第42話魔力無くても魔法は使える(仮)

こりゃやべぇな。


私の中で徐々に現実味を帯びてきたのか、額からじわりと出現した汗が顎まで流れ、床にポツリと落ちた。


アレスから溢れるオーラは突風となって、周囲の本棚を叩きつけ、カウンターに積み上げられた書類の数々を巻きあげる。




「アレス様! 一体、どうなさったのですか⁉︎」




リーナは問うが、眼中にはないようでアレスの琥珀の瞳には、私しか映っていない。


琥珀の瞳が黒く濁り揺らめいている。


私に向けられたこの瞳と殺気の意味。


恐らく『口封じ』だろう。


アレスの瞳の中にやや迷いが見える。


口封じのために脅し続けるのか、今ここで殺すべきか。


大方、そんなところだろう。


やはり、エジプトとこの世界に繋がりがあるのか?


それに転移者が関係しているのだとしたら……?


転移者、私に知られては不利益なことでも起こるということか?


今は……考えてる暇はない。


力の差は歴然だ。


敵う相手ではないことはわかりきっている。


どうするどうするどうするどうするどうする、考えろ!


鼓膜にダットンダットンと打ち付ける自分の心臓音。


脳裏によぎる一つの可能性。


そうかっ!


私は古の魔書に挟まれた紙を取り、広げる。


そしてそこに描かれた魔法陣の上に立つ。





「無駄よ!」





アレスはグオンと風を切り、私に襲いかかろうと向かってくる。


何を勘違いしているんだろうか?


私が古の魔法を唱えるとでも思ってるんだろうか?


真面目にそんなの唱えてたら殺されるってマジで。


私には魔力がない。


だから、古の魔法を発動できる確率は極めて低い。


だが、そんな私でも発動できる唯一の魔法がある。








「崩壊せよ!」







私は閉じられた古の魔書を片手にアレスにそう言い放った。




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