第45話 ボーナス

「先生おはようございます」

「ああ、おはよう」

「いい天気ですね」

「そうだな」

「今日もご指導の程、よろしくお願いします!」


アンニュイな休日。

穏やかな朝の静けさを破り、唐突に訪れた来訪者を睨みつける。


「今日は休みだって言わなかったか?」

「この前教えて貰った魔法を見てもらおうと思って!」


このアホは人の話を聞く気がないのだろうか?

たまの祝日、一人でゆっくりしたいから来んなって言ったのにガン無視かよ。


まあそれは良い。

いや、良くはないけども。

問題は……


「で?後ろの奴らは誰だ」

「はい!私の友達です!」

「「初めまして!!」」


元気な挨拶が木霊する。

若いって素晴らしい。

そう思わせる程、彼女たちの声が、笑顔が、その溢れんばかりの生命力の輝きを放ち俺を圧倒する。


そんな未来に希望溢るる若人達の挨拶に、俺は満面の笑顔で答えた。


「初めまして。君達に良い事を教えてあげよう。彼女は嘘つきだ。魔法など無い。だからさっさと帰れ」

「もー、先生ったら冗談ばっかり言ってー」


冗談はテメーの脳味噌だ、バカッタレが。

何当たり前の様にバラしてやがる。

これだからガキは信用出来ん。


「とっとと帰れ!」

「先生大丈夫です!」


何一つ大丈夫な要素が見当らねぇ。


「みきちゃんとほむらちゃんは私の親友で、お母さんも彼女達なら大丈夫って太鼓判を押してくれてます!」


弁護士をしてる位だから頭は良いと思ってたが、どうやらとんだポンコツだったようだ。


「あの、ひょっとして私達御迷惑でしたか?」

「うん、迷惑」


ひょっとしてってレベルじゃない位大迷惑だ。


「大丈夫だよ!あ、先生彼女は焔明美ちゃん!お金持ちのお嬢さんだよ!」


焔?

はて、どこかで聞いた名前だな。

以前どこかで聞いた事がある名前に、小さな脳みそをフル回転させるが答えが出てこない。

まあ思い出せないならたいした事じゃないんだろう。


「焔ちゃんは先生の働いてる会社の、上の上の、更に上の会社の会長さんのお孫さんだよ!」


たいした名前だった。


「それで彼女が美樹佐倉ちゃん!彼女もすっごいお金持ちなんだよ!」


こいつはあれか?

ひょっとして金で友達選んでるのか?

だとしたら末恐ろしいガキだ。


「秘密の事なら心配しないでください。私達決して漏らしません。何故なら」


長い黒髪の少女焔が、力強く目を見開き変なポーズをとる。


「魔法少女たるもの、秘密は絶対なのです!」


赤毛のポニーテールの少女美樹が、元気よく焔の言葉を引き継ぎ。

対になるようなポーズを決める。


最後にまどかが、二人の間で右手を前に伸ばすようなポーズをとる。

そして。


「「どうか私達を信じてください」」


三人はせーのと声を合わせて言葉を発した。


三人の馬鹿っぽい寸劇に大きく溜息を吐く。

何処の世界に他人の信頼を勝ち取るのに、掛け声合わせる馬鹿がいるのかと。

ヒーローショーじゃねぇんだぞ?


「無理!」


何が信じてくださいだ。

壊れた蛇口のように情報を垂れ流すまどかとその親友なんぞ、信頼できるわけがない。


「確かに私たちは子供ですから、うっかり口を滑らす事もあるかもしれません。ですが私達にはお金があります」

「あります!」

「万一の場合、御爺様にお願いしてお金の力で何とかして貰いますから。どうかご安心を」

「私のお爺ちゃんも佐倉の為なら何でもしてくれるっていつも言ってるので、安心してください!」


金の力で解決とか、子供の口にする台詞じゃねぇ。


「お母さんが言ってました。焔ちゃんと美樹ちゃんの家がバックに付けば、向かうところ敵なしだって。私達の邪魔をする相手は社会的に抹殺するそうです!」


まどかのおかんはトンでもねーな。

ほんとに魔法少女を目指してたのか疑いたくなるレベルで腹黒い。


「あ!そうだ!言うの忘れてた!先生の今度のボーナスは100倍にするって、御爺様が言ってました!」

「よし!お前ら部屋に入れ!魔法の特訓だ!」

「「はーい!!」」


結論

世の中金。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る