第7話「二枚の手札(カード)」後編(改訂版)

 第七話「二枚の手札(カード)」後編


 「サイキンオチメェェ!!」


 痛くプライドを傷つけられたのか、三度みたび、突進を開始する単細胞剣士っ!


 シュォォーーン!


 「よっと!」


 シャラァーーン!


 「はい、残念ハズレ!」


 竜人族でも恐らく屈指の剣士、ファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンの剣先が尽く空を切る!


 ――おぉっ!


 竜人族の観衆ギャラリーからざわめきが上がり、多くの者が俺の先ほどとは急変した強さに感嘆の声と羨望の眼差しを送っていた。


 ザシュッ!


 そして俺は、またも斬りかかられた剣を、造作も無く僅かに動いてかわしていた。


 ――だが、流石に竜人族だな……レベルが”1”に下がってもこの強さか


 俺は素直に感心しながら敵の攻撃を避けつつ、拳を握る!


 ガスッ!


 「がっ!はぁぁっ!!」


 そしてガラ空きの顔面にヒットした俺の右ストレートで、竜剣士はその場に崩れ落ちた。


 「おぉぉっ!竜人を人間が殴り倒せるのか!!」


 またもや歓声が上がり、俺の周りの熱気も更に一段階ヒートアップしていた。


 ――まぁなぁ、これくらいレベル差があればな……


 実の所、現在の俺の相手は、レベルが”1”にステータスダウンしている。


 どういうことか?


 それは……


 ――俺の固有スキルその弐、”状態強制初期化ちゃぶだいがえし!”


 自身の血を触媒として相手をレベル”1”、習得スキル無しの初期状態に強制的に戻してしまう恐ろしいスキル(但し相手の体内に自身の血を与えないと発動しません)の能力だ。


 スキルの発動条件は俺の血を対象の体内に注入することのみ。


 相手に注入した血の量によって効果時間は変化するが……


 さっきの接吻せっしょくの時の量だと、おおよそ二、三時間ってところだろうか?


 ――そうだ!


 俺はあのクソ忌忌しい女神?の手違いで、本来得るはずの特権、”反則級チート性能”を手に入れ損ねた代わりにか、それとも謎の魔神と混じってしまったためだろうか、それは解らないが……


 どちらにしても、”再挑戦権獲得アイルビーバック!”と”状態強制初期化ちゃぶだいがえし”という、ある意味、超強力だがイマイチ使いどころの難しい……他に類を見ない固有スキルを手に入れたのだった。


 「お、おのれぇぇっ!!」


 勢いよく立ち上がった実力者!竜剣士のファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンには最早最初の余裕は無く、唯々竜人族の誇りをかけて必死の形相で俺に襲いかかって来るだけだ。


 ――悪いな……お前確かに強いよ、レベル”1”でこれだからな……


 ガキンッ!


 空振りした剣先が床に衝突し、火花が散る!


 「うぉぉっ!!」


 ザッ!ザッ!ザッ!


 ファブニールが再び頭上に剣を振り上げる間に、俺は後方に数度飛び退いて距離を取る。


 ――けどなぁ……生憎俺も三百年以上コツコツやってきたんだよっ!


 そうだ……俺には此奴こいつのように才能も無ければ、棚ぼた的”反則級能力チート”ももらい損ねた。


 だからこそこの年月……長い間コツコツと地道に修行したのだ。


 「……」


 俺の職業クラスは”盗賊シーフ””暗殺者アサシン””狩人ハンター”を極めることにより取得できる上位職業マスタークラスである”影の刃シャドウ・エッジ”レベル36……


 これは人間レベルでは結構な強者の部類で、如何いかに竜人族とはいえ、レベル”1”の剣士に負ける訳などあり得ない。


 「にぃんげぇぇーーんっ!!」


 再び俺に向かって突進する黄金の竜剣士に俺は両手の平をかざしていた。


 「おぉよ!くらえっ!紫電乱撃ライトニング・ストームぅっ!!」


 剣を手に迫り来る黄金の竜剣士に、俺は自身が所持する最強の攻撃魔法を放つ!


 バリバリバリバリィィィーー!!


 直ぐに相手の頭上に幾つもの光の亀裂が発生し、それは激しくぶつかってスパークする!


 ――紫電乱撃ライトニング・ストーム……それは俺が所持する最強の攻撃系魔法だ!


 習得レベル25、雷撃系の上級に分類される攻撃魔法。


 それを俺は自身の持つ魔法スキル”雷属性UP”と短剣ダガー武器スキル”電光の刃”を組み合わせる事により独自強化していた。


 「ハハハァァーーッ!”紫電乱撃ライトニング・ストーム”だと?その程度の魔法が、我が”剣将ソードマスター”の加護の前には無力だとらぬのかぁ!!」


 ファブニールは頭上に展開する俺の迎撃魔法などお構いなしで突進を続行し、俺に向けた切っ先には微塵も躊躇は無い!


 「…………」


 ――”剣将ソードマスター


 レベル80以上と、幾つかの条件をクリアした者のみが就ける上位職業マスタークラスの一つである。


 直接戦闘系の最高峰の一つであり、近接戦闘では無類の強さを誇る職業クラスだ。


 そして、その”剣将ソードマスター”の職業クラススキルには、”剣の乙女ヴァルキュリアの加護”なるものが存在する。


 それは、あらゆる魔法攻撃を一度だけ無効化するという上位職マスタークラスならではの超強力なスキルだったはず……


 シュォォーーン!


 俺はかざした両手を一気に下に振り下ろす!


 同時に突進する黄金の竜剣士の頭上を無数に走った雷光が雨あられとなって、幾つもの落雷が剣士に降り注いだのだった。


 「馬鹿め!この誇り高き”三血さんけつ”の一竜たるファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンに人間如き下等種の魔法などが効くかぁぁ!!」


 バリッバリッバリッバリィィッ!!


 「がぁぁっ!はぁぁっ!!うがはぁっああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!ちょっまって!うぎゃぁぁーー!!」


 「……」


 ――いや、滅茶苦茶効いてるし……


 誇り高き”三血さんけつ”の一竜”。

 自称、人間如き下等種の魔法など効かない男。


 ファブニール・ゾフ=ヴァルモーデンさんは、カクカクと忙しく両腕、両足の関節をあさってな方向に振り回し、面白おかしい奇妙なマリオネット風ダンスを披露してくれていた。


 「ギャヒィ!ちょっ!ちょっとこれっ!ぐふぉぉっ!シシビビィィーーッ!!」


 「……」


 ――パタリッ……


 そして、突然プッツリ糸が切れたかのように仰向けにひっくり返る。


 「……」


 俺は潰れた蛙のように腹を丸出しで倒れた……

 未だ四肢をピクピクとさせる男に近づい……


 ガバァッッ


 「おっ!おおぅっ!?」


 急に起き上がりこぼしのように立ち上がる黒焦げの元色男。


 「我が名はファブニール・ゾフ=ヴァルモーデン!人間如きに後れを取る事などありえぇぇーーんっ!!」


 「…………いや……おまえ既に何度も後れを……」


 「あ、ありえんっ!……あり得んったら、あり得んのだぁはぁぁーーあん!」


 呆れる俺の言葉を聞かず、最後は涙声になった黒焦げの竜剣士は、手に持った剣を意外なほど俊敏に掲げる!


 ヒュオンッ!


 そして勢いよく振り下ろされた一撃!


 「ふぅ……」


 しかし、それも軽々と躱した俺は、剣を握った相手の手首を捕らえて――


 ズドォォーーン!!


 投げ飛ばす!


 「おお!!」


 「むぅぅっ!」


 「っっ!?」


 居並ぶ竜人族達は誰もが驚愕し、言葉を失い、感嘆の声を漏らす。


 「まぁ……なんとかなった……か」


 俺の成したこと……


 竜人族の実力者を圧倒するという偉業に周りは熱気に包まれる。


 ワァァァァッッ!!

 ワァァァァッッ!!


 「……」


 ――しかし、まぁ、よくもそのレベルで俺の紫電乱撃ライトニング・ストーム真面まともに食らって動けるなぁ……


 俺は余裕の表面上とは裏腹に、心中では竜人族の屈強な能力ポテンシャルに心底感心していたのだった。


 「う……そ……あの斎木 創バカ竜人族わたしたちを圧倒するなんて……」


 信じられないといった表情の蒼き竜の美姫を眺めながら、内心俺はほくそ笑む。


 ――あぁ、そういう無防備な表情もなかなか可愛いなぁ……


 当然のことだが、俺が竜人族の一流の戦士であろう、ファブニールを圧倒することなんてありえない。


 これはあくまでも俺の固有スキルによるインチキだ。


 しかし……


 「うむ、しかと見届けた!斎木さいき はじめよ……我が国を……我が娘を頼むぞっ!」


 閻竜王ダークドラゴン・ロードはババッと玉座から立ち上がり、大仰に両手を打ちつけて拍手する。


 「おっ!おおぉぉぉぉーーーー!!」


 そして続いて三人の竜将軍ドラゴン・ジェネラル達……

 更には玉座の間に詰めていた竜戦士ドラグーン達が一斉に喝采し、その場は歓喜の声に埋め尽くされていった。


 「…………今さら言えないよなぁ……ま、いいか、仕事はやり易くなりそうだし」


 そして俺は、成り行きで手に入れたこの賞賛をあえて受けることにする。


 「ちょ、ちょっと!お父様っ!!頼むってなに?私の……私の意思はっ!?私の純潔はぁぁっっ!?」


 熱気に湧く竜の王国が玉座の間で、

 唯一人、蒼き竜の美少女が騒いでいるように見えたが……


 ――些細な事だ、まぁ問題ないだろう


 第七話「二枚の手札(カード)」後編 END

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