第44話ローレンス図書館管理者の役目Ⅰ


私は、ローレンス図書館を管理する者──アレス。


でも、それは表向きの役職。


この図書館の管理者しか知ることの出来ない秘密が一つだけある。


現魔王も知らない秘密が───。






その秘密を知ったのは、以前の管理者の役職から引き継ぎを終えてすぐのことだった。


その前任者から一冊の本を手渡された。





「‥‥‥‥‥?」





手渡されたのは一見して普通の分厚く古臭い本だった。


中を開けば、そこには沢山の絵が描かれていた。


普通の者が見ればそれはただの絵本にしか見えないけれど。





「‥‥‥このために覚える必要があったのですね」





この描かれた絵は全て文字だった。


それが、『聖刻文字』と呼ばれるものだった。


聖刻文字の存在自体、現在知る者は現管理者の私と前任者、そして初代魔王。


聖刻文字の存在が伏せられているのには訳がある。


まずは、現在使われている魔刻文字と聖刻文字の関連性を疑われないようにするため。


そして、一番、知られてはいけないとされている出来事を隠蔽し、魔王の支えとなり魔界の均衡を保つためだった。


その出来事というのは、魔界に初の魔王が誕生した日から五十年が経過したころのこと。





魔界に一人の少女が迷い込んだ。


小柄で白く長い髪の少女だったという。



その少女の名は『ネクベト』



彼女もまた、異世界から転移してきた少女だった。


当時、魔界は開拓中であり危険な無法地帯で広がっていたため、哀れに思った初代魔王はその少女を保護することにした。


ネクベトはどのようにして、魔界へ渡って来たのかは不明。


少女は身元を隠し続けたという。


そのことを不信に思った魔王は二人の部下に、口を割らせるようにと試みたが、出来なかった。


魔王が拷問部屋へ行くと、二人の部下は"消えていた"のだ。


跡形も無く。


死体も塵も残さずに。


鎖で手足を首を繋がれ、目隠しをされ、一体、どのようにしたら消せるのだろうか。


拷問部屋に連れてこられたにもかかわらず、ネクベトは無傷だったという。


言い様のない恐怖と不気味さに包まれた拷問部屋に魔王は自ら手を下すことにした。


そして、魔王がネクベトに手をかけるその瞬間、魔王は消滅した。


音も無く、塵となり、空気と同化し消えたのだ。


ネクベトの前に立つ者は魔王の側近ただ一人だった。


そのときの状況を#綴__つづ__#っているのは、当時は初代魔王の側近で、後にローレンス図書館の初代管理者となる夢魔のレイルーンだ。



ネクベトはレイルーンに言った。




「私は世の均衡を保つ者。知恵を授ける者。身元を明かすつもりはない。口を割らせようものならお前も同じことになる」




レイルーンはネクベトに追及することをやめさせ、それ以降、部下が消滅することはなかったという。


ネクベトは世の均衡を保つ者、そして知恵を授ける者。


ネクベトはその言葉の通りに世をつくる術と知恵を授けつづけた。


一方で、レイルーンは消滅した部下と初代魔王の後処理に追われていたという。


消滅した部下二人については、危険な無法地帯での死亡と処理をした。


問題は、初代魔王の存在だった。


しばらくの間、無法地帯の視察や外交という名目で消滅した魔王の存在を隠していた。


が、それは魔王と血縁関係者にある双子の弟に成り代わってもらうことで無事に解決した。


魔王に双子の弟がいることは、王族と親密な関係にある者であればよく知られている。


そのため、双子の弟が魔王の座に着けば、不満が上がってくることは目に見えている。


しかし、双子の弟もまた魔王の器でもあった。


生まれた順が異なるだけで、実力も能力も兄と同等で、また、魔力に関しては申し分なかったという。


だからこそ、あることが可能だった。


膨大な魔力を持っている者にしかできない、範囲魔法。


これを使って記憶を改ざんし、魔王に兄弟はいないとしたのだ。


ネクベトが魔界に滞在し、三年が過ぎた頃のことである。





魔王は◻︎◻︎に◻︎◻︎し◻︎。




魔王から聞いた最後の言葉で最も印象的だった言葉をここに#綴__つづ__#る。



『ネ◻︎ベトは◻︎◻︎をも◻︎◻︎◻︎◻︎で◻︎る』



確かに◻︎ク◻︎◻︎◻︎、◻︎を◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎授◻︎◻︎◻︎◻︎た。



◻︎かし、◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎ ‥‥‥‥‥







聖刻文字で書かれた文章はここで終わりを告げた。







重要な内容が書かれていたであろう部分は損傷が激しく焦げ跡のようになっていて、復元できるものではなかった。


誰かが意図して文字を消したのではないかとも取れるような跡だった。


消えた文字の解読については、今まで図書館の管理者をつとめてきた夢魔の前任者達で行われていたが、様々な憶測が飛び交うばかりで、解読は出来なかった。





しかし、その憶測が飛び交う中で最も意見の一致が多かった文章がある。






魔王から聞いた最後の言葉で最も印象的だった言葉をここに#綴__つづ__#る。






『ネクベトは災いをもたらす者である』






転移してきたネクベトの存在、ローレンス図書館の造られた意味、損傷の激しい文章────これらは我々に何を伝えたかったのだろうか。


本が流通し始めたのはローレンス図書館建設の年と一致する。


であれば、レイルーンはこの頃にこの本を完成させたのではないかと考えられる。





では、ローレンス図書館建設後に起きた出来事とは一体、何なのだろうか?










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