第8話「小さいながらも楽しい我が城(や)」後編(改訂版)
第八話「小さいながらも楽しい我が城(や)」後編
ダンッ!
――っ!?
俺の直ぐ隣で、苛立たしげに床を踏む音が響いた。
「
五人の
――うっ!?
――マリアベルさんよ、ぜんっぜんっ!!本音が隠せてませんよぉぉっ!!
「ボケてないで早く仕切りなさいよ、この”セクハラ閣下”!!貴方が人並み以上に出来るのは”卑劣でいやらしい事”だけなの!?」
総督の椅子に坐した俺が、ちょっとだけ不満そうに隣を見上げると、そこには美少女の
「それは解ってるって……けど、そもそも何だよ”大食い”って?兵士が報告する特技かよ……」
――栄えある竜王国の西部方面”総督様”が、既に彼女の中では”セクハラ閣下”……
傍らに立つ、腰まで流れる清流のような蒼い髪と、
「フフ、主様よ、食わねぇブゥダはただのブゥダだ」
――め、名言らしいのきたぁぁっ!!
「バカッ!……じ、じゃなくてぇ……だまれっ!!」
更に余計な雑音を吐く、デブで小太りサングラスの中年
――危ない危ない……もうちょっとで俺もややこしい訴訟に巻き込まれるかもだった
俺は大人の事情を鑑みながら、ホッと胸をなで下ろす。
そして、心底えらい
「?」
キョトンとする
「”
「は、はぁ?”
俺の指示に最初は戸惑いを見せたものの、
そして俺は回収したばかりの五個の”
「……
ブォォン!!
直ぐに低い起動音と同時にそこから光が投影され、俺の目前の空間にズラズラとこの世界の光文字列が何行も表示される。
「…………」
俺は五個のそれらを同様に……次々と流れ作業で目を通していった。
「……」
そして俺の隣に控えて立つ蒼き竜の美姫は、そんな俺の行動を
――やっぱりだ……やっぱりレベル5以上の戦士はいないか
俺は結果に、最早、落胆と言うよりは納得していた。
この世界で、所持者の能力値を記録したピンポン球大の白い鉱石だ。
”開示”の
表示内容は多岐にわたり、種族や姓名、年齢という個人情報から現在の到達レベルや所持する
その
今まで取得した魔法スキル。
今まで取得した各種武器スキル……などなど
その人物が現時点までで習得した
そしてこの
「…………」
――
と言うことは、見た目通りこの城にはその程度の戦力しか無いと言うこと。
一定のレベルで取得できる固有スキルは、この”
それを考慮に入れても、あの五人がそれほど大層な固有スキルを所持しているとは思えない。
――つまり、平たく言えば、俺が任されたこの城には初級レベルの戦力しか揃って無いって事だ!
「てか、やっぱ、おかしいと思ったんだよなぁぁっ!城が平屋で4LDKってっ!!」
俺は堪りかねて叫んでいた。
そして大きく頭を項垂れて、これ見よがしにガックリと肩を落とす。
ニヴルヘイルダム竜王国屈指の堅城で、周辺国から難攻不落と恐れられる城塞都市カラドボルグ!
……の近くにあるトナミ村を管轄する小城。
それが俺が任された、この居城だった。
「
――っ?
落ち込みのあまり、思わず声に出して愚痴る俺の肩にポンと気遣うように何かが触れる。
「勇者は今のところ我が竜王国に討伐の兵を挙げていないわ。各国からそういう依頼が無いのか、その準備中なのか解らないけれど……」
俺を見てそう声をかけてきたのは、蒼き髪と瞳が美しい美姫。
「お……おぉ、なんだかんだ言ってても、
俺は胸と目頭が熱くなった。
――そうだよ!こぉんな美少女が優しく無い訳が無い!だって美少女だからっ!!
ニコリ
涙目で
「だから……
蒼き竜の美姫、マリアベル・バラーシュ=アラベスカは、整った瑞々しい桜色の唇の端を弛めて笑いを
――くっ、ひどい!ひどすぎる!!
「てか!肩に乗せられたのも、よく見るとなんか丸めた紙屑だしっ!!」
美少女は、事前に渡されていた書類を丸めて俺の肩に……直接触れないようにだろうか、それを置いていた。
「気に為さらないで総督閣下、ちょっと
「バッチイのかっ!?バイキンくんなのかよ俺っ!!」
俺は大いにヘコんだ。
――そうだよ!こぉんな美少女が優しいわけが無い!だって今までの人生で俺に優しくしてくれたのは二次元美少女だけだからっ!!
「う……というか”4LDK”って通じるのか?」
とはいうものの……俺はそんな意外な事に感心もしていた。
「なに?
――うっ!
そして、つい目が合って……またも
「…………ちっ」
――ていうか、その俺の装備……武器を無くしたのはお前の責任が大きいって忘れてるんじゃないんですかぁぁ、お嬢様っ!?
「な・に・か?」
「いえ……なんでもない……デス」
そして心中の声でさえ、美少女に見透かされていそうで俺はビビる。
――駄目だ、これではクセにな……じゃなくて、早い段階で上下関係をハッキリさせなければ益々なめられるばかりだ!!
「解ってるよ!けどな、マリアベ……っ!!えっと…………アラベスカさん?」
決意は何処へやら、蒼き竜の美姫のファーストネームを呼ぼうとして一睨みされ、俺はヘタレる。
――くっ、王の命で俺の
「と、とはいえ、あの後、ニヴルヘイルダム竜王国の全面的な力添えもあって、勇者共に売り払われた装備の殆どを買い戻す事に成功した……が、俺の切り札である
俺は取りあえず男女のイニシアティブは置いておいて……
目下の目的を論ずる事にする。
「竜人族の情報網を尽くして捜索して貰った結果、この城塞都市カラドボルグ付近のある人物がそれを買い求めていったという情報を掴んで今に至るという訳だが……」
それを探す拠点がこれ……
この通称”4LDK城”……
「……うぅ」
俺は項垂れていた。
「……うぅ」
「……」
「……はぁぁ」
「………………トナミの城は手狭かしら?」
――!?
俺は少し驚いた。
不安と不満が合わさって、すっかり落ち込んで下を向いていた俺に……
意外にも少女から声をかけて来たからだ。
「いや……広いよ……広いけどもっ!」
俺が向こうの世界で暮らしていた家は賃貸の古アパート。
風呂トイレが一緒のユニットバスにキッチンとリビング、ダイニングが同じ。
あの時に比べれば夢のまた夢の物件だ……けど……
「城だろ?ここ……城で4LDKって……なぁ?」
そうだ……城でコレは無い。
――無いだろう?いくら兵舎や使用人の住まい、武器庫は別だと言っても……
――それでも平屋で4LDKって!!
この会議室兼用の謁見の間と衛兵控えの間。
それに、城主つまり俺の部屋とその婚約者であるマリアベルの部屋……
――てか……
「なんでこんな部屋数が少ないのに俺とベルちゃんの部屋が一緒じゃ無いんだぁぁっ!!」
「………………結局、怒るの”そこ”なんだ」
蒼き竜の美姫、マリアベル・バラーシュ=アラベスカ嬢は呆れた表情で溜息を一つ
「はぁ……あのね、貴方の
「え?」
「私の手の者がね、詳しい情報を入手したのよ……それで、取り返しに行くのなら貴方に新たな戦力を提供しなくも無いわ」
そしてそう言うと、俺に唐突に提案してくる。
「……」
「どうなの?要らないって言うのなら別に良いけど?」
「……マ、マジで?」
第八話「小さいながらも楽しい我が城(や)」後編 END
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