第11話 調査の開始

 海斗が自分の部屋から戻ってきて応接間の椅子に座ると、電話の内容をみんなに話し始めた。


「班長に電話したら、とにかくその物品全てをすぐに回収せよと命令されました。班長は明日官舎へ行ったら機密部品調査の予算を申請するので、見つけた人と一緒に行って今日中に持って帰って来るように言われました」

「何でそんなに急ぐんだ?」征二が聞くと、

「あのマイクロフォンが他国に見つかると、大変なことになるって言ってました。その内部構造は今でも海上自衛隊の機密部品として継承されているそうです」

「弾薬盒も必要なのか」

「とにかく全て回収せよとの命令です」


 征二は目を大きくむいて耕太郎の顔に近づく。美咲が、

「おじさん、何ていうオークションサイト?」と聞くと、

「Eネットdeオークションだよ、え~と、今日の12時が入札終了時刻なんだけど、今何時ですか?」

「11時50分じゃよ」


「残り10分しかない!!」


 耕太郎はあわててカバンの中からノートパソコンを取り出す。

「ここのWiFiにアクセスしたいんですけど」耕太郎はノートパソコンを征二に渡した。

「わしに分かる訳ないだろ」征二は海斗に渡す。海斗は、

「アクセスキー覚えてないから自分のパソコン持って来る」と言って、再び急いで自分の部屋へパソコンを取りに行った。


「ああ~、時間が無くなる、入札されてたらどうしよう」耕太郎が頭を抱えていると、海斗が戻ってきた。

「Eネットdeオークションでしたっけ、え~とちょっと待って、あった! 弾薬盒 日本軍 三〇年式弾薬盒 (イ号二型 台風) 美品  でしょ?」

「パソコン貸してください」耕太郎は海斗のパソコンを奪い取る。

「おお、入札価格が二万四千円になってる。やばい、買われちゃう」

「あと1分しかないぞ、早く取り消せ」

「このパソコンじゃユーザーのログインできない、パスワード何だっけ?」


「時間が無い何とかしろ、この冬菇屋!」


 征二はえらい剣幕でまくし立てる。


「あああ、入札終了だぁ、しかも三万百円で」耕太郎と征二と海斗の3人は唖然とした。


 征二は耕太郎に向って、当たり散らす。

「入札者にキャンセルさせる訳にはいかないのか!!」

「そんなことしたら、このEネットdeオークションから締め出されて、もう商売できません」

「どうする、海斗」

「オークションサイトに政府から圧力をかけてキャンセルさせるしかないですね、だけど時間がかかります。一旦品物を渡してしまったらどこかへ消えるかも知れないな」パスワードを思い出した耕太郎は、

「やっと、ログインできた、誰だろう入札した人は」耕太郎は入札履歴を調べ始めると、


「は~い」その声の主は、


「わたし、このポーチ買っちゃいました!」美咲だった。


「えええ」


 耕太郎たち3人はみんな同時に驚く。耕太郎がパソコンで落札者を確認すると、「あ、ほんとだ、芦田美咲になってる。どうやったの美咲ちゃん」

「スマホでEネットdeオークションにアクセスして、あのポーチ三万円になりそうだったから三万百円で入札したら、落ちたの」

「確かに次点の人の入札価格は三万円だ」全員がほっとした。


 幸江が冷たい緑茶を持ってやって来きた。またもみんなの空気を読んで、完璧なタイミングでお茶を持って来る。


「さあさあ、みなさん冷たいお茶でもお飲みになってください」幸江はニコニコしながら冷たい緑茶をみんなに配ると、

「みなさん、この可愛い女の子ひとりに助けられましたね、おほほ」きっと、応接間の陰で状況を見守りながら、じっと出番を待っていたかのようだ。


「肝を冷やしたね、片桐さん」征二は少し穏やかな表情に戻った。

「わたしも冷や汗をかきました。でもさすが美咲ちゃん、やることが全部スマートだね」

「いえいえ、それほどでも (今日はタイムリーヒットね) 美咲は、顔の前で手を振っていた。


「ところで片桐さん名刺ください」

「はあ?」

「機密部品調査協力の契約書を作らないといけないので」

「契約書?」

「さっき言いましたけど、冬菇屋さんは既に機密部品調査協力会社に指名されているんです」


「何てこった!この俺が自衛隊の協力者?」


「そうです、早速あの写真を撮ったところへ行きましょう、僕は支度してきます。それからこの手帳は回収します」海斗は耕太郎から名刺を受け取ると、耕太郎が持ってきた革の手帳を持って2階へ上がって行った。


 征二は真顔になって、耕太郎に懇願する。

「片桐さん、面倒を掛けるがお国のためと思って協力してくれ」と少しだけ頭をさげる。

「この人、いつでも自衛隊とお国のことを案じてるんですのよ」幸江は征二の腕を撫でながら耕太郎の返事を促しているようだ。

「はあ、お役に立てるか分からないですけど、やってみます」

「おじさん、かっこいい! おじさんの手で日本を救ってね」

「そんな大げさな話じゃないと思うけど……」


 しばらくして海斗は半袖の制服を着て肩に布のバッグを掛けて、耕太郎たちの所へ戻ってきた。

「ここからは公務です。さあ、片桐さん行きましょう」と、耕太郎の腕を取る。

「もう行くんですか? 家内に電話しないと。それから柴田さん、昨日の日当とガソリン代は、いつ払っていただけます?」そう言ってガソリン代のレシートを征二に渡すと、征二は、

「海斗、これと昨日の日当も今度の調査費に入れといてくれ」征二はレシートを海斗に渡す。

「了解しました」海斗は急に言葉遣いと態度が変わっていた。制服を着ると立派な青年に見えるのだった。


 耕太郎と海斗はお屋敷を出て、耕太郎が駐車している車の所へ移動していると、自転車に乗って美咲が追いかけて来た。


「私も一緒に行きたいけど、明日から学校で夏季講習があるからその準備で行けないの、でも何かわかったら教えてくださいね」美咲はこのミステリーの行方を知りたくてしょうがないのである。

「だめです。この任務は機密調査です、部外者に情報を漏らすことはできません」

「俺も色々と拘束されるのかなあ」

「もちろんです。後日渡す、特定秘密の保護に関する特約条項を遵守して頂きます」

「めんどくせ~」


「ところで、あのポーチの持ち主はわたしなんですけど」

「ああ、そうだったね美咲ちゃん、忘れてた」

「うむ、後日そのポーチじゃなくて弾薬盒も回収しに行きます。それまで絶対手を付けないでください」

「あの弾薬盒は店のガラスケースに鍵を掛けてしまってあるから大丈夫だよ」

「わたし、冬菇屋さんのおばさんのところへ取りに行こうかな」

「だめです」


「海斗さん、あとでゆっくり話し合いましょうね、じゃあ、おじさんまたね」


 そう言って美咲は、軽快に自転車を走らせて帰っていった。美咲はあの弾薬盒を餌に何か企んでいるようだった。

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