第35話 丸投げ

「はぁ……」


上空から眼下に広がる光景を目の当たりにし、思わず溜息が出る。


足元にはクレーターが広がっていた。

ほんの数分前までは森だった場所だ。

奴がオーク討伐の手抜きを行った結果、こうなった。



生体感知で位置を把握し、魔法を使ってピンポイントでオークを倒すという案は問題なかった。


魔法発射から着弾までのラグで、相手の位置がずれる事を考慮して範囲型の魔法を使ったことも、森に多少被害が出るが許容範囲だ。


問題は、何故火属性の魔法を選んだかという事だ。


あいつ馬鹿だろう。

森に広範囲の炎を80発も打ち込めば大火事になるに決まっている。


そんな燃え盛る森を、奴は最強魔法で跡形もなく吹き飛ばし言い放つ。


「証拠は隠滅した!後は適当な理由を考えといてくれ!頼んだぞ、少年!」


丸投げである。

あほか。


「あ、あの、勇者様……」


ポエリが恐る恐る声をかけてくる。

先程奴が放った魔法にどぎもを抜かれていたようだが。

どうやら正気を取り戻したようだ。


「驚かしてすまんな、ポエリ。悪いが強力な魔獣が出たという事にしておいてくれ」

「え!?あ、はい……」


一瞬驚いたような声を上げるが、直ぐに言いたい事を理解してくれたのか、同意の返事が返ってくる。


「その言い訳は流石に苦しいんじゃないの?」

「押し通すまでだ」


そう、押し通すしかない。

他に秀逸な言い訳が思いつかない以上は。




「まさかあんな苦しい言い訳が、すんなり通るとはな」


自分でも無理のある言い訳だと思っていたが、案外あっさりと受け入れられた。

正直此処まですんなりと進むと、将軍達が何か企んでいるんじゃないかと勘ぐってしまう。


「勇者様!」


将軍の執務室を後にし、長い渡り廊下を歩いていると、背後から女性に声をかけられた。聞き覚えのある声に歩みを止め、振り返る。


テール姫だ。


彼女は嬉しそうにスカートの端を両手で摘まみ上げながら、此方へと小走りに向かってくる。途中転びそうになり、従者に支えられる危なげなシーンもあったが、彼女は無事俺の元へとたどり着く。


「お久しぶりです。テール姫様」


頭を下げながら丁寧に挨拶をする。


彼女からはもっとフランクに接して欲しいと言われてはいるが、仮にも王国の第二王女だ。従者の眼もある以上、粗雑には扱えない。

ゆっくりと頭を上げると、頬を上気させたテール姫の顔が眼前に迫ってくる。


はっきりいって近すぎる。

これでは姫が俺に気があると公言しているようなものだ。

情熱的と言えなくもないが、王族としては軽率な行動と言わざるを得ない。


「パルテの森で強力な魔獣を倒されたとか……お怪我はありませんでしたか?」


姫が潤んだ瞳で此方の顔を覗き込んでくる。


美しい姫にこんな真似をされれば、大抵の男はイチコロだろう。

もっとも自分には通用しないが。


「御安心ください。体の方は何とも御座いません。ただ、森を守れなかったのが悔やまれます」


怪我などあろう訳が無い。

そもそも魔獣など存在しなかったのだから。


「よかった。魔獣と戦われたと聞いて、わたくし心配で心配で……」


姫が馬鹿みたいに体を摺り寄せてくる。

もはや抱き着いているのに等しい状態。

周りからどう映るか等お構いなしだ。


「御心配おかけしました。私は仕事があります故、これで失礼させていただきます」

「あ……」


姫から離れる様に一歩下がって一礼し、足早にその場を立ち去る。


仕事は無いが用事は出来た。

ポエリに確認しなければならない。


何故姫が、を既に知っているのか。

それをポエリ達に確認しなければならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る