第13話「二日目」絢爛「新たなるパーク」へ
結局、いつまでも未練がましくルートから外れた崖に居るわけにもいかず、〝ゼロ〟は白ベータと共にいちばん近場のパークへと向かうことになった。
近場を選んだのはさっさと着替えたかったからだが、何よりも昨夜、一人会場を後にしてしまった〝ゼロ〟には、他のプレイヤーたちがどのようなルートで先に進んだのかが分からなかった。
前日と同じように白ベータはさっさと姿を消し、〝ゼロ〟は今、一人ぽつんと、新しく目の前に出現した街を見上げている。
そう、見上げているのだ。
昨日初めて目にした、平屋の集まりのような「集落」とはまるで違う規模の、まさしく「街」と呼ぶべきものが其処にはあった。
まず目を引くのは城壁だ。材質はレンガ――あるいはタイルのようなつるりとした質感で、高さはそれほどでもないが、とにかく分厚く、上部にはオーバーハングした返しまでついている。
まるで本当に何かを跳ね除けようとするかのように堅固な、まさに城壁と言うべき代物だと言えた。
その向こうには城壁越しにも見上げることのできる建物がいくつも確認できる。
平屋ばかりだった初日のパークとはうって変わって、今度は二階三階建ての施設が軒を連ねているのだ。
先頃白ベータの語ったところによれば、この巨大な街には最初のパークと同じ必要最低限の施設に加え、集会場、劇場、施療院、酒場と、巨大な公衆浴場まで完備されているとのことだ。
巨大な門は開け放たれており、なおかつ無人であった。〝ゼロ〟は泥だらけのまま街の中へと進んでいく。
中はすべてが奇妙な石材で覆われていた。
その全てがまるで
視界の左右にはある種、
しかし一方で、何処か―――否、何かが奇妙であった。
その全てが、まるで遺跡のような古びた石造りでありながら、なんと言おうものか、使い込まれた実生活の痕跡のようなものを
そんな奇妙な印象が拭えない。
まるで、ただのエキストラであるはずのこのオメガ・シープ達が常頃からこの場所で、こんな孤島で自主自立した生活を営んでいるかのような……。
そう、この街には、『ゲームのために
〝ゼロ〟はその、『活きた遺跡都市』とでもいうような、矛盾した景観が広がる大通りに差し掛かる。
――が、すぐにその歩みは滞り、ついには一人、石畳の上に立ち尽くしてしまった。
なぜなら、懸念があるからだ。
もしかしたら他のプレイヤー達がこの街に居るのかもしれないという懸念である。
〝ゼロ〟はひたすらに気が重かった。
誰にも会いたくなかった。あの惨劇の後で、それを引き起こした張本人である〝ゼロ〟に対して、彼らがどんな感情を抱いているのか。考えるだに恐ろしかった。
今の彼は、人殺しと罵られても文句の言えない状況なのだ。故に、〝ゼロ〟は一人、ひたすらに悔恨の念を持て余す。
足は思うように動かず、このまま照り輝くような大通りを真っ直ぐに進むことが憚られた。
そのせいか、〝ゼロ〟は一路、城壁の創る厚い影に引き寄せられるようにして、あてどない足取りでうすら暗い路地へと近づいて行った。
すると、いくらも歩かぬうちに、そこへたどり着いた。そこは吹き溜まりのような場所だった。
磨き上げられたかのようなこの巨大な街にの中にあって、不釣り合いに不潔で、雑多な印象を受ける一角だった。まるで、あえてそう
だからこそ――なのだろうか。〝ゼロ〟は自然とそこで足を止めた。
むしろ、表通りの荘厳な
そう言う心境だったのだ。
こうして独り、改めて事の次第を
もはや意気は枯れ、足は萎え、この場で蹲ってしまいたかった。
何よりも孤独が彼の心と体に伸し掛かっていた。あんな空気の読めない白ベータでさえ、いないよりはマシなのだと思い知らされたほどだ。
以前はあまり感じなかったことだが、今は嫌と言うほどに心細さを感じている。
そもそもなじみのない異国のような場所でひとり、あるのは抱えきれないほどの罪悪感だけと言った有様なのである。
誰にも会いたくなかった。しかし、誰でもいいから傍に居てもらいたかった。
どうしようもなくなり、あてどない嗚咽を漏らそうとした、その時だった。
その薄ら暗いスペースの奥、その隅に、何か――蠢く何かが居るのが分かったのだ。
何かの錯覚だったか? いや、そうではない。確かに居る。
暗がりの中に横たえられるようにして、確かに何かが息づいている。
動物か何かか? しかし、この島に来てからこんなサイズの動物がいる気配は無かったのだが……。
それとも、まさかこんなところに先客が? 〝ゼロ〟は息を呑みつつも、惹きつけられるようにそこへ歩を進める。
暗がりの、より、奥へ。
日差しからなおも遠ざかるように。ゆっくりと、着実に――
自分でもなぜそんなことをしようとしているのか解らなかったが、とにかくそうせざるを得なかった。
それがどれほどの状態であっても、どれほど幸福で、或いはどれほど悲惨な状況であっても、人間は好奇心には勝てない。
「あのさ――――」
そしてついに、声を
〝ゼロ〟の背中に唐突で無遠慮な声が掛けられたのだ。
「ちょっと――いい?」
「うわぁっ!」
胡乱な声を上げて振り向けば、そこには難しい顔をした女が一人、〝ゼロ〟を見つめて――というよりも見
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