第43話 誘拐
「ほほほほ、面白い方々ですね」
「お褒めに預かり至極恐悦」
祭壇の前に立つすっげー美人。
エルフの女王と名乗った女が楽し気にこっちに語り掛けて来たので、適当にそれっぽい返事をしてみた。
合ってるかどうか全く自信がないが、気にしたら負けだ。
「本当に何とお詫びをしたら……」
少年はまだ謝ろうとしていた。
冗談抜きで必要などないのだが、まあそんなに謝るのが好きなドMならもはや何も言うまい。
「良いのです。勇者殿からのおちゃめなプレゼントとして、受け取っておきましょう」
自分の住処を蜜塗れにされているのに、まるで怒っている様子が見られない。
女王だけあって、感情のコントロールが上手いのか。
もしくは本気でまったく気にも留めていないか。
勿論答えは後者だ。
神樹が折れようが燃えようがまったく気にする必要が無い。
何故なら……
「ところであんた誰?」
俺は自分の疑問を端的に口にする。
「勇者様!女王様に失礼ですよ!!」
少年がこめかみに青筋を立てながら怒鳴ってくるが、無視して話を続ける
「目的は?」
「勇者様!いい加減に」
「ポエリ。いいから勇者に任せな」
どうやらアルビダも気づいていたらしく、少年を制する。
それまで五月蠅かった少年も、アルビダが動いたことで異変を察知し黙り込む。
俺が言っても絶対聞かないのに、アルビダが言ったら一瞬かよ。
この素晴らしいまでの信頼度の差。
言っとくけどアルビダは元海賊やぞ!
少年が勇者より海賊を信頼するクソ野郎だという問題は、まあ後回しで良いだろう。
今は目の前の……
「で?ここのエルフ達は何処に連れてったんだ?」
女王の顔から表情が消える。
「いつ気づいた?」
先程までの美しい声色が一変し、女王の口からしゃがれた小汚い声が発せられる。
「この木を蜜でびちょびちょにするちょっと前」
「くくくく、成程。最初っから分かっていたという訳か。ハハハハ!流石勇者だ!」
醜悪な表情で此方を睨みつけていた女王の顔面が突如醜く崩れる。顔の肉がまるで腐ったシチューのようにどす黒くドロドロに変色し、顔から流れ落ちた。顔だけではない、その変貌は全身に及び見る見るうちに骨だけの姿へと変わる。
「そんな!女王様がリッチだったなんて!」
「女王だけじゃなくて、周り全部リッチだぞ?」
「え!?」
女王の傍に控えていた美しいエルフ達全てが骨だけの姿に。
俺に言われて気づいた少年がその光景を目の当たりにし、はっと息をのむ。
相変わらず鈍い奴だ。
「んで?エルフ達はどこでエロい事をされてるんだ?」
俺は女王の振りをしていたリッチに再び尋ねる。
エルフはそのほとんどが美男美女だ。
確実にエロい事をされているはず。
「エルフ達は我々が預かっている!返してほしくば此処より北の死の山へとくるがいい!」
そう叫ぶと同時にリッチ共は魔法の詠唱を始める。
「ゆ、勇者様!」
「ん?何?」
「何じゃありませんよ!リッチ達が魔法を!」
「そだねー」
相手の魔法に焦る少年を肴に、鼻をホジホジする俺。
いやーいつ見ても焦る少年の顔は面白いなー。
「ポエリ、落ち着きなよ。このあほは腐っても勇者なんだから」
「誰が腐っとるか。ぴちぴちだっての」
「アホは否定しないんですね」
折角焦っていたポエリを楽しく眺めていたってのに、アルビダが余計な言葉をかけたせいで落ち着いちまったじゃねぇか。
つまらん。
「ククク、ではさらばだ」
呪文の詠唱を終えたリッチ共は、別れの挨拶を律義にしてくる。
奴らが唱えていたのは転移魔法。
俺とここでやりあうつもりは無かったのだろう。
「おう!またな!」
礼儀正しい俺は当然相手に挨拶を返す。
満面の笑顔で。
次の瞬間リッチ達の体が魔法陣に包まれた。
そして静寂が辺りを包む。
「おう!また会ったな!」
自分達に何がおこったのか理解できていないリッチ達に、俺は再会の挨拶をする。
「馬鹿な!何故だ!何故転移魔法が発動しない!」
「そりゃあまあ、妨害したからな」
「なんだと!いったいいつの間に!」
一々馬鹿正直に教えてやる必要などなかったが、おろおろするリッチ共が面白かったので教えてやることにする。
「樹を蜜塗れにしたときかな」
「え!?」
「だから、樹を蜜塗れにしたときだって。この樹を包んでる蜜には転移魔法を妨害する効果があるんだよ」
最後まで言わなきゃわからんのか、こいつらは。
エロ魔法を開発した時、蜜塗れになった女の子が恥ずかしがって転移魔法で逃げる危険性を考慮して、この魔法で発生する蜜には転移魔法を阻害する効果を付加しておいたのだ。
当然樹全体がその蜜で覆われている以上、その内部からでは転移魔法で脱出は出来ない。
「勇者様。ひょっとしてこの時の為にあんなふざけた真似を?」
「まあな。誰かさんは本気で俺が悪ふざけしたと思ってたみたいだけどな」
「う……そう言われると返す言葉もございません」
普段日ごろの行い云々と言い返してくるかと思ったが、少年が素直に謝った事で拍子抜けする。
おそらくリッチに囲まれた状況で言い合いするより、さっさと始末させようという腹積もりなのだろう。まったく腹黒い奴だ。
「まあいい、さっさと始末するか」
「ま、まて!我らが戻らねば女王たちの命はないぞ!」
「それで?」
「は?」
「うん、いや。それはここのエルフ達が心配する事で、部外者の俺が気にする事じゃないだろ?」
「な!?」
「
歓談が終わった所で魔法を無詠唱で放つ。
全身から聖なるオーラが放たれ。
その圧倒的なオーラの輝きにより、視界が真っ白に染まり。
次の瞬間、リッチ達のもがき苦しむ声が大合唱となって響き渡たる。
その声が収まる頃には視界も戻り、リッチたちは塵一つ残す事無くあの世へと旅立っていた。
「んじゃ帰るか」
「な!駄目ですよ!攫われた女王様達はどうするんですか!」
「しらね」
エルフ達の要請で此処へやってきたわけだが。
本人達がいないなら、もうここに用はない。
「攫われた奴らを助けるのは、ここのエルフ達の仕事だろ?それとも少年はエルフ共のメンツを叩き潰したいのか?」
「そ、そういうわけでは」
少年が納得してくれたのでさっさと帰ろうとすると、アルビダが声をかけて来た。
「あの女王様、胸無かったわねぇ」
「そうなんだよなぁ。巨乳とまでは言わなくても、もうちょい胸がありゃ助けに行っても良かったんだけど。あ……」
アルビダに誘導されてつい本音が出てしまう。
相変わらず恐ろしい女だ。
「勇者様。貴方って人は」
「ばれてしまってはしょうがない。貧乳は悪だ」
少年にぶん殴られて、結局助けに行く破目になりました。
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