第46話 無理を通してこそ

「アルビダ!アルビダじゃないか!」

「……」


あれ?照れているのかな?

両腕を大きく開き、俺の腕に飛び込んでこいのポーズをしても何故かアルビダは動かない。

うーん、謎だ。


「どうした?俺の胸に飛び込んできてもいいんだぞ?」

「相変わらず素晴らしいまでの変わり身ね?あんたは」

「うむ、俺は状況に応じて柔軟に行動できる男だからな」


自分の器の大きさを示した所で両腕を再び大きく開き、受け入れ態勢を整える。

ボインボインバインバインバッチ来い!


「この前死ねクソガキ的な言葉を聞いたような?」

「あの時は本気で死ねと思っていたが時代は移り変わった!さあ!新たな時代の扉を押し広げるのだ!」


半眼で睨め付けてくるアルビダの熱い視線を受け止め、じりじりとにじり寄る。

軽快なステップで間合いを開けるアルビダを、それ以上のスピードのすり足で追い詰める俺。

後一歩という所で異変に気付く。


「あれ?なにこれ?胸にびっくりするほどおっきな腫瘍が2つ程できてるんだけど?ひょっとして末期癌?」


不治の病設定か。

急に設定変えて来たな。

流石に病弱設定は無理があると思うんだが。


そんな事を考えつつ、俺はその胸部の腫瘍をもみもみする。


「安心しな。それは良性腫瘍よ」


両性と良性をかけたボケかな?


「で?何でこうなってんの?」

「あ、はい。先ほど魔人将と交戦した際に呪いを受けた為です」

「呪いねぇ。随分と愉快な呪いをかける奴だなぁ」


俺は魔法で鏡面状の氷を生み出し、それを手にもって自分の姿を眺める。

俺は自らの姿を視界に納め、絶句する。


「うわキッモ!」


体つきは素晴らしいのに、顔がそのままとかホラー以外何物でもない。

最初はしょぼい呪いかと思ったが、これはやばいな。

一生この姿のままとか宣告されたら即自殺するわ。


いや待てよ?

化粧すれば案外いけるかも?


「化粧したら少しはましになるかな?」

「何馬鹿な事考えているんですか」

「女として生まれた以上、美しくなる努力をするのは当然だろう!」

「生れてませんよ?」


そうだった。

余りのショックに実は生まれた時から女だったと勘違いしてしまった。


俺は呪いを解くべく、おつむの引き出しをえっちらおっちら引きずり出す。

………あれ?見当たらないぞ?

頭の上に魔法ではてなマークを浮かべてみる。


「言っとくけどないわよ」

「ちんちんが?それは分かってるぞ?」

「そうじゃなくって……」


アルビダが大きな大きなため息を吐く。


「あ、小皺」

「そんなもんないわよ!!!」


心労が溜まっている様だからちょっとした冗談で心のケアをしてやろうとしただけなのに、どうやら気にしていたようだ。

そういうのが気になるアンニュイなお年頃って奴か。


よし!ならここはいっちょ元気づけてやるか!


「アルビダ!おばさんでも美人なら俺は全然いけるぞ!!」


アルビダの迷いのない回し蹴りが俺の顔面を襲う!

が、俺はそれをかがんで躱す。


なにぃ!


円を描いていたはずの奴の足が急に俺の真上で制止し、高く跳ねあがってから振り下ろされた。


だが甘い!


俺はエビぞりでそれを素早く回避し、さり気なく丸見えの熊さんパンツを堪能……

萎えた。


「お前なんちゅうパンツはいてるんだ」

「う!うるさいわね!ポエリがこれしかないって言うから仕方なくはいてるだけよ!」


少年のパンツか?

どちらにしろとんでもねーな。


「アルビダ!何私のパンツだってバラしてるんですか!」

「言わなきゃあたしが変人だと思われるでしょ!」

「だ!だからって私の名前を出さなくっても!」


今日のアルビダがパッツンパッツンのシャツとスカートだったのは、俺を喜ばすためためではなく単に少年の服を借りてただけか。

確かに普段着てるクソガキサイズの服じゃあの危険物は収まらんわな。


しかし少年スカートなんか持ってたのか?

世の中には不思議な事があるものだ。


二人の微笑ましいやり取りに目を向ける。

子供っぽいとか、パンツが丸見えになるようなことをするのははしたないとか。

これが噂に聞く女子トークか。


「何ニヤニヤ見てんのよ?」

「勇者様は自分が置かれた状況が分かってるんですか!?」


温かい笑顔で二人のやり取りを見守っていると、急に矛先が此方へと向く。


「もう一人の勇者様ですら簡単に解けないからって、解くのに集中する為に勇者様に代わって貰ってる位なんですよ!?」


もう一人の俺か。

何か俺が夢で見てない部分はそいつが俺になってるとかなんとか。

まあどうでもいいけど。


「あんたにはこの奥に逃げた魔人将の手下を追いかけろって言ってたわよ」

「何で手下?」

「魔人将には完璧に逃げられてしまったんです」

「そうか。じゃあ帰るか」

「どうしてそうなるんですか!」


相変わらず少年は周りが見えていないな。

しょうがないので説明してやる。


「ちゃんと理由はある。二点ほど」

「本当に理由なんてあるんですか?しかも2つも」

「聞くだけ無駄よ」


アルビダめ。

ガキの姿なら迷わずひどい目に遭わせてやるところだが、今は色っぽいから許す!


「1つ目は呪いについてだ」

「顔だけ不細工だからおかしいとでも言うつもり?」

「だれが不細工だ!」


全く失礼な奴だ。

勿論美形とは口が裂けても言わんが。


「解けないのは呪いがどういう物かきちんと把握できてないからだ。普通に考えれば性別が変わるだけじゃなく、他にも何か影響があるはず」

「……」

「……」

「どうした?」

「いえ、確かにもっともな理由だと思って。すいません、またいつものように馬鹿な事を言ってるだけかと思って」

「謝る必要はないさ」


そう、謝る必要などない。


「勇者様……」

「ちゃんと後で仕返しするから」

「……」


謝罪は受け取る。

だが仕返しはする。

それが俺のポリシー。


「んでだ。魔人将には完璧に逃げられたんだよな?」

「ええ、部下を残して。足跡すら一切追跡できないくらい完璧な逃げ足だったわ」

「それって俺を罠に誘い込むためにわざと残していった可能性もあるよな?」

「あ!?」

「なるほど。呪いをかけた上で罠に嵌める、か」


俺から完璧に逃げおおせたって事は、端っから呪いだけかけて逃げること前提だったとしか思えん。

そんな状態で部下を置いていくのは罠か。

もしくはたいした情報を持ってないから切り捨てたかのどっちかだろう。


つまり面倒臭いだけだから追わないのが正解だ!


「勇者様、声に出てますよ」

「ん?声出てた?じゃあ帰るか!」

「そうですね」

「え!?いいの?」


絶対反対されると思っていたのに、少年に賛成されて肩透かしを食らう。


「流石に二重の罠に突っ込むのはあれですから 」

「馬鹿野郎!何が起こるか分からない!そんな無理難題を潜り抜けてこそ勇者だろうが!さあ行くぞ!突撃だ!」


俺はわき目もふらずに突進する。


「勇者様!そっちは出口です!」

「……」

「……」

「さあ行くぞ!突撃だ!」


俺はわき目もふらずに突進する


結論

走るとでかい胸がブルンブルンと揺れて痛い。

巨乳って大変だなと思いました。

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