第2話
見渡す限り一面、白銀の世界。
なんて、ありふれた言葉しか出てこない。
朝、目覚めると外の景色は白銀で染まっていた。彼女の言う通り、昨晩の間に雪が降り積もったようだ。
ベッドから抜け出し、ベランダ側のカーテンを開く。朝日と純白の雪のコントラストが、視覚を眩ませ、刺激した。
彼は椅子の
「……おはよ。もう、起きてたんだ。早いね」
『…………』
──起きてたよ。珍しく、君より早く。
一方通行の会話に寂しさが募る。
本当は、こんな些細なことを二人で笑い合ったり、喜び合ったりしたかった。
でも、出来ないね。
僕には、そんな簡単なことさえ出来ない。
「今日は何処に行こっか。公園で雪だるまとか作ってみたいね」
──うん。そうだね。
彼女の楽しげな声が携帯のスピーカー越しに伝わる。自分とは違う場所から、彼女もまた同じ景色を見ている。それだけで、彼は幸せだった。
今日の待ち合わせの場所を告げて、彼女は通話を切断した。
けれど、雪は溶けていくのを待ってはくれない。彼等が公園に着く頃には、跡も形も無く、その姿を消しているのだろう。
「あーあ。これじゃ、雪だるま作れないね」
公園の湿った土を指差して彼女は苦笑する。雪が溶けてしまわないように、少しでも早く公園に来たつもりだった。でも、遅かった。雪は陽が昇る前に、すでに姿を消していた。冬の気配だけを此処に残して。
それでも、彼女は何一つ不満を漏らすことはしなかった。笑顔だった。何時だって、彼女はそうだった。本当は気を使っているだけなのかもしれないのに。
もう、いいよ。って言えたら良かった。
たったの一言。そう、口に出来たら良かった。
ごめんね。って君に言いたかった。
雪だるま、作れなかったね。って。
雪はまた降り積もってくれるだろうか。
出来るなら──もし、願いが叶うのなら。君の為に、もう一度だけ。あの真っ白な雪が再び、天から舞い落ちてくれますようにと願う。
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