第50話 別人?同一人物?

「おらぁ!」


テール姫の扇の羽搏きから放たれる白と黒の衝撃の波紋を、手にしたスティックで切り裂く。


花を象ったスティック――先端部分からエネルギーが流出しているため、どちらかと言うとビームサーベルに近い――の先端部分を相手に向け、魔力を籠める。


吹き飛べおらぁマジカルフレア!」


叫びと共に先端から放出されているエネルギーが爆発し、真っすぐテール姫へと打ち出される。その強力無比な光弾を、テール姫は胸の前で交差させた扇で受け止め、跳ね上げた。


ドゴォンという轟音が響き渡る。

光弾が天井を貫いた衝撃で洞窟全体が振動し、天井からパラパラと砂埃や岩が降ってきた。


このままだとじき崩壊するな、ここは。

魔法少女のデビュー戦にはここは狭すぎる。


「折角の喧嘩デートだ、こんな狭い所じゃなくもっと広い所でやろうぜ」

「いいですわね……お供いたしますわ」


にたりと不気味に笑いながら、姫が嬉しそうに頷く。

元の顔が整っているだけに不気味極まりない。


俺は顎で天井に空いた穴を指し示し、穴へ頭から突っ込む。

あ、言っておくけど。

これ別に下ネタじゃないからね!



穴を抜け、青空高く舞い上がる。

その際地上に居る少年達を視界の端に捕らえ、思わず顔がにやけた。

俺のこの格好を見て、少年がどういった反応を示すのか今から楽しみで仕方がない。


「デート中に……他の女に目移りしないでください」

「悪い悪い、集中するよ」

「一つ……お尋ねしてもよろしいですか?」

「何だ?スリーサイズか!?」


自分で言うのもなんだが、今の自分のスタイルはびっくりするほど抜群だ。

例え同姓であろうと、ここまで見事だと気になって仕方ないに違いない!


「俺の所感では95、60――」

「ポエリに……」


スルーされた。

ノリの悪い女だ。


「もしポエリに求婚されたら……勇者様は受け入れられますか?」


質問の意図が分からず首をひねる。

少年が好きなのはもう一人の方だから、俺が告白される可能性は0だし。


そもそも好みですらないんだが?

とりあえず告白される前提で答えておく。


「まあ、そうだな。少年が化粧を覚えるか整形するなりして、その上でボンッキュッボーンになるってんなら考えなくもないな」


まああり得ないがな!

将来ひょっとしたら化粧ぐらいはするかもしれんが、齢16にしてああもぺったんこでは、将来の発育にはたいして期待できない。


「つまり!ノーサンキューだ!」


少年もまさかこんな空高くで、好きでもない相手に振られているとは思うまい!


「よかった……」

「何がだ?」

「ポエリは殺さなくていいみたいで」


え!?

今の質問、俺がウェルカムって答えてたら少年命狙われてたの!?


「だってそうじゃないですか……私は貴方と結ばれないのに……役に立つ事も出来ないのに……それなのに他の女だけ愛されるなんて」


おも!

超おっも!


「そんなの……そんなの…………許されるわけがないわ!!」


叫びと共に姫が突っ込んでくる。


「許す許さないかは!俺が決める!!」


テール姫の連撃を躱し、隙をついて胴に回し蹴りを叩き込みつつ叫ぶ!


ふざけんな!?

女制限されたら夢の世界の魅力が10割減だ!

つまり魅力ゼロだ!


夢とかロマンとか!

そう言うのはエロありきなんだよ!


スティック改めビームサーベルで姫を全力で薙ぎ払って吹き飛ばし、特大のマジカルフレアを叩き込む。


お尻ぺんぺんで許してやろうかと思っていたが、思想があまりにも危険すぎる。

悪いが矯正レベルでボコボコにさせて貰うぜ!





凄まじい閃光に思わず目を閉じる。

まるで直ぐ上空に、太陽がもう一つ生れたかのような激しさだ。


「うわっ!眩しい!」


ポエリが余りの眩しさから、声を上げる。


「一体何だってんだい!この光は!!」

「戦いが始まったようだ」

「戦いって?魔人将ともう一人の勇者様のですか?」

「ああ」


あいつと姫が天井の穴に飛び込んだ後を追って、俺達も外へ出た。

そこでポエリ達を発見し、合流した所で2人の戦闘が始まる。


「凄まじい戦いだな。まさか主があのような力を隠し持っていたとは」


視界が戻り上空を見上げると、フリーザーの言う通り、上空にて2人が凄まじい戦いを繰り広げているのが目に映る。

状況的にはほぼ5分か……


「凄い!凄いわ魔法少女!!もう完全に私たちの出る幕無しね!」

「なんです?その魔法少女って?」


興奮するフレイムに、意味が分からないといった顔付きでポエリが訪ねる。


「神に選ばれし奇跡の少女よ!」


説明を聞いても腑に落ちない感じでポエリは首を傾げる。


「もう一人の俺が変身した姿だ」

「そ、そうなんですか?」


ポエリはますます訳が分からないといった表情をする。

まあ、奇跡の少女とやらがもう一人の俺と言われたら混乱するのも無理はないが、これ以上長々と説明する気はない。


「所で、なんであいつ一人だけで戦っているんだい?」


お前らは何故戦いに参加しないのか?

アルビダの目はそう訴えていた。


「我々では、主の足手纏いにしかならないからだ」

「ふーん、あいつそんなに凄いんだ?で?結局のところ、あいつは何者なのさ?」

「アルビダ、どういう事です?」

「勇者が足手纏いになるぐらい強いのに、別人格ってのは無理があるんじゃないの?」


アルビダは以前から俺と奴の関係性を疑っていた節がある。

それが今回の事で確信に変わったといった所か。


「奴が俺の半身であることは紛れもない事実だ」


俺は事実を伝える。

まあ、信じないだろうが。


「二人から感じる波動はまったく同じものだ、女よ。そもそも我らは契約者しか呼び出せん。二人が別人なら、それぞれに我らを呼び出せる理由が成り立たん」

「フリーザー様の言う通りよ」


明確な根拠を示され、アルビダは黙り込む。


まあ別に疑われていたところで特には困らんがな。

そもそもアルビダの勘ぐりは只の勘違いでしかない。

俺が以前していた様に……


「主が押されだしたぞ!」

「なに!?」


上空を見上げると、そこにはテール姫に押されまくる奴の姿が。


「不味いな」


奴が大きく吹き飛ばされ地上へと激突する。


「主よ、どうする?」

「お前たちはここで待機していろ!」


そう叫び、俺は奴の元へと急ぐ。



次回最終回!

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