第41話隠しているのは……?



いや、まさか……。




私は魔書に記された文字、いや、絵を指でなぞり、ページをめくる。


それを無言で繰り返し、その様子をアレスが不思議そうな顔をして見ていた。


ページをめくる手を止めて、一つの答えにたどり着く。




「聖刻文字………?」




古代エジプトで使われていた聖刻文字、ヒエログリフに似ている。


似ているというか、ヒエログリフを反転させた文字だ。


ヒエログリフに用いられている文字、すなわち絵は、エジプトハゲワシ、ウズラの雌、ツノの生えた毒蛇、フクロウ、コブラ、人と記されていたはずだが……この魔書では、エジプトハゲワシがグリフォン、ウズラの雌がスライム、ツノの生えた毒蛇が上半身人間下半身蜘蛛、フクロウがガーゴイル、コブラがバジリスク、人が悪魔になっている。


他にも色々と文字が代わっているものの、形はエジプトのヒエログリフと同じだ。


勉強熱心な兄に覚えたくもない文字を嫌々覚えさせられた甲斐があったよ。


勉強熱心なのはいいことだが、何でもかんでも自分が取り入れた知識を私と共有するためだけに勉強量を毎回毎回増やさないでほしいよ、しかもどれもこれもテストに出ないものばかり……。


だが今回は、感謝してやる。


ありがとう、お兄ちゃん!


役に立ったよ!


でも、一体なぜここにこの文字が?


エジプト文字が異世界に渡ったのか、はたまた異世界文字がエジプトに渡ったのか……。




「お嬢様?」




リーナが心配したように側へ来て、顔を覗き込んだ。




「あぁ、すまん……」




ハッとして顔を上げ、アレスを見た。




「どうしたの人間ちゃん? 具合でも悪い?」


「具合は悪くない。なぁアレス……」


「なぁに?」


「過去にこの地に異世界から転移してきた人間はいないか? それか、逆に転移してしまった者か」


「……え?」




その問いにビクリとアレスが肩を震わせた。


次にリーナを見れば、首を傾げていた。




「アレス様?」




どうやら、アレスには心当たりがあるらしい。


焦りか?


笑顔がやや引きつっている。


リーナから聞いた話によれば、ローレンス図書館を代々守り続けているのは夢魔の一族であり、初代魔王との繋がりも深い。


位もそれなりに高いはずだ。


ということは、幹部辺りしか知らない情報もあるのかもしれない。


その情報の一つが、私の問いに関することなのか?


仮に、幹部との関係がなかったとしても、図書館には数多の歴史書があるはずだ。


このローレンス図書館は古い書物から新しい書物まで全て揃っている。


代々、歴史を語り継いできた管理者が知らないはずはないのでは?


アレスは、ギュッと唇を結び、目をそらした。




「人間ちゃん、その話は……」



殺気。


出どころはアレスからだ。


まがまがしいオーラに棚がガタガタと怯える。




「アレス様! 一体何を!」




ありゃりゃ……触れていい話ではなかったか?



うむ。


とりあえず、ヤバイ状況であることは間違いない。


さぁ、どうしようか私。


状況もヤバイが私の頭も相当ヤバイな。


まだ二日なのに、順応したのか全然焦らないぞ。


だれか、この小娘に危機感とやらを教えてやってくれ。







「………その話は、するべきじゃなかったわね」





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