第44話 再生怪人は大抵弱い

「多分あそこですね」


ポエリが神妙な面持ちで、神殿を指さす。

その先には、いびつな形の巨大な神殿が建っていた。


ここは死の山の中腹辺りにある開けた場所。

攫われたエルフの女王を救うためやって来ている。


「この神殿、骨で出来ているみたいね。悪趣味極まりないわ」

「女王達の骨もあの中に混ざってんじゃねーの?死んでるんだったもう帰ろうぜ」

「駄目ですよ!女王様達はきっとまだ生きてます!」


楽観主義者め。

世の中には絶望と怨嗟が渦巻いている。

写真で可愛い子指名したら、99%加工で物凄い化け物が来た時の絶望を知らんとは。所詮は小娘か。


「いいか少年、世の中はそう甘くはない。世界は常に――」

「骨はどうやら動物の骨みたいね、人間のものでは無いわ。そもそも、殺してしまってたら人質としては使えないし。勇者相手に人質もなく挑むなんて、馬鹿でもしないでしょうからね」

「そうですね!さあ行きましょう、勇者様!」


アルビダに話を遮られた上に、少年にぐいぐいと袖を引っ張られる。

まあここまで着たら流石に手ぶらで帰る気はないが。

人の戯言を遮るとか、こいつらは親に人の話は最後まで聞きなさいって教わらなかったのか?




神殿の中に入り、真っすぐ伸びる通路を抜けると広い空間に出る。

そこには手を縄で縛られ、天井から全裸で吊るされているエルフが10人。

その下には祭壇があり、祭壇の前には白骨の化け物が佇んでいた。


「一匹だけってことは無いわよね?」

「どこかに潜んでいるんでしょうか?」

「知らん。しかしでかいな」


俺は裸で吊るされ、気絶しているエルフを見ながら呟く。


「う~ん、デカい」

「どこがよ?みんなあんたの大っ嫌いなぺったんこよ」


やれやれ、アルビダはどうやら俺が胸しか見ない変態だと思っているようだ。

俺はアルビダの誤解を解くべく、吊るされているエルフの内3人を順次指さす。


「なるほど。大きいわね」

「ちょっと!二人共何を見ているんですか!!」

「何ってチン、うぉ!」


俺は急に飛んできた骨を、体を捻って躱す。


目標を失った骨は、そのまま通路の奥へと飛んでいく。

折角なので犬の真似をして追いかけて拾いに行こうかと思ったが、後で少年たちが五月蠅そうだからやめておいた。


俺は骨を投げつけて来た相手を見据え、声をかける。


「人の歓談を邪魔すんな」

「すまんね。だが、私の神殿でそう言った下品な話はやめて頂こう」

「だそうだ。アルビダ、そういう話は慎めよ」

「あんたが振ったんでしょうが!」


こういう場合、主人の代わりに恥をかくのがお供の務めだろうに。

つくづく使えないガキだ。


「それで?たしかジャージだっけか。俺に何の用だ」

「ジャージではなく邪神だ。いくらなんでもその間違いは酷かろう」

「邪神!?勇者様。邪神ってまさか」

「ああ、この前お前らを攫った奴だぞ」


俺の言葉を聞き、少年が怯えたように一歩後ずさる。

以前圧倒的な強さで奴に攫われた事を考えれば、まあ怯えるのも無理は無いだろう。


「どうするんだい?以前は二人がかりで倒したんでしょ。一対一じゃ不味いんじゃないの?」


険しい表情でアルビダが心配そうに聞いてくる。

大丈夫かどうかなんて、リラックスしきってる俺の態度を見れば一目瞭然だというのに。洞察力のない奴だ。


しかし、100年は蘇らないってもう一人の勇者が言ってたが。

もう蘇ってんじゃねぇか。

まああれがもう一人の俺だってんなら、嘘八百だったのも頷けるが。


「心配ねぇよ。あいつからは敵意を感じねぇし。何より、以前より明らかに弱体してる。あの程度なら敵じゃねぇ」

「流石は勇者。一目で見抜かれてしまったか」

「で?何の様だ?」


しゃれこうべ等見ていてもしょうがないので、吊るされているエルフの顔に点数を付けながら、言葉を投げかける。


「実は封印して貰おうと思ってね。私を」

「は?」


封印?何?こいつドMなの?

よく見てみるとそれっぽいしゃれこうべしてるな。


まあこの際しゃれこうべはどうでもいい。

85点、いや88点か。


「そんな戯言を誰が信じるものか!」

「ポエリの言う通りよ。勇者、騙されんじゃないわよ」


女王は90点だな。

流石女王を名乗るだけはある。


「疑うのも無理はないな。だが勇者を騙す気はない。これは誓ってもいい」

「だったら何故エルフ達を攫った!」


88点。87点。

やっぱエルフは顔面偏差値たけーなー。


「勇者を呼ぶために遣いを出したのだが、その際配下が勝手に連れてきてしまったのだ、すまんな」

「それならしょうがないな」


何か謝られたっぽいので適当に返事しておく。


「何納得してるんですか勇者様!」


うっせーなー。

人が折角品評会をしてるのに、邪魔すんなよ。

うお!まじか!


一番右端のエルフの顔立ちに俺は驚愕する。


100点満点だ!

やばい!ここまで顔がいいとぺちゃぱいでもいける!

ってチンコ生えてる奴じゃねぇか!

ふぁっきゅーー!


人生の無常を痛感したところで、視線と意識をしゃれこうべに戻す。


「直ぐに解放しようかとも考えたのだが、止めておいた。邪悪な物に攫われた者達が、数日後何食わぬ顔で帰って来ては不味かろう?周りの者達は何と思う?」

「そりゃもう、これでもかってくらいエ――」

「洗脳なり、入れ替わり辺りを疑うわね」

「そういう事だ」


また遮りやがった!

どうやら奥義裂肛激震突をもう一度喰らいたいらしいな。

まさか癖になったのか?


「勇者様!こんな時に、何アルビダのお尻をいやらしい目でじっと見てるんですか!」

「いやらしい目でなんぞみとらん!」

「真面目にやってください!」


アルビダと目が合う。

ニッコリと笑うが、お尻を押さえながら距離を置かれてしまう。


クソッ!少年め!

さっきまでアルビダは邪神に意識をとられ、無防備なお尻を晒していた。

これほどの好機は生涯もう2度と巡っては来ないかもしれないというのに。


仕方がないので代わりに少年にぶちかましてやろうかと思ったが、邪神などには目もくれず、俺の方をじっと警戒したような目つきで睨んでくる。

俺の態度から、今の邪神より俺の方が遥かに危険だと察知する辺り少年の成長が窺えた。


そんな少年の成長に敬意を表し。

両手を大きく広げ、荒ぶる鷹のポーズで威嚇する。

少年も俺の本気を感じ取ってか、両手を構えファイティングポーズポーズだ。

その横では、アルビダが荒ぶる鷹のポーズで少年への加勢を企てる。


「勇者よ。話を真面目に聞く気はあるか?」

「ない!」


その言葉が引き金になり。

俺vs少年・アルビダ組との死闘が幕を上げた。



結論

二人を奥義裂肛激震突で黙らせて、俺が辛くも勝利を掴む。

後ついでに邪神も封印しておいた。

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