第40話私もびっくり。
「金持ちですけど?」
にこやかに、かつまともに返されてしまった。
本当に金持ちだとは思っていなかったので、驚きだ。
「……アレス様、そのお召し物は一体……」
「陛下からね、さっき転送魔法で送られてきたのよ。この服とメモがね」
と、アレスの指には二つ折りにされた一枚の紙が挟まれている。
「『今から人の子がそちらに向かう。会う前までに全裸をなんとかしろ』っていうこのメモが服に挟まれてたのよ。やあねぇこの服とスリッパ~」
『前から思ってたんだけど、陛下のセンスってちょっとねぇ……』とアレスがブツブツと文句を言っている。
確かに、魔王というくらいだから服も色々持っているはずだ。
それなのになぜ、バスローブなんだ……。
しかも真っ赤なバスローブに真っ赤なスリッパって、どんだけ赤好きなんだよ。
魔王のセンス壊滅的説が私の中で浮上した。
「そのワインも魔王からなのか?」
「いいえ。ついでに赤ワインでももってみたらどれだけダサく見えるか検証してたところよぉ~」
「えぇ……」
ダサさ追求するほど管理者暇なのかよ!
「冗談よぉ~。ちょっと飲みたくなったから出しただけ」
『フフフ』と片手で口元を押さえ、私の反応を見て笑っている。
からかわれてるのか………。
からかうのはいいがからかわれるのは、あまり面白くないな。
思わずムッとした表情をする。
「飲んでみる?」
笑顔を崩さず、ワイングラスをこちらに傾けてくる。
ゴクリと私は喉を鳴らした。
こ、これを飲めば私も大人の階段を登ることになる。
「……遠慮する」
あいにくだが、私は今時珍しい子供のままでありたいと考える子なのでキッパリとお断りした。
「………随分と間があったわね」
ビクッ。
「本当は飲んでみたかったのかしら?」
ギクリ。
反応が目に見えてバレバレだ。
図星である。
私の身体よ、いちいち言葉に反応して動くでない!
まったくもう……。
……本音を言えば飲んでみたい気持ちはある。
兄がよく美味しそうに飲んでいるのをみて、毎回気になっている。
漂ってくる匂いはなんとも言えない、あまりおいしくなさそうな匂いがするのに、なぜ旨いと飲んでいられるのか。
だが、大人の階段はまだ登りたくはない。
子供には子供のたくさんの特権がある。
動物園、水族館、映画など様々な施設では子供割引がある。
地域のイベントや都会のイベントでは、入場者プレゼントでお菓子をくれたりする。
子供万歳!
ヤッホイ!
「フフフフフフ………」
アレスはまだ笑っている。
まったくもう、何がそんなに面白いんだか。
私はムムッと怪訝な顔をした。
ふと、ガルシアと初めて会った時の会話を思い出した。
あの時、私はガルシアをからかいまくってたな………。
私も人のことは言えまい。
確かにからかう方は面白いのだ。
だから、
「なぁ、アレス。さっき借りた魔書、読めなかったから、読み書き教えてくれない?」
と、無理やりゴリ押しで話を変えた。
変えたというか、元々はこっちの用事で来たわけだが、随分と話が脱線してしまったので、急遽軌道修正した。
これ以上、からかわれたくないしな。
「フフフ……まぁいいわ。って、読み書きできなかったのね」
「あぁ。違う世界から転移してきたけど、言葉は通じてた。だから読み書きもできるだろうと思ってたんだが、違ったみたいなんだよ」
「いいわ。教えてあげる……そのかわり」
アレスが企むような顔でこちらを見てきた。
夢魔も立派な悪魔の類だ。
願いを叶えるのに、それに相応しい代償を差し出さなければならない。
もしくはそれ以上に価値のあるものを。
知恵を求めるなら代償は?
ゴクリと喉を鳴らした。
「……代償は魂か?」
「やあねぇ~。魂なんて今時、奪いやしないわよ。だって使い道ないもの。代償はあなたの話よ」
今時ってことは昔は魂貰ってたのか……。
てか、代償が話ってドユコト?
きょとんと首を傾げた。
「フフフ……そんなに難しく考えなくてもいいのよ? ただ私はあなたのことが知りたいだけ。あなたに関する話をしてくれればいいのよ?」
「本当にそんなことでいいのか? 話聞いたって面白いことなんてなんもないぞ?」
「面白い面白くないは関係ない。言ったでしょう? あなたのことが知りたいって」
「……知ってどうすんだよ」
まさか、弱味を握って何かするつもりなんじゃ⁉︎
「んもう~。ただ興味あるだけだってばぁ」
ギョッ!
読まれた⁉︎
アッ! 私の目が不自然な動きを!
「フフフ……本当、わかりやすい反応ね。とりあえず、読み書きの練習は今日からはじめる?」
……また、笑われてしまった。
ま、まあいい。
「あぁ、宜しく頼むよ」
「まかせて。教えるのは得意な方だから」
*****
そして夢魔の間にて、アレスから読み書きを教えてもらおうと再び、古の魔書を開いたのだが、
「あれ?」
「どうしたの?」
アレスが私の顔を覗き込んだ。
客間で魔書を開いた時は、変な文字の羅列を見て、知らない文字だと諦めたのだが、これは……
「……読める………かもしれない」
「え?」
アレスが驚いている。
だが、私も驚いている。
羅列している文字は日本語で書かれているわけではない。
かと言って、私にチートスキルがあるわけではない。
でも私は知っている。
「これは………」
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