第39話「五日目」第一ゲーム 絶対防御! 無敵のレア・カード「エバーグリーン」

 そして、第一回戦のドラフトが始まる。


「なんだこれ?」


 そこで、ベータ達は各プレイヤーに、どこにでもあるような白紙の束――つまりメモ用紙とペンを手渡してきた。


「ご活用ください。「タブー」を探すのには必要となるかと思いましたので、念のために用意させていただきました」


 白ベータがすべてのプレイヤーに聞こえるように言った。

 

「……見つけるのにはこのメモが必須ってことか?」


「いえいえ、必須ではありません。ただ、助けになれば、と」


 〝ゼロ〟の言葉に、向かい側から赤ベータが応える。


 〝ゼロ〟はため息を漏らした。相変わらずうさんくせぇなぁ、こいつら。なんか裏の意味とかありそうで、一々げんなりしちまうよ。


 〝ゼロ〟と同様に他のプレイヤーたちも、それぞれ怪訝けげんそうに、無地のメモ用紙を見つめている。


 第一、いきなりこんなん渡されてもあれだよな。何を書いていいのかわからん。


 ――いや、でも相手のレア・カードを記録できるのは良いかもな。むしろ、なんで今までのゲームでは使わせねぇんだよこれを。


 でも、こんなん無くてもベータに聞けば、ゲームの経過はなんでも応えるんだよなコイツ等。……こんなもん渡しちゃったら、どんどん自分らの仕事がなくなっちゃうんじゃねーの?


 〝ゼロ〟は赤にセリフを奪われている白ベータを見る。


「……ご質問ですか?」


「いや、いい」


 まぁ、どうでもいいだろう。こっちとしても余裕はないのだ。こいつらの存在意義の是非についてはコイツ等自身に託すとしよう。


「……では、始めて行きましょう」


 オレンジが言う。そして最初のドラフトが始まった。






 それぞれのプレイヤーの元に、5枚1セットのカードが配られる。


 まずは反時計回りのドラフトだ。


 ちなみに、次は時計回り。その次はまた反時計回りと言う具合にカードを送る向きを変えるという具合で進行するらしい。


 つまり、一回戦は〝ゼロ〟から〝レイア〟へ向けてカードを回すことができる。


 最初に渡された5枚のカードは、〝ゼロ〟の予想通り1~5のセットだった。


 〝ゼロ〟は迷わず、自分に与えられた5枚一組のカードの中からレベル5のカードを選抜ドラフトした。


 このゲームで勝つべきは俺じゃなくて〝レイア〟だ。俺の手札ハンドは重要じゃない。


 この「五日目のゲーム」に挑むにあたって、〝ゼロ〟と〝レイア〟が用意していた基本的な戦術は「役割分担を決めておくこと」である。


 〝レイア〟が強い手札を作り、〝ゼロ〟がそれをサポートするという戦略の元、レア・カードを分配してあるのである。



 〝ゼロ〟が持つレア・カード一覧



 ホワイト・ポータル レベル10


 シルバー・バレッド レベル7


 ブラック・ポータル レベル6


 ブラック・スワン  レベル7


 ピンキー・ウェア  レベル8


 グリーン・ピース  レベル6


 ブルー・フィルム  レベル10




 ホワイト・ポータル・ブラック・ポータルやピンキー・ウェア、グリーン・ピースをスキャニングして〝レイア〟を脇からサポートするための選択だ。無論、いざというときは勝ちに行けるだけの用意もある。


 対して〝レイア〟のレア・カードはゴールド・イクリプスやディープ・ブルーなど、自分のハンドを強化できるものばかりだ。


 

 〝レイア〟の持つレア・カードの一覧



 ブラック・ポータル  レベル6


 ディープ・ブルー   レベル-


 ゴールド・イクリプス レベル10


 ダーティ・レッド   レベル9


 サンライト・イエロー レベル8


 ブロンズ・スタチュー レベル8


 ブラウニー・ブラウニーレベル7


 ゴールド・ラッシュ  レベル6



 この手のゲームに理解がある〝ゼロ〟が比較的使い方の難しいカードを持って、強力な手札をそろえた〝レイア〟をサポートする。


 無論、いざというときに役割を反転させるための用意もしてある。


 二人での協力プレイが可能であるなら、かなり強力な布陣であるといえるだろう。






 故に、〝ゼロ〟はこのドラフトで回ってくるレベル5を、全て自分の所で止める気でいた。


 〝レイア〟に回したとしても、〝レイア〟自身がそれをドラフトしなければいいのだろうが、そもそも〝ゼロ〟は〝レイア〟にレベル5を渡すのが不安だった。


 さんざんに言い聞かせてはあったものの、〝レイア〟がまた、我が身を顧みず決死の策に打って出るのは防がねばならなかったからだ。


 カードを受け取り、〝ゼロ〟がそこからレベル5をドラフトしたのが分かった〝レイア〟は、目を細めて〝ゼロ〟を睨み付けてきた。


 この期に及んで信用していないのか?! とでも言いたいのだろうが、しかたがない。


 自分で自分の指切り落とすような奴に、二度とこんなあぶねーもん持たせらんねぇんだよ。


 あんなのは、二度とごめんだ。






 そうこうするうちにドラフトは進んでいく。


 回ってきたカードの束から一枚を引き、次に回す。繰り返す都度に回すカードは減っていき、最終的にそれぞれ五枚のカードを揃えることになる。


 さて、普通に考えるなら、誰だって価値のあるカードから取っていくはずだ。


 まずはレベル4、レベル3、レベル2、レベル1 そしてレベル5、と言う感じか。


 5枚勝負での形式に固定されちまうとなると、レベル1の活用はさらに難しくなるし、レベル5は依然として問題外だ。


 逆に、全員が相応のレベル2ないしレベル1を含んだハンドを作らざるを得ない以上、レベル3の価値は跳ね上がるとみていい。

 

 ここが事前にカードを用意できる基本ルールとの一番の違いだ。

 

 初めてということもあり、少々もたつきつつ、ドラフトは終了した。まぁ、最初はこんなものだろう。

 

 しかし、一方で最終的に自分の手元に集まったカードを目の当たりにして、〝ゼロ〟は、言葉を失うこととなった。


 思いがけない事態だ。


 現在〝ゼロ〟がドラフトすることが出来たカードは、5 3 3 2 1。


 〝ゼロ〟の元に、レベル5は一枚も回ってこなかったのだ。それはつまり、誰かが上記のセオリーに反したドラフトを行ったということだ。

  

 いったい誰が、どんな理由で?


 ……怪しいと言えば、〝アヤト〟だ。少なくとも、〝ゼロ〟にカードを回す位地にいた〝アヤト〟が自分からレベル5を取らない限り、最低一枚は〝ゼロ〟にレベル5が回ってくるはずだったのだ。


 つまり、〝アヤト〟は少なくとも一枚のレベル5を、自分から選抜ドラフトしたという事になる。


 まさか、その上で他のレベル5も? なぜだ? 〝アヤト〟も〝ゼロ〟と同様に誰かと組んでいるのか?


 ――いや、現時点では推察しきれない。とにかく今は俺たちの計画通りにゲームを進めることが重要だ。






「……では、それぞれドラフトしたカードを手札として提出してください」


 プレイヤーたちはそれぞれのカードセットをボックスに嵌め込んでいく。


 〝ゼロ〟もカードを提出しなければならない。不可解な事態だがいつまでも悩んでいるわけにもいかない。


 ……とりあえず「予想外のドラフト」や「タブー」については置いておくとして、現時点でもっとも留意すべきは、このゲームに乗るか否か、である。


 〝ゼロ〟の役目はあくまでサポートだ。それは揺るがない。


 だが、予想に反して手元には悪くないカードが揃ってしまった。


 無論、そこまで勝ち目のあるカードではない。〝ゼロ〟は既に三枚のレベル4を〝レイア〟に取得させてある。


 〝レイア〟はそこへさらにレア・カードを加えて盤石なハンドを作るだろう。


 〝ゼロ〟がわざわざ勝ちに行く必要はない。


 しかし、そう安易には決めかねるのもまた事実なのだ。


 なぜなら、今宵、五回しかないゲームのチャンスをフォールドと言う形で見送っていいものか。


 〝ゼロ〟は真剣に思い悩むこととなった。


 ゲームの展開によっては〝レイア〟が封殺される可能性もゼロではない。


 たとえそうでなかったとしても、ゲームに参加した方が多くの情報を得られるのは確実なのだ。


 〝ゼロ〟は顔を上げた。〝レイア〟の強い視線が〝ゼロ〟を見ていた。


 〝ゼロ〟の思惑を知ってか知らずか、〝レイア〟はただ、強く頷いた。呼応するように、〝ゼロ〟も頷く。


 そうだ。日和見な思考は自らの意気を削ぐことにもつながる。危険を避けるのではなく、チャンスを引きよせるために動くべきだ。






 〝ゼロ〟は思案の後、他の四人からわずかに遅れてカードをセットした。


 セットを終えてベータを見上げると、ベータ達はそろって〝ゼロ〟ではなくタイマーを見ていた。


 いや、どこ見てんだよおまえら。まさかタイムアップじゃないよな? と、〝ゼロ〟もタイマーを見る。


 タイマーは残り20分丁度を示している。なんだ、余裕じゃないか。


 最初のドラフトで少々もたついたが、こんなモノだろう。


 しかし、ベータたちはなぜそんなに時間を気にしてるんだ? ……何かあるのか? 


 解らなかった。しかし、不可解な部分は覚えておくべきだろう。


 ベータの行動や思考の理由を追うことはタブーを解き明かす意味でも大事なことだ。


 セットが終わった〝ゼロ〟はメモにドラフトで気になたっ点やベータたちの行動、残り時間等を思いつくままに箇条書きにした。


 ……こういう使い方でいいのかな? こういうのはどうも得意じゃない。


「では、フォールドされる方は申し出てください」


 白ベータが告げる。しかし応える者はいなかった。誰もフォールドする者はいない。


 第一ゲームは全員参加だ。やはり、皆、考えることは同じか。いきなりフォールドしたら分かることも分からないもんな。


 さて、いよいよドラフトした結果のカードを開示する時だ。


 この瞬間は何度やっても慣れることはない。静かに早鐘を撃っていたはずの心臓が、さらに――


 ――――と、〝ゼロ〟が今まさに裏返るであろうカードの裏面にを注視していると、その視界の端に後ろからベータの手が伸びてきた。


 何事かと思う間も在らず、そのベータの手は、〝ゼロ〟が向かうボックスの右端の辺りに、何かをコトリと置いた。


 どのプレイヤーからもよく見える位置だ。それは先ほども見せられた。硬貨ほどの大きさの黒い小物。――つまりは「星」だった。


 〝ゼロ〟は目を剥いて、傍らに身を乗り出している白ベータを見る。


 馬鹿な……俺は「タブー」を犯したっていうのか?


 何をやった? 何が悪かったんだ。

 

 そして、その想いは、困惑は、全てのプレイヤーが感じていることだった。


 そう、星を付けられたのは〝ゼロ〟だけではなかった。五人のプレイヤー全員に等しく星が付いていたのだ。


 なんだそりゃ? 全員? どのタイミングで? 何をやったっていうんだ?


 困惑が沸き起こるなか、〝ゼロ〟のお付である白ベータだけが、さらなる挙動に出る。


 二つ目である。二つ目の星が先ほどの星の横に並べられたのだ。


 これは〝ゼロ〟だけだ。〝ゼロ〟だけが、二つ目の星を付けられてしまった。つまり、ここまでで二度の「タブー」を犯したという事。


「ちょ――おまッ、これ、どういう」


 〝ゼロ〟は思わず声を上げる。しかし、白ベータは応えない。


 ただ、無貌の仮面の前に指を立て『お静かに』とジェスチャーするだけだ。


 ……たしかに、タブーについてのヒントになるようなことは喋れねぇよな。ゲームの意味がなくなる。


 だが、言ってみれば、まだゲームは本格的に始まってもいねぇじゃねぇか。


 最初のゲームが始まってもいないこの時点で二つ? 意味が解らない。


 白ベータの挙動で質問の意味がないと悟ったのか、それぞれに目を剥いていたプレイヤーたちも声を上げることはなかった。


「ではでは、カードオープンと行きましょう」


 押し黙るプレイヤー達を余所に、赤ベータが軽快な声色で言った。







 裏返ったそれぞれのハンドは以下の通りである。



 〝ゼロ〟   7 3 2 2 1  (レベル5をブラック・スワンに変更) 。


 〝レイア〟  4 4 4 1 10 (レベル1をゴールド・イクリプスに変更)


 〝ツーペア〟 4 3 3 2 3  (レアを加えずそのまま提出)


 〝キング〟  4 3 2 2 1  (レアを加えずそのまま提出)


 〝アヤト〟  5 5 5 5 1  (レアを加えずそのまま提出)






 〝レイア〟はさすがに貫禄のハンドとなった。二人がかりで作ったようなものだから、当然といえば当然だ。


 一方〝ゼロ〟もレア・カードで手札を補強することにした。


 少々惜しい気もしたが、やはりレベル5を手札に加えることが〝ゼロ〟には憚られたのだ。だが、他にもサポート用のカードは多数ある。問題はないだろう。


 ――そんな浮ついた思惑を吹き飛ばすような驚愕に〝ゼロ〟は見舞われることとなった。


 〝レイア〟〝ツーペア〟〝キング〟へのリアクションもそこそこに、〝ゼロ〟は〝アヤト〟の手札に度肝を抜かれることとなったのだ。


 そんな、なんてばかなことを――


 〝アヤト〟はレベル5を4枚もドラフトし、手札に加えてきたのだ。


 予想はしていた。レベル5をどうする気なのかと思ってもいた。だが、まさかそのまま手札として使ってくるなんて!!


 そして、〝ゼロ〟は驚愕と共に、斬りおとされる〝レイア〟の指を思いだし、〝アヤト〟のカードのその文面を見ながら、身体を震わせる。


 全ての爪、左手、腎臓、前頭葉をそれぞれ提出しろと言う文面。


 見たくもないのに、目が自然と文面を追ってしまう。


 当然、プレイヤーたちはもちろん、ベータの中からも息を呑むような気配が伝わってくる。


 誰も〝アヤト〟へ声を掛けることができなかった。


 疑問はいくらでも湧いて出てくるが、まるでそれらを愉しむかのような〝アヤト〟の艶貌に、言葉が言葉にならなかったというべきか。。


 ただ一人、〝レイア〟が呆れ返ったような声を上げた。


「アンタ、自分が何やったのか解ってんの? 自殺すんなら人の見てないとこでやってほしいんだけど?」


 〝アヤト〟は菩薩のような微笑みさえ浮かべて、〝レイア〟を、そして各プレイヤー達の顔を、見渡すように首をめぐらせた。


 まるで――とでも、宣言するかのように。


「そんなつもりは有りませんとも。だって、――この『ゲーム』は、が本番でしょう?」


 そして、ある種、厳かな手つきで一枚のカードを取り出し、その側面を滑らかな手の甲に添える。


「よろしくて?」


「ど、どうぞ。スキャニングは時と場所を選びません」


「では、カードをスキャニングします。レベルは10。カード名は『エバーグリーン』!!」


 そして〝アヤト〟は手の甲を滑らせたそのカードの表部分を、そのまま周囲に見せつけるように掲げる。けどこの距離からじゃ、緑色のカードってことしかわからねぇんだが……。


 すると、緑ベータがカードの効果を解説した。


 その内容は以下のようなものだ。




「不朽の常緑樹(エバー・グリーン)」 レベル:10


 このカードはいかなるカードの対象にもならず、いかなる特典の影響も受けることはない。また、このカードが対峙するカードに勝利した場合、所有者のプレイヤー及びプレイヤーの所持する全てのカードは、現在のゲーム・フェイズが終わるまで、同様の効果を得る。


 また、ゲームに敗北してもこのカードの所有権は移動せず、誰かに譲り渡すこともできない。


 


 ――なんだ、そりゃ?! 〝ゼロ〟はしばらくその文面の意味を呑み込めずに言葉を失っていた。


 なんだそれは? 言葉通りに取るなら、それは即ち、無敵――絶対防御のカードだとでもいうのか?!



「この……ッ」


「ダメだ! やめろ!!」


 〝レイア〟が何をしようとしているのかを察した〝ゼロ〟は叫んだ。


「そうそう、やめておいた方がよろしいです。だってなんすもの」


 〝アヤト〟が薄ら笑いを加えてうそぶく。はにかむような、妖艶な表情で見つめてくる。まるですべては無駄だと諭すかのように。


 そうなのだ。このレア・カード、「エバー・グリーン」そのものが他のレア・カードの対象にならない。つまり干渉すらされないってことは、「ブラック・ポータル」で打ち消したり、「ピンキーウェア」でコピーしたりってこともできないってことじゃねぇか。


 さらに、〝ゼロ〟の「ホワイト・ポータル」でも能力の再現ができないという事だ。何もできない。――相手に何もさせないってことじゃないか!


 いる! なんてカードだ! ゲームバランスはどうした!? おまえらそういうの気にしてたんじゃねぇのかよ!?


 〝ゼロ〟は傍らに寂然と立つ白ベータに眼で訴える。しかし、


「問題はありません」


 〝ゼロ〟の疑問を察したらしい白ベータはこともなげにそう言った。


 どういうことだ? バランスは取れてるって言いたいのか? 嘘だろ? こんなカードがあったら、相手を完封できちまうじゃねーか!?


「ですが、そのカードの効果が有効である以上、レベル5並びにレベル1の特典も、全てが無効化されることとなります。〝アヤト〟様がこのままゲームに勝利されたとしても、得られるチップは基本の60(15×4)のみとなります」


 赤ベータが補足する。だが、このカードが圧倒的な脅威であることは変わりがない。

 

「わかっていますわ」


「――ハッ! じゃあ、大した勝ちにならないってことじゃん」


 〝レイア〟が吐き捨てるように言う。〝ゼロ〟が言えないことを言ってくれるのは良いことなのだが、今回ばかりは恥の上塗りだ。


 その証拠に〝アヤト〟は表情を変えることもない。


「勝ちは勝ちです。私が欲しいのはチップではありません。あなた達のレア・カードですよ」


 〝レイア〟の煽り声に、〝アヤト〟は平然とこれを突っ返す。物の数ではないと言わんばかりに。


「あなた方のレア・カードを全て取り上げてしまえば、ここで得られるチップを増やす意味などありません。そもそも、チップにはずいぶんと余裕があることですし」


 言って、〝アヤト〟は〝ゼロ〟を流し見てくる。


 先ほどまでは自分を挟んで睨み合う二人の女の間にに入り込む余地を見いだせないでいた〝ゼロ〟だが、これには再び腹の底が煮えたぎる思いだった。


 この女、何故か今日に限って事あるごとにこっちを挑発してきやがる……。


「で、では、これ以上対応するプレイヤー様がいらっしゃらないなら、ゲ、ゲームを終了いたします」


 緑ベータが宣言した。誰も、反論も反抗もできない。しようがない。


 言うまでもなくレベル5で三勝を挙げた〝アヤト〟がそのまま勝利となった。だから〝アヤト〟は好んでレベル5をドラフトしていたのだ。


「やっぱり――お前が〝特別枠〟か!」


 そして〝ゼロ〟は声をあげ、〝アヤト〟に食ってかかる。


 〝シード〟のはただの勘違いだったが、そういう特別枠が居てもおかしくはないとは思っていた。


 こんなチートみたいなこんなカード持ってるヤツが一般参加者なわけがない!!


 しかし、〝アヤト〟はこれにクスクスと忍び笑いを返すだけだ。 


「何のことでしょうか? 今のゲームには関係のないことではなくて?」 


 ――クソッ! こんなのがありなのか? 何とかしてこのカードを封じないと、俺たちの勝ち目は……。






 歯ぎしりさえ交えて憤慨する〝ゼロ〟の耳に、その時予想もしない音が聞こえた。


 パチリと、まるで碁盤に石でも打つような音だ。


 見れば、白ベータが〝ゼロ〟の向かうボックスに、三つ目の「星」を置いたところだった。


「なッッ!?」


 なにーーーーッ!?


 〝ゼロ〟は重ねて驚愕せざるを得ない。


 何が? どうして?? なんで今? さっきので終わりじゃないのか!?


 さらに、ベータ達は〝ツーペア〟そして、いましたがゲームに勝利したはずの〝アヤト〟にも、さらにひとつの星が付けていたのだ。


 〝ツーペア〟も〝アヤト〟も、いや、全てのプレイヤーが等しく面喰っている。


 どうして今? どういう条件で星が付くんだ!?


 わからない。だが、現に〝ゼロ〟にはもう過半数と言っていい三つもの星が付いてしまった。


 これが五つになった時点で失格となり、またあの二日目のパークまで戻されてしまう。


 そうなったら絶望的だ。もはや最終会場へたどり着くことはできなくなるだろう。そうなれば……俺はオメガにされてしまう。自由意志を奪われ、まるでゲームのキャラクターみたいに、プログラムに沿って動くだけの……。


 〝ゼロ〟は一人、吐き気を覚え、身をよじる。


 この「タブー」への不可解さのせいか、プレイヤー同士の諍いも続かず、ゲームはしぼむように最初の休憩時間を迎えることとなった。




・現在つけられている星の数


〝ゼロ〟   ★ ★ ★

 

〝レイア〟  ★


〝ツーペア〟 ★ ★


〝キング〟  ★


〝アヤト〟  ★ ★



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