微かに硝煙の匂いがする」
「伊予くんの鼻はどう言う構造なんだい」
伊予がすっくと立ち上がる。タルトが呆れたように呟いた瞬間、兄の呼び声を聞いた武器子がリビングへ駆け込んでくる。武装、片方のダガーナイフが外された腰には脇差、そしてショットガンが提げられ、胸を横断するガンホルスターのベルトには二つの硝煙弾。片手に握られたタルト宅で一番お気に入りの銃・ルガー。左手には使い古された長い鞭が巻かれたまま提げられている。その鞭を当たり前のように受け取る伊予。解いた瞬間、蛇のようにうねる鞭の先端には鋭い刃物が閃く。伊予愛用の
「今夜の観察はここまでだ。明日また借りたものを返しがてら来させてもらう」
「はいはい。伊予くんも武器子ちゃんも気をつけてね」
「………………」
タルトは腰を上げ既に玄関に向いつつある二人を見送るように玄関まで行くと、やはり八錠の鍵を外していく。それから武器子の頭をもう一度ぽんと撫でた。武器子は無表情ながらこくりと頷き、からになった左手でバイバイと言いたげに手を振った。タルトは二人が迷いなく雑多な裏路地を奥へと進んで行くのを見送ってから自分の城へと戻った。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「誰だよ!インサイドバンクに金が入ったってデマ吹き込んだ奴!」
「サウスで情報屋やってるジギーって野郎だ」
「あの情報屋、足元見やがって…この情報に幾ら出したと思ってんだ!」
「あいつのバーには二度と行かねぇ!」
路地裏の突き当たり、それ程広くない掃き溜めに焚き火を中心に五人の男が怒声を上げている。各々酒瓶やビールの缶を手にし、かなり酔っ払った様子だ。どうやらインサイドバンクーーインサイドにある唯一の銀行のことだーーに滅多に入らない大金が担ぎ込まれたと言う情報をどこかで手に入れたらしい。全員酒に酔って目が据わった状態でいらいらと貧乏揺すりを繰り返している。いや、酒のせいかもしれない。見るからに全員がアルコール中毒だ。それは周囲に散らかった尋常ではない酒瓶達の数が示している。
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