第48話 お断りします!

フレイムとフレイザーの炎と冷気のブレスが両サイドからテール姫を襲う。だが彼女は苦も無く、その両手にそれぞれ握る黒と白の扇で軌道を変え逸らす。

舞を舞うかのような完璧な動き。

その動きに目を見張り、俺は動きを止めた。


ブレスで隙を作りそこに斬りかかる。

そういう作戦だったが、2体の竜のブレスをああも完璧に捌き切られたのでは迂闊に突っ込む事は出来ない。


「おいおい、さっき迄と動きが全然違うじゃねーか!」

「これが彼女の本気か」


明かに先程までとはレベルの違う動きに驚愕を隠し切れず声を荒げる。

炎竜と氷竜を呼び出し、四対一でなら勝てると踏んでいたが。

それが甘い考えだと今の驚異的な動きから悟る。


どうやらさっきまでは本気を出さずに遊んでたって事か。

道理であっさり召喚させてくれたわけだ。


しかしいくらなんでも姫さん強すぎだろう。

これじゃあ殺さずに済ませるどころか冗談抜きで負けるぞ。


「なんなのよあの化け物女!なんて戦いに私達を呼ぶのよ!」


赤毛の糞ガキがキーキー喚きながら寄ってくる。

まあ気持ちは分からんでもないが、こっちだって想定外なんだから許せ。

そう心の中で謝罪しつつ、フレイムを蹴り飛ばす。


「何するのよ!」

「ああすまん、俺は貧乳アレルギーだからつい本能的に足が出た」

「はぁ!ふざけないでよ!」


煩い奴だ。

戦いの最中に勝手に持ち場を離れて上司に文句言いに来るとか、軍隊なら銃殺ものだぞ。蹴りで我慢してやった事に感謝して欲しいくらいだ。


「敵に集中しろ。こういう時の為にお前達と契約を結んだんだ。死ぬ気で戦え」

「了解している。フレイム、目の前の相手に集中するんだ。契約した以上は命をもかける、それはお前も理解していよう」

「はい」


これまた持ち場を離れ近寄ってくるフリーザー。

数の利を生かして囲んで戦うのが定石だろうに、何でこいつら当たり前のように一か所に集まって来るんだ?


「だが安心しろ。お前だけは何があっても私が守る」

「フリーザー様」


フリーザーが決意を籠めた目でフレイムを見つめ、フレイムも潤んだ瞳で見つめ返す。


うん、バカップル死ね。

集中しろって言われた矢先に見つめ合ってどうする?

鶏だって3歩は覚えてるってのに、これだから爬虫類は困る。


しかし姫さんしかけてこねぇな。

ちらりと様子を伺うと、棒立ち状態で此方を見つめるだけで特に何か仕掛けてくる様子はない。


気のせいだろうか?

仮面ではっきりとはしないが、心なしかその表情は嬉しそうにみえる。

機嫌のいい今ならひょっとしたら説得が効くかもと思い、口を開く。


「なあ、姫さん。なんであんたそんな事やってんだ?」

「姫とは何の話です」

「いや声とか魔力とか、後胸のサイズとかでばればれだぞ?」

「……」


テール姫が口元に手を当て考えこむ。

そして考えが固まったのか、ゆっくりと仮面を外し素顔を晒す。


「確信を相手に持たれている状態で体面だけ取り繕っても仕方ありませんね。それに、バレた所でどうにかなるわけでもありませんし」


バレた所でどうなるわけでもないか。

今この4人で倒せるか怪しい上に、国に言った所で笑い話にしかならんだろうしな。

下手したら勇者御乱心的な扱いで、こっちが国を敵に回す可能性すらある。


「テール姫、何故このような真似を為さるのですか?一体何が貴方をこのような凶行

に走らせたのです」

「愛……故にです」


俺はこの一言で全てを悟った。


成程、そういう事か。

つまり姫様は……


「自分はキチガイだと、そう言いたいわけか」

「お前は少し黙ってろ」


勇者が刺すような鋭い目つきで此方を睨んでくる。

御機嫌斜めの様なので、体を横に動かしおっぱいをタユンタユンと揺らしてみるが無視された。


この揺れで癒されないとは。

こいつやっぱり女嫌いで間違いないな。


「ひょっとして、私のためですか?」

「お気づきだったのですね……」

「姫様の力なら、その気になればいつでも私を始末できたはず。ですが姫様は私を殺そうとはせず、対処可能な厄災を世界にばら撒いていた。全ては私の名声を高める為。違いますか?」


話に入り込みづらい雰囲気だったので、暇潰しに気配を殺してフレイムの後ろへと回り込み、奥義裂肛激震突で驚かせようとしたら。

気づいたフリーザーに顔面を蹴られ吹っ飛ばされた。


女の子の顔をサッカーボールみたいに蹴るとか、とんでもない紳士もいたもんだ。

そんな俺をよそに話は続く。


「私は……勇者様に、歴史に名を連ねる伝説の存在になって貰いたいのです!貴方と結ばれ得ないのなら!せめて勇者としての貴方の御役に立ちたくて!」

「姫様、私はその様な事は望んでいません。これ以上このような事はお止めください」

「嫌です!私は!私は貴方を歴史に名を遺す大英雄にして見せます!それを邪魔するなら!たとえ貴方でも容赦いたしません!」


興奮し声を荒げ、全身から禍々しいオーラが立ち上る。

その余りの変化に驚き、俺は思わずブレイクダンスを中断する。


「あーらら、怒らせてやんの」

「うるさい!来るぞ!気を付けろ!」


人の説得横取りした挙句、失敗しておいて偉そうな奴だ。


テール姫が鬼の形相で突っ込んでくる。

その扇の一撃を受け勇者が吹き飛んだ。


一瞬奥の手を使おうかとも思ったが、勿体ぶってもうちょっとピンチになったら使う事にする。とりあえず今はこのまま戦うとしよう。


吹っ飛ぶ勇者を追う姫の顔面に回し蹴りをぶちかます。


完璧に決まった!

だが姫は吹き飛ばず、その場で足を止めて此方を睨む。


「貴方も、私の愛の邪魔をするのですか?」


こっわ!超怖いんですけど!

血走りすぎて、白目が殆ど赤く染まっている狂気の瞳に寒気が走る。


「ならば」

「ちょっと待て!一つ聞きたい事がある!」

「なんです」

「何で結ばれないんだ?」


さっきの話を聞く限り、テール姫は勇者と結ばれないからこんな事をしてると言っていた。それが気になって口にする。


「なんで……ですって?」

「ああ、ちょっと気になったんでな」

「あなたが……あなたが断ったんじゃないですか!頑張って……頑張ったのに!貴方が否定したんじゃないですか!勇者としての仕事があるから!姫とは一緒にはなれないと!」


あー、振られてたわけか。

まあ勇者は女嫌いっぽいし、そら振られるわな。


「平民との身分差を埋める為に、ありとあらゆる手を使って名声を高めてあげたのに!貴方は私を否定した!勇者としての仕事を優先したのよ!」


顔に飛んでくる唾を凄い勢いで躱す!

ブレイクダンスで!


ゆっくりと起き上がりながら姫に声をかける。


「忙しくて結婚できないってなら、姫さんが余計な破壊活動辞めれば良かっただけなんじゃね?」

「え!?」

「姫さんがばんばん余計な仕事を作ってたせいで、忙しくて断られたんだろ?」


俺の発言に衝撃を受けたのか、2歩3歩とテール姫が驚いたような顔で後ずさる

どうやらテール姫はオツムが弱かったらしい


テール姫が勇者の方を見ながら口を開く。


「もし……もし、勇者としての仕事が落ち着けば……私と……結婚していただけますか?」

「残念ながらそれは出来ない。貴方が諸悪の根源だと分かった以上、貴方と結ばれる事はありません」

「そんな……」


次いでテール姫は懇願するような目で此方を見つめてくる。

どうやらどちらでもいいようだ。

案外尻軽なのやもしれん。


「俺か?うーん、姫と結婚ねぇ……」


頭を捻り、考える。


姫様→結構好みだし問題ない。〇

王族の配偶者としての仕事→めんどくさそう。×

セクハラ→姫の婿になると色々制限されそう。×

愛人→作るの難しそう。仮にできてもばれたら確実に姫に殺される。×



結論


「お断りします!」

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