第9話転移者(主人公)殺人事件Ⅲ?
玉座の間。
ステンドガラスの前に設置された玉座。
そこに座ることを許された者はこの世でたった一人。
わが魔大陸を支配する王───────陛下である。
リーナは腕を後ろに拘束されたまま、陛下の前に両膝をつく。
念のため、兵士二人はリーナを挟むように配置された。
「リーナ、あの人間を殺したとは本当か?」
陛下は真紅の瞳を濁らせ、リーナを見た。
見たというよりは、にらみつけたといったほうがいいかもしれません。
瞳が濁るのは、怒りの表れまたは魔力の大量放出を示す。
この場合は、どちらともでしょう。
勝手に人間を殺したことへの怒り、そして、殺したことを白状させるための魔力大量放出による威圧。
「いいえ。それは、事実ではございません」
リーナは否定し、昨日の出来事を嘘偽りなく正確に話した。
昨夜、寝言で敵と勘違いした失態を含めてだ。
「貴様、余を馬鹿にしているのか?」
「いいえ。滅相もございません」
やはり、このような作り話のような事実を信じていただけませんでした。
陛下‥‥‥‥両肩がぷるぷる震えていらっしゃいます。
怒りを通り越して、死刑宣告がいつ言い渡されてもおかしくない状況です。
こんな話しをしてしまい本当に申し訳ございません、思わずそう謝りたくなりますね。
人間とは違い、我々魔族は死に対する恐怖をさほど抱かないことに感謝することになろうとは思いもしませんでした、本当に。
お母様、魔族として生んでくださりありがとうございます。
「リーナ‥‥‥‥もう言い訳はいい。貴様には失望した。覚悟は‥‥‥‥出来ているのだろうな?」
「はい。陛下」
まぁ、弁解できるとは思ってもいませんでしたけどね。
理不尽極まりないですが、この状況を作り出してしまった私にも責任がありますし。
「何か言い残すことは?」
「では最後に言わせていただきましょう」
リーナはゴクリと唾を飲み込んだ。
今までの思い出──────記憶がフラッシュバックするようにぶわりとあふれてくる。
日々の仕事の忙しさに過去を振り返る余裕はなかったし、さして特別に楽しかったことなどは特になかった。
しかし、わが魔大陸を支配する偉大な王にお仕え出来たことは、誇らしいこと。
それは、死刑宣告を言い渡された今でもかわりません。
「陛下にお仕えしたこの120年間、私はただのメイド長にしか過ぎませんが、貴方様を支える者の一人となれたことを心より感謝いたします。今まで本当にありがとうございました」
リーナの膝に大粒の涙が数滴こぼれ落ちた。
瞬間、
「勝手に殺すなあああぁああぁあぁぁぁあぁぁぁぁーーーーーーーーー!」
玉座の間のドアが勢いよくバダーンと音を立てて開くと同時に、怒号が部屋に響き渡った。
まさか!
それは、リーナが知っている声だった。
振り返って確認しようにも、縛られているせいでそれができない。
「人間っ! なぜ‥‥‥‥‥」
陛下の驚きを隠せない声で確認する必要がなくなった。
生きていたのですねっ、お嬢様!
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