第47話 魔人将

「ふふふ、やりますね。さすがは勇者」

「俺にこんな姑息な罠は通用しないぜ!」


魔人将を前に吠える。

全裸で。


相手の用意した罠を突破するさい衣服が全部吹っ飛んでしまったが気にしない。

だって女の子だもの。


「姑息も何も、あんなあほな罠にかかるのはあんただけよ」


アルビダの冷たい眼差しが俺に突き刺さる。

きっと俺の方が胸が大きいから妬んでいるのだろう。


「どこの世界に魔物を抱きしめる人が居るんですか!」

「いやだって、ぼいんぼいんのエロエロだったから」


すっごいエロイ感じの魔物が魔人将に無理やり使役されてるから助けてって駆け寄ってきたら、普通抱きしめるだろ?

お尻もみもみしてたら実はスライムの擬態で、パックンチョされて全身溶かされかけたがこれは不慮の事故って奴だ。


だから俺は悪くない!


「しかしこれで俺を女にした謎が解けたな」

「ほう」


目元覆い隠す仮面を被り、黒いドレスに身を包んだ、まるで貴婦人の様な出で立ちの魔人将が興味深げに声を上げる。


「お前は俺のビッグマグナムを恐れた!」

「そういう馬鹿な話はいいですから!」

「くだらない与太話はいいから、さっさと魔人将をやってしまいなよ」


少年とアルビダの声援を受け、俺は言葉を続ける。


「男のままこの罠にかかったら俺のむき出しのビッグマグナムに視線を奪われ、戦いにならなくなる!それを貴様は恐れた!」


左手を腰に当て右手の人差し指を相手に向けて、自分の見事な推理を披露する。

これが漫画やアニメならズバーン!とかビシィ!とかの擬音が出てもおかしくないくらい決まっていた。

裸なのが若干間抜けな気もするが、些細な事だ。


これでもかという決め顔で少年たちの方を振り向くと、二人揃って間抜け面。

その眼には、信じられない物を見るかのような畏怖の念が込められている事が手に取るようにわかる。


どうやら勇者としての英知を知らしめる事に成功したようだ。


「成程、すべてお見通しという訳ですか」


魔人将が仮面の奥からでもはっきりと分かるほどに目を見開き、黄金の髪を揺らしながら一歩後ずさる。


え?あれ?

ひょっとして当たってた?


テキトーな与太話が当たっていた事に驚き、此方も思わず動揺する。

それを悟られまいと、心を落ち着かせるべくとりあえず自らの剥き出しの胸を揉む。


あ~やわらけ~、いやされるわ~。


一瞬で俺の心のささくれを癒してくれる。

やはり巨乳は神、いや宇宙だと痛感させられる。


「確かに私は男性経験がありません」


魔人将が聞いても居ないのに処女宣言。


何となくそんな気はしていたが。

王族だし、あの立ち振る舞いでバンバンやりまくってますってことは無いだろうからな。


まあ、あの清楚な見た目でテール姫がビッチだったらそれはそれで興奮するが。


しかし何で姫さん魔人将なんかやってんだ?

一人二役?

副業かなんかか?


所詮夢だから細かい事は気にしても仕方がない気もするが。

最近どうもこれ、実は夢じゃなくね?って気がしなくもない。

何か現実の方でも魔法使えたりするようになってるし。


「ですので、殿方に裸で振舞われては困るのです」


口元に手を当て、もじもじしながら魔人将、もといテール姫が言葉を続ける。


「まさか本当に勇者様の出鱈目が当たっているなんて……」


俺もびっくりだ。

驚愕している少年を落ち着かそうと胸を揉むかと聞いたら、アルビダに蹴り飛ばされた。


「海賊風情が……」


アルビダの蹴りが俺の尻に炸裂した瞬間、テール姫の様子が変わる。

その眼には殺気がこもり、汚いものを見下すような目でアルビダを見つめる。

アルビダを毛嫌いしているのは相変わらずの様だ。


「死ね」


憎悪のオーラを纏った姫の殺意が膨らみ弾け。

次の瞬間弾丸のような速さで姫がアルビダに襲い掛かる。


アルビダの胸を狙った手刀突きを、俺は手首を掴んで咄嗟に止める。


だが姫は止まらない。

右手を止められた彼女は今度は左手で手刀を叩き込もうとする。

俺はそのままアルビダの前に回り込み、振り下ろされた手刀も止める。


止めるが……


「マジか!?なんてパワーしてやがる!?」


相手の動きを封じるどころか、逆にこちらが押され始める。


姫さん実は凄い細マッチョなのか?

などと言った軽口をたたく余裕もない。


どれだけ力を籠めても押し返せず、少しづつ上半身が仰け反る。


「どいていただけますか?勇者様」

「敬称……付けちまってるぜ……姫さん」

「姫?何の事です?」


歯を食いしばり、必死の思いで突っ込みを入れるが。

姫さんはさらりととぼけながら、更に力を込めてくる。


足元から鈍い音が響く。

踏ん張りすぎて床が砕け足が地面にめり込む音だ。


やばい背骨へし折れそう。

このままだと冗談抜きで背骨をへし折られて死ぬ。


起死回生の手を考えるが思いつかない。

しかしこのままやられるのは癪だ。

ならば自分の出来る事、最も得意な事で勝負!


「姫さん……胸のボッチ…………見えてるぜ!」

「う、嘘ですわ!?私ちゃんとブラを!?」

「隙ありゃーーーーーー」


一瞬怯んだ姫の隙をついて、一本背負いの形で遠くへと放り投げる。


「勇者様剣を!」


さっきバーンしたときに服と一緒に吹き飛ばした剣を、俺が苦戦しているのを見て拾って来ていたようだ。ナイス判断だ少年!


俺は剣を受け取り抜き放つ。


姫さん相手に剣は使いたくないが、素手だとまるで勝てる気がしないのでしょうがない。


「でかしたぞ少年!お礼に胸を――」

「結構です!!」


無償で勇者に奉仕するその姿勢は素晴らしい!

しょうがないので代わりに自分で胸をもむ。

うん!柔らかい!


「馬鹿な事してるけど、大丈夫なのかい?」


アルビダが心配そうに声をかけてくる。

目の前で力負けしていた俺を目にしているのだから、心配するのも無理はない。


「個人的に美人には剣を振るいたくはないんだがな!」


剣を構えながら、相手に語り掛ける様に叫ぶ。


「勇者様はどうあってもその女海賊を守るのですね」

「うん、美人でボインボインだし」


残念ながら俺の中ではアルビダ>テール姫>少年だ。

つまり少年なら切り捨ててた。


まあこれは冗談だ。

流石に口にすると少年が泣いちゃいそうなので、心の中にしまっておこう。


「喜んでいい理由なのかどうか分からないけど、一応例は言っておくよ」

「後で胸をモミモミさせてくれるだけでいいぞ?」

「死んでもお断りだね」


おのれ照屋さんめ。

おっぱいと命、どっちが大事だと思ってるんだ?


勿論俺はおっぱいです!


「仕方ありませんね。どうやら先に勇者様を叩きのめすしかありませんか」


姫の手に黒い扇子が唐突に現れる。

扇子からは禍々しい瘴気が溢れ出し、一目で呪われた魔具だというのが見て取れた。


「やばいなありゃ、お前らちょっと先にここから脱出してろ。死ぬほど邪魔だから」


あれだけの瘴気だ、近くに居るだけでも少年達にとってはやばいはず。

横でフラフラされても鬱陶しいので退避を促す。


「わかったよ。行くよ、ポエリ」

「勇者様……外でお持ちしております……」


いつになく少年が神妙な顔つきで声をかけてくる。

呪いを受けている事や、先程押されていた事から不安を感じているのだろう。

俺はそんな少年を安心させるべく、笑顔で答える。


「少年。ヒロインを気取るには10センチ早いぞ」

「ぐ……本当にあなたって人は……」

「ほれ。さっさといけ」


出口に向かって走るアルビダ達へ姫が無造作に扇を振るう。

振るわれた扇から黒い旋風が巻き起こり少年達に迫る。


「させっかよ!」


俺は射線に割り込み防御壁を発動させる。

光り輝く防御壁と黒い旋風がぶつかり合い、火花を散らし打ち消し合う。


何ちゅう威力だ。

防御壁が吹き飛んじまったじゃねーか。


目の前にテール姫が迫り扇を振るう。

俺の首めがけて水平に薙がれたその一撃を剣で受け止める。いや、受け止めきれずに後方へ弾き飛ばされた。やはりパワーが違い過ぎる。


こりゃ本気で不味い。

押してもダメなら引いてみなの教えの元、和解案を提案する。


「なあ姫さん。こんな荒事はやめて、折角二人きりなんだし乳繰り合わないか?」

「私は魔人将。姫ではありませんよ?」


折角平和的解決策を提示するが流される。

どうやらとことんとぼける腹積もりの様だ。


「私はあの海賊の首を落とさなければなりません。これ以上邪魔をするようなら、骨の一本や二本は覚悟してくださいね」

「これまた物騒な事をおっしゃる。爺は悲しいですぞ、姫」


ふざけた口調で答えたものの、背筋には嫌な汗が流れる。

剣を構えなおし、姫との間合いを取るがまるで打ち込む隙が無い。

このままじゃ冗談抜きで5分ともたず宣言通りにされちまう。


ていうかあいつ、何時迄呪いの解除方法探してんだ!?

このままじゃん不味いってのに馬鹿なのか!?


≪すまんな、まだ解除魔法が完成していない≫


そんなもん後にしろ!ハゲ!


≪やれやれ、今から召喚するから少し時間をくれ≫


こいつがこんなに呑気なのは、姫が俺に対して殺気を出していないせいだろうな。

アルビダ見捨てる気満々じゃねーか。

ひょっとして女嫌いか?


「では、参りますね」


ニッコリと微笑み、次の瞬間には俺の目の前まで迫り扇を振るう。

連続で振るわれる扇、それを剣で受ける度に全身に衝撃が走り、時に吹き飛ばされ。明かに先程よりも鋭さを増す連続攻撃に防戦一方で翻弄される。


そんな厳しい戦いのさなか、凄い事に気づく。

おっぱい邪魔!超邪魔!

動きにくくて仕方ねぇ!


まさかおっぱいにこんな落とし穴があろうとは!

やはりおっぱいは自分ではなく、女性についてこそだと実感させられる。


「隙ありです!」

「しまった!」


掬いあげるような扇の一撃を受けて、剣が高々と空中へと弾き飛ばされる。


「ふふふ、少し眠っていてくださいね」

「え?いや、俺今就寝中だけど?それより上」


俺は上を指さす。


「勇者様。いくらなんでもそんな手には――」


言葉を言い終えるよりも早く、姫は残像を残し後ろへと飛び退く。

その残像を先程跳ね上げられた剣が切り裂く。

その剣を手に握るのは――


「ばらす奴があるか!」


もう一人の俺が青筋を立てて怒鳴ってくる。

顔に唾が飛んできて凄く不快だ。


「あれ?なんかふけてねーか?」


前会った時はもう少し若かったような?


「召喚した体には俺が入ったからな。まあ細かい事は気にするな」


ま、たしかにどうでもいいな。


「前の手で行くぜ。時間稼げよ」

「仕方ないな」


俺は飛び退き、勇者が剣を正眼に構える。

さあこっからが本番だ。

おもいっきりお尻ぺんぺんしてやるからな、覚悟しろよ姫さん。


to be continued

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