第13話【陛下視点】人間観察って、意外とおもしろいものだな。
魔大陸──────それは、魔族の住まう地。
そして、余が支配する大陸だ。
「はぁ‥‥‥」
自室の机には書類が山のように積み上げられ、それを一枚一枚確認しては積み上げるのを繰り返していた。
────────っ?
わずかな魔力反応を感じる。
大陸には結界が張り巡らせれており、侵入者や異常を感知すれば結界は淀みを起こし、魔力を発生させ知らせてくれる。
その発生した魔力は、結界を張った本人にしか伝わらない。
つまり、これを感知出来る者は余だけしかおるまい。
『魔力感知投影』を発動させて、場所を確認する。
そうすれば、パジャマを着て大の字になった人間の少女が、黒い瞳をこちらに向けていた。
投影されている場所がその人間の上空であるから目が合うのは当たり前だ。
人間の周囲には仲間の姿はない。
手持ちの武器も見当たらない。
とてもではないが、身一つでこの大陸にたどり着けるかどうかというと、否である。
「‥‥‥‥‥どうやって入った?」
張った結界に不備があったとは思えんし、だからといってこの人間が強大な力をもっているとも思えんしな。
病的なまでに白く、黒く伸びた長い髪は無造作に交叉しあちこちに寝癖がある。
服装はパジャマで靴は履いていない。
‥‥‥‥敵とは判断しずらい。しばらくは様子を見るとしよう。
人間と交わっていた視線が外れ、左手首に向けられた。
白い腕輪?
魔具ではないかと一瞬思ったが魔力は感知出来なかった。
どうやら、ただのアクセサリーのようだ。
人間の視線は空に向けられ再び目が合ったかと思えば、目を閉じた。
30分後。
「‥‥‥‥寝ている」
さらに30分後。
「‥‥‥‥まだ寝ている。ここが魔大陸とわかっているのだろうか?」
敵かもしれない相手に心配になってしまう。
魔大陸はいわば魔族の巣窟。
人間を喰らう輩もいる。
だが人間は寝返りをしたり、腹をかいたり、白目になったりしている。
完全に熟睡している。
無防備としかいいようがない。
喰ってくれ、といっているようなものだ。
さらに30分後。
「まだ寝るのか」
さらに30分後。
「‥‥あ、意外とまつげ長いのだな‥‥‥‥‥」
さらに30分後。
人間はうつぶせになると、ズボンに手を突っ込み、ぼりぼりと尻をかいた。
ズボンから手を抜けば、ズボンは尻の半分をさらした状態になった。
「見える見える! さっさと隠せ!」
しばらくすると、尻が寒くなったのか無意識にズボンを上げて尻を隠した。
まったくこの人間には恥じらいというものがないのだろうか?
様子見がいつの間にかただの人間観察になっている気がしないでもない。
さらに30分後。
グゥ~。
「ん? なんの音だ?」
人間はようやく目を覚まし、腹をさすっている。
「腹が減ったのか」
ふと自室の時計に目をやれば、3時間経過したことに気がついた。
‥‥‥‥‥人間観察などせずに、寝ている間だけでも仕事を進めておけばよかったな。
視界に入った山積みにされた資料を前に、ぐったりとうなだれたのだった。
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