最後の夏
華也(カヤ)
第1話
『最後の夏』
著・華也(カヤ)
……終わりがあるとは思ってた。
でも、こうやっていざ訪れると
とても悲しく切なくなってしまう。
毎年、夏の日は、繰り返し訪れ、残像のように消えていく。
蝉の音(ね)は遥か遠くに聴いたように、頭の中で、思い出の中で残響する。
この夏の日の景色を永遠に。
永遠に心の奥の中にしまって、私達はまた次の夏を待つのだろう…。
───────
目が醒めると、カーテン越しに射す光。
眩しくも爽やか…とは言わない。
冷房のタイマーが切れて、部屋は蒸し暑く、時間になったから起きたというよりは、暑さによって起こされたという方が正しい。
寝起きとしては、あまり良くない気分がする。汗をかいて、服は重いし、枕湿ってるし…。
そんな目の前の現実にしか、目も思考も向かなくなった。
なんか切ないなあ。
締め切っているはずなのに、外から聞こえる音は、今は夏休み真っ只中と言わんばかりに、小学生男子のはしゃぐ声。
「君達はなんでそんなに元気なの?」
と聞いてみたくなるほど、猛暑の中、夏休み特有のハイテンションである。
きっと、私の問いかけに
「夏休みだから!1ヶ月以上も休みなんだよ?」
と、元気良く応えてくれるのだろうね。
私はもう、1ヶ月どころか、1週間も夏休み無いよ(苦笑)
私の小学生の時…も同じだったかもね。
1日1日が愛おしくて、永遠に感じて、明日はもっと楽しくなる。
そう信じていた時も、私にもあったんだよ。
平日は毎日午前はアニメの再放送を見て、お昼を食べながら、"いいとも"を見て、"大好き!五つ子"を見て、"キッズ・ウォー"を見て、それから昨日とは別の今日という新しい事を探しに外を駆け回っていた。
宿題もろくにやらずに、毎日何をしていた?
いや、何もしてなかったかな。
何かしているようで、何もしてない。
…違う。
きっと、一生に一度しかない、この有限の時間を、無意識に感じて、いつか思い出せるように記憶していたんだ。
いつか、その思い出の引き出しを開けるために。
無意識に生きているようで、精一杯生きていた。
何も考えてないようで、必死に何かを探して記憶して、引き出しにしまっていた。
それが必要になるのはずっと先の事なのに。
……ヤベッ。泣きそう(苦笑)
───────
出かける準備をして外へ出る。
「…あっつ……」
夏の間はずっとこの台詞をそう言うように設定されたロボットのように吐き出してしまう。
外では、夏の風物詩である蝉の鳴き声に囲まれる。
右も左も上も下も、どこに耳を傾けても、蝉の鳴き声。
ここは、蝉の鳴き声限定のライブハウスですか?
いや、まだライブハウスの方がマシかな。冷房ついてるし、ドリンク飲めるし。
でもよく考えると凄い事だと、この歳になってわかった。
たった1週間2週間の命を全うしようと鳴き続けている。
凄いと思う。
ただ、子孫を残すためのパートナー探しに鳴いているだけなのに、どこか私達に夏だと教えるために、知らせるために鳴いていてくれているのではないのかな?とさえ思うほどに、毎年鳴いている。
だが忘れるなよ。お前たちは虫ゆえに許されてるからな。
お前が人間で、夏のクソ暑い中鳴いてたら、即ポリスだから。
その辺、間違えるんじゃねえぞ?
ちなみに、私は虫全般ダメだから、お前らも本当はアウトだから。
近くにいて、急に飛び上がったら、私も飛び上がってるからな。別の意味で。
ただ、今になると、
「あ、蝉鳴いてる。夏なんだなあ」
って思えるから、許すよ。どうせ儚い命。好きなように鳴いて生きるがいいさ。
"いのち短し恋せよ乙女"ってね。
いや、鳴いているのはオスか。
"いのち短し恋せよ青年"になるのかな?
…語呂悪いな。
───────
帰る時間帯になると、子供達は遊び疲れた表情1つ浮かべず、自宅に帰るのが見える。
彼らはどんなエンジンを積んでいるのであろうか?
ヘトヘトになって帰ってくる私をよそに、君達が眩しくて、…羨ましいよ。
私にもそのエンジンくださいよ。
夕暮れ、ひぐらしが鳴いている。
今日という夏の日の終わりを告げる声。
子供の頃は、夜は夏の特番を見たり、親に宿題をしろと言われたり、明日は何をするかで頭がいっぱいだった。
嫌な事も、楽しい事も、全て"楽しかった"
楽しいと思えてた。
私は…今日あった嫌な事が頭の中をグルグル回ってる。
明日の事?明日なんて放っておけば来るから、考える必要はないよね。
───────
部屋へ入ると、ウォークマンの【お気に入り曲】フォルダから
『secret base 〜君がくれたもの〜』を再生する。
ヘッドホンから聴こえる曲の歌詞は、夏の思い出全てが走馬灯のように頭を駆け抜けていく。
また小学生に戻りたいな…。
でも、今は今でも楽しい事もあるよ…。
だから、聴いても悲しくはならない。
ただ、懐かしくて…切ない。
───────
平成最後の8月の夏の日
私は部屋で大好きな
『secret base 〜君がくれたもの〜』
を聴いて過ごした。
きっと、時代が変わっても、変わらないものはあるよね。
来年の夏、
きっとまた私は
『secret base 〜君がくれたもの〜』
を聴くんだ。
END
最後の夏 華也(カヤ) @kaya_666
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