第29話ローレンス図書館の管理者

私は、ローレンス図書館の管理者───夢魔のアレス。


図書館の管理者は代々、夢魔が務めると決まっている。


この図書館の創設を計画したのは、初代魔王だった。


そして、初代が図書館の管理者に指名したのは、私の先祖───夢魔のレイルーンだった。


創設の計画段階で夢魔を管理者にすることを初代は決めていたという。


初代はその理由を次のように語った。


『夢魔は様々な者たちの夢を渡り歩き生きて行く種族である。


故に、夢を他者に見せることに長けている。


だからこそ、その能力を活かし、書物に記された歴史を映像化し見せることで、皆に語り継いでいってもらいたい』


昔、図書館はあれど利用する者はほとんどいなかった。


それは、文字が普及していなかったためである。


貴族ならば、文字の読み書きは可能だっただろう。


当時、学校はあれど学費が高額で通う庶民は少なかった。


だから、庶民にとっては文字は馴染みのないもので、読み書きができなかった。


よって、庶民が図書館を利用することはなかったのだ。


そのことを初代は知っていた。


だからこそ、読み書きのできない庶民へ映像として語り継いでいってもらおうと夢魔のレイルーンをローレンス図書館の管理者に指名したのだった。


文字が普及していなかったのは昔の話。


今はそうでもない。


図書館を利用し、書物を手に取る庶民は近年増加傾向にある。


だから映像化して書物の内容を見せることは減ってきたけれど、この仕事、疲れるのよねぇ~。


図書館の管理者として、図書館の全ての書物を読み込み、いつでも利用者に映像化して見せられるようにしておかなければならない。


ここの図書館の管理者というのは書物を管理するだけでなく、内容を全て把握する必要がある。


だからこそ、他とは違う造りになっている。


円柱状の図書館が二つ連なっており、その円柱と円柱の間にはこの城の関係者しか入れないように仕掛けが施されている。


二つの円柱状の図書館には全く同じ書物が並んでいる。


一つは、利用者が読むための書物。


そして、もう一つは管理者が暗記するための書物。


一般に利用されている図書館を『ローレンス図書館』、そして、私が暗記するための書物が並んでいる図書館を『夢魔の間』と城の皆は呼んでいる。


さっきも言ったように、今、私がいる夢魔の間には関係者しか入ってこない。


だから、何をしていたってある程度許される。


例え、全裸でいたとしても。


私は今日も全裸でいた。


だって、書物に触ってるとホコリが服についてしまって、せっかく身につけた綺麗なアクセサリーもお召し物も台無しになってしまうんだもの。


だから、今日に限らず全裸でいることが当たり前になってるのよ。


「今日も暇ねぇ~」


カウンターテーブルに寝そべって、『透視』でローレンス図書館を見て利用者がいないことを確認し、目を閉じた。






今日もこんな感じで一日が終わるのでしょうねぇ~。






そう思っていたが、この日は違った。










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