割り込みの女

@mariko1920

ヒーローイベントの帰り

誰でも子供の頃の忘れられない思い出があるものだ。

私は今でもうっすら覚えていることがある。

その一つが、昔ヒーローイベントに行ったときの帰りだ。

市内の文化センターで母とイベントを見たあと、入り口の近くで

綿あめが売られていた。私は当時4歳で幼稚園年中だった。

列は混んでいなくて、母にお金をもらい走っていき一人で並んだ。

白い雲のように、もくもくと膨らむ様子と、甘いにおいが漂っていた。

わたしは早く自分の番が来ないかと、もらった硬貨をぎゅっとにぎった。

その時背後から女性の声ぼそっと聞こえた。

「ずるい、私がいたのに」

始めは自分に言っていることに気がつかなかった。

もう一度女性の声がした。今度はさっきより低い声だった。

振り返ると黒髪の女性がじっと見ている。

私が最後尾だったので、割り込みしたわけでもない。

けれども、その女性が子供心に怖く感じたので、列を抜け出し

母のところに走って戻った。結局綿あめは買わずじまいで帰った。

振り返ると、その女性は平然と列に並んでいた。

どうしてあの時ずるいと言われたのか、いまだにわからないままだ。




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