第12話 「ラビリンス」

「ほんと、いったいどうすればいいのかしら。見渡す限り何もないじゃない……しかも私たちが今崩したはずの壁もいつの間にかなくなってるし」

 するおたちは、この何もない空間に来る前に、やはり壁を壊していた。しかしその壊れた壁から侵入すると同時に、前にいた部屋や、壊れた壁は跡形もなく消え去ってしまった。

 いま目の前にはただ何もない空間が広がる。

 

「今回は謎にかかわるような物もないな、何のとっかかりもない。いったいどうすれば?」

 そういいながら、するおは頭を抱える。

 周囲を見て何かを探そうにも、あまりにも何もない。ただただ真っ白な壁に包まれた部屋にいる様だった。


「まあ、でも際限がないってことはないんじゃないかしら、とりあえず壁にぶつかるまで歩いてみない、するおくん」

 ラビリンスは提案する、とりあえずそうするしかないのだが、するおは即答はしなかった。


「ラビィ、大分勢いよく壁に突っ込んでいたが、大丈夫なのか?」

 するおはラビリンスをなめるように全身を見つめながら尋ねる。


「全然OKよ!私はアメリカ製だからとても丈夫なの!」

 アメリカ製だから丈夫だという理屈は不可思議ではあるが、少なくとも韓国産よりはましそうだ。しかし残念ながら、ラビリンスは日本生まれである。


「……なあ、ラビィそんなわけないと思うんだよ。あのコンクリの壁に突っ込んで皮膚に傷一つつかないなっていうのは、もはや人間だとは思えないんだが」

 パット見る限り、ラビィの麗しく披露されている太ももに傷らしい傷はついていなかった。あんなつっこみかたをしてそんなことがあるだろうか。

 するおは、そこをきっかけに先ほどから一つの疑念をいだいていた。


「ひどいなあ、するおくん……。それがデートしてる女の子に言うセリフ?」


「……悪いとは思うけど、疑問があったら解決しなきゃいけない主義なんだ。そもそも、最初からおかしい、ラビィははじめ、あのインドを選ばなきゃいけない問題の時に、まちがってインドネシアを選んでしまったみたいなトロールをしたけれどさ、そんなことあるかな?」


「どういう意味?間違ってごめんねとは本当に思ってるよ。そんなん今責めなくてもよくない?」

 ラビィは身振り手振りを交えながら、声を荒げた。


「だってさ、インドとインドネシアって名前はそりゃあいかにも間違いそうな感じだけどさ。場所も形もぜんぜん違うんだよ。偶然インドとインドネシアを間違ったなんておかしくないか。インドの場所もインドネシアの場所も知ったうえで、あえて間違ったんじゃないかと僕はそう思うんだけどね?」


「……そ、そんなわけ。本当に間違ったの」

 悲しそうな表情をラビィは見せるが、かまわず、するおは指摘を続ける。

「さらにはパックマンの部屋のミスだよ。あれは今思えばあからさますぎる。あの場面で僕の判断を待たずに、ラビィが独断で決める理由はなんだ?明らかに、ラビィがわざとやったとしか思えない」


「……」

 ラビィはなんの抗弁もしなかった。

「そして、壁を破壊するキックに加えて、傷つかない身体……」

「……………」

「さあ、ほんとうのことを教えてくれ!ラビィ、君はいったい何者なんだ、なんの目的がある?」

 するおはラビィに指をさしながら詰問した。

 するとラビィはにやりと口元を緩めながら、妖しげな表情をするおにみせて答えた。


「――ふふっ、ばれちゃったか。さすがするおくんね。あなたを選んでよかったわ。あなたの言う通り、あの二個のミスは故意に行ったものよ。そして、この部屋には何もない、なぜか、あなたの考えた通り、私こそが最後のラビリンスだからよ」


「さ、さいごの謎?」


「するおくん、さあ解いて、私の謎を!」

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