第49話 魔法少女
「ああああああああぁぁああああああああああぁぁぁ!!」
両手で頭を押さえ、髪を振り乱し、発狂したかのようにテール姫が雄叫びを上げる。
「あの日かな?」
「馬鹿なことを言ってないで、今のうちに倒すぞ!」
しょうがないにゃあ、今回だけだぞ♪
と、可愛く答えるが。
勇者は俺を無視して突っ込んでいった。
仕方ないので俺もそれに続く。
間合いに入り勇者が剣を振るう。
頭を押さえ、唸り声を上げている姫の首に迷わず振り下ろされたその剣は、首を引き裂く直前に停止。まるで何もない空間に壁でもあるかのように勇者の剣は弾かれ押し返される。
「結界か!?」
「違う!オーラの噴出だけで弾かれた!」
勇者はその場から飛び退き、間合いを離す。
当然それに追従していた他のメンバーも動きを止める。
勇者の聖剣での一撃はこの中でもっとも破壊力がある攻撃だ。
それが闘気だけで跳ね返された。
つまり……
「こっちの攻撃はほぼ効かないって事か」
「不味いわよ!逃げた方が良いんじゃないの!?」
余計な提案するな糞ガキ。
こっからが俺の見せ場だってのに。
「そう簡単に逃がしてくれるわけねーだろ。仮に逃げるにしても、その場合お前らが殿だぞ?」
「う、く。やるしかないってわけね」
逃げる場合はお前ら踏み台だぞと、遠回しに釘をさす事で先程の提案を取り下げさせる。
「だがどうする?主よ。攻撃が通用しないのなら戦っても勝ち目はないぞ」
「うーん、確かに困ったなー」
困った困ったと言いながら頭を抱え、困ったふりをする。
ちらりと横目で他のメンバーを確認すると、全員しかめっ面だ。
おーおー、いい感じに困っとる困っとる。
この困難を俺がばっさり解決すれば、周りの奴はステキ!抱いて!状態になること間違いなしだ。
あ、でも。男二人と糞ガキしかいないからあんま意味ないか。
「下らん演技はやめろ。お前に余裕があるのは見ていれば分かる。何か手があるのだろう?」
どうやら勇者にはバレバレだったようだ。
もうちょい引っ張りたかったが仕方ない。
「まあな」
「だったらさっさとやれ」
何でこいつはこんなに偉そうなんだ?
お願いする立場なんだから、もっとへりくだってワン公の服従のポーズぐらいして見せろよな。
「しょうがねぇな!お前ら、目ぇかっぽじってその脳裏に焼き付けな!」
俺は両手を広げくるりと一回転する。
「マジカルパワー、メイーックアーップ!」
俺は呪文を唱えながら、更に回転する。
「天よ!地よ!そして月よ!」
胸元で両手を交差させ、天を見上げながら叫ぶ。
「私に愛と正義の力を!」
両手の人差し指と親指で胸元にハートマークを作ると、ハートマークから謎のピンク色の光が放たれ辺りを包み込む。
そしてピンクの光に包まれた俺は華麗な変身を遂げる。
光が物質化し、手にはシルクのグローブが!
体には羽をモチーフにした様なワンピースを纏い!
その上から白い羽の生えたピンクのベスト!
そして胸元にはハート型のピンク色のブローチ!
頭部には地味でありつつも、それでいて存在感をきっちり主張する白いティアラを頂き!
足元は素足に革靴!
「月の力を受けて今ここに顕現せん!魔法少女……うーん名前どうしよ?」
そう言えば名前考えていなかったな。
顎に手をやり名前を考える。
うーん、夢の世界だしドリームでいいか。
「そう!夢の使者!魔法少女ドリーム!」
ステッキを魔法で生み出し、それをくるくるとバトンのように回してからビシィっとポーズを決める。
決まったな。
仲間たちの方を見ると、眼をキラキラさせてフレイムが此方を見つめる。
そしてフレイムとは対照的にポカーンとする男二人。
どうやら男受けは余り良くない様だ。
まあ、顔が俺なんだから仕方がないか。
「凄い!凄い凄い凄い!何それ何それ!」
「ふふふ、魔法少女って奴だ」
「魔法少女!?」
そう!魔法少女!
まどか達にせがまれて作った変身魔法に、更にあれこれ手を加えた結果生み出された究極の魔法少女変身魔法!
その戦闘能力は変身前のなんと3倍!
相手が誰だろうと全く負ける気がしねぇ!
ただこの魔法には3つ程欠点がある。
1、変身の呪文は凄く短いが無詠唱には出来ない。かつ変身の際はハートを両手で作るなどの所定の動きが必要になる。そのため隙が大きく、一対一だと簡単にに妨害されてしまう。
2、足元は素足に革靴。色々頑張って改良したのだが、革靴を変えるとパワーアップ部分が無くなってしまう為、やむなく素足に革靴のちょっときもいデザインに。
3、1度変身すると1月はそのまま。服は脱げない。その為当然風呂にも入れず、しかも恐ろしい事に上から何か羽織って隠そうとすると、上着がはじけ飛んでしまう。つまり変身姿を隠す事が出来ない。
1、2は兎も角3がきつい。
1ヶ月このままの格好とか、流石に生き地獄だ。
だがここは夢の世界!
目が覚めればフリーダム!
俺が返った後、勇者にとっては生き地獄だろうが俺は気にしない!
「ねぇ!魔法少女っていったい何なの!?」
今のフレイムに擬音を付けるならばワクワクがぴったり当てはまる。
そう思わせる程、興奮し上気した顔で聞いてくる。
やはりガキンチョには魔法少女の効果は絶大だ。
「魔法少女とは!愛と正義の使者!神に愛されし少女たちの総称だ!」
「私もなれる!?」
「おう!お前もいい子にしてれば魔法少女になれるぜ!」
残念ながら、今使っている変身魔法は他人には使えない。
弄り回した結果複雑になりすぎて、使える使えない以前に俺が他人に教える事が出来ないからだ。
だがまあまどか達に教えた子供だましの方なら使えるだろう。
「やったあ!」
喜び飛び跳ねるフレイムを微笑ましく眺めていると、魂が凍り付くかのような冷たい声が響き渡る。
「ずいぶんと……楽しそうですね……」
声の主を見る。
どうやら発狂に飽きたのか、無表情のテール姫が此方を見つめていた。
その瞳に光は無く、澱んでいる事から、落ち着いてはいても正気を取り戻した分けではではなさそうだ。
まあわざわざ変身迄したのに、平和的に解決したら馬鹿みたいだからまあ良し!
「一緒に遊ぶかい?」
ステッキの先を姫に向け、クイクイっと先端を上下させ挑発する。
「私と……踊っていただけますか?勇者様……」
「御随意に」
腕を腰で曲げ、大仰に頭を下げる。
さあ第二ラウンドの幕開けだ!
to be continued
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