第45話ローレンス図書館管理者の役目Ⅱ

ネクベトが魔界に滞在し、三年が過ぎた頃、ネクベトがもたらした災いの一つが、初代に成り代わった二代目魔王のとレイルーンの死亡とされている。


これは、推測ではあるがレイルーンの書いた文章を読み返してみれば、


『魔王から聞いた最後の言葉で最も印象的だった言葉をここに#綴__つづ__#る』


と書かれている。


ということは、このときには既に魔王は死んでいたということになる。


レイルーンの死亡については、この本を書いたのがレイルーン本人であったため、記されていたのは魔王の死亡のみだった。


一般的に誰でも観覧することが可能な歴史書には、魔王の死亡時期はローレンス図書館建設後の四百二十年後と大幅にずれがあった。


レイルーンの死亡については、三代目魔王が就任した半月後に病死したと記載されており、この出来事に関しては一般の者達の中でも話題になることがあった。


過去を知り、歴史書を記した者達はもうこの世には存在しておらず、もはや真実を知る術はない。


聖刻文字の書と一般的に観覧可能な書のずれは、一体、何を隠しているのだろうか。


何故、そんなことをする必要があったのか────。





聖刻文字の書の最後には損傷が無く、はっきりと見える文字でこう書かれていた。



『白き人間の少女、魔の地に降り立つ時、全てが無に帰する』



それは、今を生きる我々に対する忠告なのか、はたまた我々に対する脅迫なのか‥‥‥‥‥。


本の最後に書かれたこの文章を見た者達は皆、口を#揃__そろ__#えて言った。


魔界に災いをもたらす白き人間の少女を入れてはならない、と。


消えた空白の時間と改ざんされたかもしれない時間、何がもたらされたのかもわからない災いに恐怖した管理者達は、二度とこの歴史を繰り返さぬように情報を管理者達のみで留め、以降、魔王に告げることをしなかったという。


魔王を守るため、そして、魔界に住まう者達の不安を煽らないために、未だに不可能に近い解読を続け、歴史の真実にたどり着くために資料を集め続けている。


これは、秘密裏に行われているため、大きな行動を起こすことは出来ない。


そのため、管理者の地位についた者は、管理者としてのつとめを果たすのみであり、実際に調査のために行動へ移すのは過去に管理者の地位にあった者達だ。


管理者にある者には情報だけが月に一回届き、現在の進行状況を把握するに留めることが規則となっている。









─── ところで一体、何が正解なのかしら?



アレスは迷っていた。



『白き人間の少女、魔の地に降り立つ時、全てが無に帰する』


今、私が追いかけ回しているこの少女、どうしたらいいの ‥‥‥‥‥かしら?


メイドのリーナの背にしがみつき、私から逃げる少女の後ろ姿を見つめる。


その少女は、聖刻文字の書の人物とは程遠く、残虐さなど微塵もなく、また、髪は黒い。


それに、正直、本気を出さなくても直ぐに捕まえられちゃうくらいの速さなのよね ‥‥‥‥。


"聖刻文字"に過剰に反応し過ぎてしまったわ ‥‥‥‥‥。


とはいえ、警戒を怠ってはならないのもまた事実。


転移者、そして聖刻文字を知っているという点では当てはまっているのだから。






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