第3話「聞かなきゃ良かったわ」前編(改訂版)

 第三話「聞かなきゃ良かったわ」前編


 ――”十七歳の春”、俺は引き籠もりを始めた。


 別にいじめられていた訳じゃ無い。


 勉強もスポーツも普通……けど、部活動はしたことが無い。


 中学の友人達がこぞって地元の公立へ進学する中で、当時の俺は何を思ったのか電車で三十分程離れた私立に入学した。


 そこでは同じ中学から来た、顔を知る程度のとても友人とは言い難い輩が十人ほど……


 入学式が終わって、新しい教室に割り振られた俺は、その程度の顔見知りさえいない状況……つまり”独りボッチ”だった。


 ――不味いな……


 俺はその時になって初めてそう思った。


 ただなんとなく他人と違う事をしてみて、でちょっとばかり運に恵まれなくて……


 そういう”軽はずみな性格”と”生来のついてなさ”が大いに発揮された結果だった。


 ここにきて若干の危機感を感じた俺は、それでもなんとか前の座席の生徒に話しかけたり、休憩時間は極力周りの話に注意して、少しでも知識がある会話の中に入っていったりして、今まで殆どしたことが無い様な努力に明け暮れた。


 ――結果……


 俺は一年間を無難とは言い難いが、数人の”知り合い”と共にどうにか過ごすことが出来た。


 そして二年の春……


 ――俺はまたもや”独りボッチ”だった


 進級の際にクラス替えがあり、新たなクラスになった俺には、苦労して作った僅かな顔見知りは一人もいない。


 ――運が悪い?


 そうかもしれない……けど俺は……


 実のところ自業自得であると言えばそうである。


 それは、この学校では進級時に”ある選択”が出来たからだ。


 そして俺は、そこでまたもやしくじった。


 ”軽はずみな性格”と”生来のついてなさ”の再来だ。


 ――進級の際に俺は……理系を選択したのだ


 つまり、人付き合いが得意とは言い難い俺が、一年間、悪戦苦闘して手に入れた数人の話し相手……知り合いは誰一人として理系を選択しなかったのだ。


 ――不味いな……


 なんだか既視感デジャヴだ。


 いやいや、それこそ自業自得。


 教室ここには机に突っ伏して寝たふりをする、単に同じ失敗をした間抜けが居るだけだろう。


 「……」


 こんな風に俺はここぞと言うときに失敗をする。


 しょうもない失敗……けど、致命的な失敗。


 なんだか馬鹿らしくなった俺は、二度同じ努力はしなかった。


 ガラ


 俺はそのまま誰の気にも留められないまま教室を出て、街を彷徨う。


 平日午前中……

 帰宅したとて、一人暮らしで特に趣味も無い俺には持て余す時間が長すぎるから。


 「ふぁぁ……」


 こんな時間に出勤なのか”やる気の無いサラリーマン”がまばらに見える駅の商業ビルで、なんとなく時間を潰していた俺は、適当なゲームショップに入った。


 ――おぉ、これは大作と言われる噂のオンラインゲーム……だったっけか?


 ゲームはしないわけで無いが、そこまで詳しくない俺。


 そんな俺でも名前ぐらいは聞いたことがある……PCゲームソフトが棚一杯に陳列されていたのだ。


 ――ついこの間、発売したらしいが、コレ……独りでもできるのか?


 オンラインゲームというのはなんだかコミュ力が必要そうで敬遠していた俺だが、その時の俺の行動は魔が差したとしか言いようが無い。


 「……」


 コトリ


 俺はズラリと並んだゲームソフトのパッケージを一つ手に取り、レジに向かう。


 俺は出会ってしまったのだ……


 居場所がなくて、学校を逃走エスケープして。


 普段は大して興味の無いゲームソフトを手に取って。


 現在いま、思い返してみると、あれも……

 

 ”軽はずみな性格”と”生来のついてなさ”


 だったのだと。


 「取りあえず……極めてみるか、時間は腐るほど在るしな」


 人付き合いを怠り、努力を怠り、なんだか色んなものを怠ってきた俺は出会ってしまったのだ……


 今流行のオンラインゲーム……


 「闇の魔王達ダークキングス」に。


 第三話「聞かなきゃ良かったわ」前編 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る