第36話 年齢制限

「どうぞ」


差し出されたお茶を頂く。


うん、まあお茶だな。


出される前に蘊蓄を語られたが、味の違いなど俺には全く分からなかった。

コンビニ生活で鍛え上げられた最強の味覚の前では、高級品も形無しだ。


続いてお茶菓子が俺の前に差し出される。

見るからに高級品。

だが如何に高級品であろうと、俺の前では駄菓子に等しい。


庶民の味覚舐めんな!


茶菓子を一つ俺が手に取ると、まどかもそれに続いてお菓子に手を伸ばす。

だがそれを手にするよりも早く、女の手がまどかの手を叩き落とす。


「まどか!お客様にお出しした物に手を出すなんて、はしたないですよ!」

「ご、ごめんなさい」


普段から甘いものを制限されているまどかは、チャンスとばかりに茶菓子に手を伸ばすも、母親の偉大なる愛の前に遭えなく轟沈し。

恨みがましい目で何故か俺を見つめてくる。


そんなまどかを哀れに思い、せめて雰囲気だけでもとお菓子を美味そうに頬張る。


「このお菓子美味しいですね」

「お口に合って良かったですわ」

「いやー、本当に美味しいです」


実際はコンビニで売ってる菓子類と大して違いが分からないが、とにかく絶賛しながら食べつくす。

まどかの眼の端に映る涙が心地いい。


クソガキの涙をおかずに茶をすする。

うーん、上手い!

最高の気分だ!


「先生。今日はまどかの事でお話があると」


まどかの母親が俺の隣に座り、顔を近づけ聞いてくる。

彼女から漂う甘い香りが鼻孔を擽り、ちょっとばかし鼻の下が伸びてしまう。


彼女の名は鬼目さやか。

イギリスと日本のハーフで、その顔立ちは非常に整っており美しい。

体形もまるでモデルのようにスラっとした、手足の長い、女性が憧れる理想の様な体つきをしている。


はっきり言って超好みだ。

顔だけは。


残念な事に胸はぴったんこなため、評価は60点といった所だろうか。

顔100点、体20点で平均60点だ。

まあ別にお近づきになる為にここに来たわけではない以上、彼女の点数などどうでもいいのだが。


「ええ、大変残念ですが。彼女には魔法の資質がありません。ですから、お母様の方から諦めて頂くよう、まどかさんに」

「先生!私の眼を見ておっしゃってください!」


此方の言葉を遮り、さやかが強めの口調で自分の眼を見ろと言ってきた。


相手の顔が近すぎて気まずいから、向かいに座るまどかの方を見て喋っていたのだが……まあ確かに、大事な話をするのに目を合わせないのは失礼か。


座っている椅子を横にずらし、間合いを開けてからさやかと向き合う。


「ぶっちゃけ彼女に魔法の資質は御座いません!このまま魔法の訓練を続けても、貴重な人生の時間を無駄に費やすだけになってしまいます。ですので、お母様の方から彼女に諦めるようお話しされて欲しいのです」


うむ、我ながら完璧だ。

親なら、子に大きく羽ばたいて欲しいと願うはず。

限られた娘の貴重な人生を、無駄に費やす事を良しとする親は居まい。


「先生……」

「彼女の為にも、どうか賢明な御判断を」


よしよし、あと一押しだな。


だが最後の一押しを口にするよりも早く、思わぬ言葉が返ってくる。


「先生、嘘をおっしゃってますね?」


静かに、そして落ち着いた口調で、さやかは俺が嘘をついていると指摘する。


ファ!?


確かに言ってる事は嘘八百ではある。

ではあるが、決して見抜かれるような愚は犯していないはず。


今日来るに当たって、色々な展開は予想していた。

娘の可能性を信じたいとか、そう言った流れになっても対応できるよう。いろいろと考えてきていた。


だが、流石にこうまでバッサリ嘘を見抜かれる自体は想定しておらず、思わず動揺してしまう。


「い、いや。あのですね。私は決して嘘など申しておらず……」

「私はこの10年、弁護士としてやってきました。相手が嘘をついているかどうかぐらいわかります」


げ!こいつ弁護士かよ!

道理でいい家に住んでるわけだ。


「先生が嘘を吐いた理由も理解できます。魔法なんてものは、現代社会において異端でしかありません。10歳の子供がそれを無秩序に行使すれば、社会から抹消されかねない。そうですね?」

「え、ええまあ」


それが分かってるんなら、自分の娘が魔法少女になるのを反対してくれるんじゃ?

そんな甘い期待が脳裏を過る。


「先生、どうぞ御安心なさってください」


お!なんだ、楽勝じゃん。

嘘を見抜かかれ一瞬ヒヤッとしたが、どうやら事無きを得そうだ。


「娘にはそう言った部分は重々理解させております。どうぞ安心して魔法を教えてやってください」


安心って、そっちかよ!


「そうですね。まどか」

「はい!私は情動に急かされて愚かな行動を起こしたりしません!先生どうか安心してください!」


母の問いにまどかが元気に答える。


お前さっき欲望を押さえきれずに、お菓子に手を伸ばしてたろうが!

こいつの何処を安心しろというのか?


「ですので、これからも親子共々よろしくお願いします」


さやかが椅子から立ち上がり、深々と此方へお辞儀をする。

なんかもうこうなってくると、物凄く断りずらい雰囲気だ。


ん?親子共々?


「あの、親子共々って……」

「わたくしもまだ、魔法少女になる夢は諦めておりませんので」


いや!諦めろよ!

おまえおばはんだろうが!!

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