第4話 体験入店

「玉響って何の店なんすか?」

「ホストクラブじゃ」

「は?」

 思わず聞き返してしまった。

「神様もホストするんすか!?」

「需要があるからいるんじゃ。……おっと、すまんの」

 その時、弟様の懐から軽快な電子音が鳴った。

「もしもし? あぁ、か。じきに着くからの……」

 弟様は電話を切った。

「行くぞ、煌星」

「ちょっと待ってくださいよ。明らかにヤバい事言いましたよね? 俺どうなるんすか? 人身売買でもされるんすか?」

「行くぞ」

「いや、はぐらかさないでくださいよ」

「行くぞ」

 弟様は真顔で言った。これ以上、聞いてはいけない。俺の勘がそう言っていた。


 少し歩くと、顔写真と「玉響」の文字が踊る看板が見えた。

「ここじゃ」

 弟様はドアを開けた。恐る恐る、俺も続く。

「いらっしゃいませぇ〜」

 妖艶ようえんな雰囲気の美女が迎えてくれた。

きっしょうてん、連れて来たぞ」

「ありがとねぇ、おとちゃん。あら?そちらの坊や、人間ね?」

 見抜かれてしまった。


「そんな怯えないでよ。ちょっと働いてもらうだけよぉ」

「な、何の仕事っすか?暗殺っすか?」

 恐る恐る聞く。

「面白い子ね。実は、うちの子がダウンしちゃって……。坊やには体験入店でそのお手伝いをしてもらいたいの。大丈夫、難しい仕事じゃないから。ヘルプ回りをしてもらうわ」

「何すればいいんすか?」

「色んなテーブルを回って、他の子の会話とかお酒のサポートをするのよ」

「分かったっす」

「ありがとう。……あっ、名前聞いてなかったわね。源氏名を決めるから、教えてくれる?」

「京極煌星っす。煌星は『煌めく星』って書くんす」

「……じゃあ、りゅうせいでどうかしら?」

「いいっすよ」

りゅうちゃん、人間の世界から来たみたいだけど、どうやって神楽街ここに来たの?」

 表情は真剣そのものだった。


 俺は吉祥天に全てを話した。あの不思議なマークの事も。

「それね、神楽街と人間の世界を行き来するのに使う物なの。目立ちにくいとこに書くものなんだけど『バレない』からって目立つとこに書くひとがいるのよ……」

 ため息混じりに話してくれた。

「元の世界に帰りたい?」

「…………帰りたくないっす」

 あの毎日に戻るのは嫌だ。

「分かったわ。うちは外国人しかいない店だけど、特別ね。みんな日本語ペラペラよ。あ、そこの部屋にスーツがあるから好きなの着ていいわよ。初めてでスーツ持ってないだろうから、貸してあげる。レンタル料はタダよ」

「あざっす!」

 俺は喜び勇んで、ドアを開け、手近なスーツに着替えた。


 戻ると、スーツを着た外国人がたくさんいた。

 俺に視線が集まる。

「紹介するわ。体験入店の流星くんよ〜。」

「ここだけの秘密なんだけど、流星くんはかくかくしかじかで神楽街に来ちゃった人間なの。絶対に内緒よ?」

「先輩方、よろしくお願いしまっす!」

 俺はお辞儀をした。

 その時、お店の照明が点き、音楽が流れ出した。

 玉響は、しっとりとした雰囲気の店だった。

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