第8話転移者(主人公)殺人事件Ⅱ
リーナはおそるおそる少女に近づき触れようと手を伸ばした。
「触れてはいけません」
しかし、右隣にいた兵士に腕を掴まれ、遮られた。
「犯人の形跡がまだ残っているかもしれませんので」
「わかりました。なら、お嬢様の呼吸だけでも確認させてください。口に手をかざすだけにしますから」
「それならいいでしょう」
リーナは掌を少女の開いた口に近づけた。
本来ならば、掌に当たるはずの暖かな息が感じられなかった。
なにも、当たらなかった。
それはすなわち、死を意味していた。
「っ‥‥‥‥‥」
リーナのその様子を見て、周りは察したようだ。
一体、誰がこんなことを。
この行為は陛下の命令に背いたことになる。
背いたものは、死刑になることもあるということを知らぬものはいないはず。
それでもお嬢様を殺害するに至ったのは、よほどこの少女が気にくわなかったのでしょうか?
「失礼ながら、申し上げてもよろしいでしょうかメイド長」
声のした後方へと顔を向ければ、同じメイドのラナがいた。
「ラナ‥‥‥‥‥どうしたのですか?」
「陛下はこの人間をあっさりと城の中へ入れた上、敵ではないと判断されました。その考えに納得のいかない者たちも多いことでしょう。しかし、メイド長は、その考えだけにとどめず、行動にうつしたのです。個人的な判断でこの人間の部屋の前に見張りをつけたのです」
「だから私が殺したとでもいうのですか!? 言いがかりもいいところです!」
「それだけならまだ私も黙っていましたよ」
「他に私が何をしたというのですか!」
「この人間に短剣を向けているのを偶然にも目撃してしまったのです」
「────────っ!?」
お嬢様に気を取られ、気づかなかったのでしょう。
普段なら気づくはずなのに、こんな簡単なミスをしてしまうとは、私もまだまだですね。
とはいえ、この状況はただのミスでは済まされません。
短剣を向けたとはいえ、あれはただの早とちりです。
それなりの理由があって殺害したのなら、私は真っ先に陛下に報告したことでしょう。
「本当なのか! ラナ」
「はい。昨夜、私が仕事を終え自室に向かった時のことでした。客間の前を通り過ぎたときに人間の怒鳴り声が聞こえてきましたので、怒鳴っている相手は誰なのだろうと好奇心でドアを少し開け、見たのです。そしたら、そこには短剣を人間に向けるメイド長の姿があったのです。それを見た私は恐ろしくなって、逃げるようにその場を後にしたのです」
随分、タイミングの悪いところを見られてしまいましたね。
弁解するのにも時間がかかりそうです。
誤解が解けるのが先か、死刑を言い渡されるのが先か‥‥‥‥どちらになるのでしょうか。
「ラナはああ言っているが、リーナ‥‥‥‥本当なのか?」
兵士を含め、みながリーナに疑いの目を向けた。
「今回の殺害に関しましては、まったく関与しておりませんが、ラナが言ったことは事実です。ですが、あれは私のただの早とちりだったのです」
「‥‥‥‥‥言い訳は陛下の前でしてもらおうか、リーナ」
リーナは周囲から冷ややかな目を向けられながら兵士二人に拘束され、陛下の元へと連れて行かれた。
やはり弁解は難しそうですね。
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