第32話 少年を甘やかすつもりは無い

長い呪文だ……

長すぎる!

俺ははやる気持ちを抑え、詠唱を続ける。

そう!フレイム召喚の詠唱を!!


はよう!美女はよう!!

そんな事を考えながら、フレイム召喚の魔法を詠唱する。


ちらりと勇者の方を見やると、邪神との激闘は当然まだ続いていた。

勇者が前衛、フリーザーが後衛を務め見事な連携で邪神と渡り合う。


まあ、もうこちらの勝ちが揺るぐ事はまず無いだろう。

後はダメ押しの、お色気担当フレイムを召喚するだけだ。

そう、お色気担当のフレイムだ。


久しぶりのお色気担当の登場に、自然と頬が緩む。

ここ最近ガキの相手ばかりで嫌気がさしていたのだ。

正に救いの女神と言えるだろう。


そして詠唱が完了し、魔法が発動する。

フリーザー召喚時は青く輝く魔法陣だったが、今度の色は赤だ。

だが何か違和感を感じる。


あれ?何か魔法陣ちっさくね?

フリーザーの時も小さなサイズに驚いたが、今度の魔法陣はその更に半分ほどの大きさしかない。


え?嘘だよね!?

うそだよねぇ!!!!


嫌な予感が的中し、魔法陣の中から燃えるような赤い瞳と長い髪をもつ美少女が飛び出してくる。


「チェンジ!」

「い、いきなりなんです!?」


少女は面食らったかの様に声を荒げる。

だが面食らったのはむしろこっちの方だ!


「チェエンジィ!!!」

「言ってる意味がわからないわ、気でも触れたの?あ……フリーザー様!!!!」


フリーザーを見つけフレイムは嬉しそうに大声を上げる。

その声で気づいたのか、フリーザーが此方を振り返り声をかけて来る。


「フレイム!力を貸してくれ!」

「はい!フリーザー様の為なら喜んで!」


嬉しそうにフレイムが戦いへと参戦する。

そんな様を、俺は鼻をホジホジしながら観戦するのだった。

あー、なんかもうやる気しねぇ……


「遊んでないで貴様も手伝え!」


俺のやる気のないオーラに気づいたのか、振り返りもせず勇者が怒鳴ってくる。

まったく短気な奴だ。コーヒーブレイクをしらんのか?

まあこの場合鼻ホジブレイクだが……


「へいへい」


余りやる気はしないが、人質もいる事だし一応働くか。

しかし4人パーティーか、なんかRPGっぽいな。

そんなどうでも良い事を考えながら、俺も戦いへと参加する。



「がああああああ!」


勇者の一撃が邪神の肩を打ち砕き、左腕がごろりと地面へと転がる。


「終わりだな」

「く、くくく。流石に勇者二人に、エンシェントドラゴン2体相手では勝ち目が無いか」


数の暴力最強!

流石の邪神も4人がかりでボコられては、手も足も出ない。

それでも此処まで追い詰めるのにかなりの時間を要した事を考えると、流石邪神と言った所だろうか。

というかHP高すぎ。


「何か言い残す事でもあるかよ?一応聞いてやるぜ」

「そうだな、一ついい事を教えてやろう。貴様達、魔人将という者達を知っているか?」

「知らん!死ね!」


俺の渾身の一撃が奴の頭部を打ち砕く。

そして頭部を失った肉体は瓦解し、塵となり消え去った。


「ふ、正義は勝つ。悪は滅びるのみよ」


何となくカッコいい台詞で決めてみた。


「……」

「……」

「……」


3人が無言で俺を見つめてくる。

どうやらカッコいい決め台詞を聞いて、俺に惚れちまったようだな。

まったくモテる男はつらいぜ。


「主よ、一つ聞いていいか?何故奴の話を聞かずに斬ったのだ?」

「何か長そうだったから、もういいかなって」

「い、いいのか?」


フリーザーが何故か俺ではなく、勇者に確認を取る。

何で呼び出した俺じゃなくて、勇者に確認するんだ?


「まあ、構わんさ」


勇者が剣を収めながら答えるが、その眼は雄弁に俺が困った奴だと語っていた。

まったく、細かいこと気にしやがって、器のちっさい野郎だぜ。


「どうでもいいけどフリーザー、お前ロリコンだったんだな」

「な!私は別にロリコンではない!ただ愛した女性が私よりも少し若かっただけだ!」


世間一般ではそれをロリコンと言うのだが。

強大な力を持つエンシェントドラゴンがロリコンとか、嫌なファンタジーもあったもんだ。


「では、用が済んだのなら私は帰らせてもらう」

「フリーザー様。もうお帰りになられてしまうのですか?」


フレイムが涙目で駆け寄り、フリーザーを見つめる。


「すまん、フレイム。私は一族の長として、長く住処を開けるわけには行かないのだ。許してくれ。」

「フリーザー様」


絡み合う視線。

見つめ合う二人。

イライラする俺。


うざいので纏めて蹴り飛ばす。

豪快に吹っ飛ぶ2人を見て。

気分スッキリ!笑顔ニッコリ。


「急に何をするのよ!」

「うっせぇ。うざいからとっとと帰れ」


覚えてなさい!

そう捨て台詞を残し、フレイムは消えていった。

そんなフレイムを見送った後、今度はフリーザーが困った主だと言い残し消えていく。


帰るならスッキリ帰れよ。飛ぶ鳥跡を濁さずって言葉を奴らは知らんのか?


勇者の方を振り返ると、既に少年とアルビダを救い出していた。

どうやら、俺がフリーザーたちと遊んでる間に助け出していたようだ。

流石勇者。


「う~ん」

「気が付いたかポエリ」

「ふぇ?勇者様?おはようございます」


勇者の問いかけに、ポエリが寝ぼけ眼で挨拶を交わす。

さっきまで封印されていた影響か、ぼーっとしているようだ。

続いてアルビダも目を覚ますが、此方もぼーっとしていて、まともに話せる状態ではないようだ。なにせ間抜け面で、口の端から涎を垂らしている始末だ。


見る人間が見れば、子供の可愛らしい寝起き姿に善からぬ妄想を抱く事だろう。

だがロリに興味のない俺からすれば、涎垂らすなよキッタネーナ位にしか感じない。


「しかし、あいつ結局人質使わなかったな」


神のプライドが邪魔したんだろうか?

俺があいつなら、フリーザーが呼び出された時点で確実に盾として使ってたな。

プライドの為に死ぬ奴の気が知れん。


「まあ、死ぬわけではないからな」

「は?いや死んだじゃん?」

「邪神は不死身だと聞く。時間が経てばいずれ復活するだろう」


マジかよ。

何か最後の最後迄余裕かましてるなって思ったら、そういうカラクリだったわけか。


「もっとも、蘇るのは何百年も先の話だ。俺たちが生きているうちに、再び顔を突き合わすことは無いだろう」


それを聞いて一安心する。

もし一人で戦っていたら確実に負けていただろう。

流石に、あんな化け物に自由にうろつかれては堪ったものでは無い。


「あ、あれ?勇者様が……2人いる?え?あれ?ええええええええええええええ!」


意識がはっきりしてきたのか、少年は勇者が二人いる事に驚き大声を上げる。


「ちょ!ポエリ。大声で怒鳴らないでよ。びっくりするじゃない?」

「え!だってだって、勇者様が二人いて……」


少年が俺たち二人を交互に見やり、おろおろする。

そんな少年とは対照的に、アルビダは落ち着いた様子で、此方を値踏みするかのように見てくる。


「ふーん、成程。こっちがいつものむっつりで、そっちの少し老けてるおっさんの方がエロ勇者って分けね」

「誰がおっさんだ!誰が!」


本当に失礼なガキだ。

もっともエロの方は否定しないがな。


「ゆ、勇者様って実は双子だったんですか?」

「ああ、そうだぜ」


当然の様に俺は少年に嘘を吐く。

囚われていたからと言って、甘やかす気は更々ない。


そもそも、捕らわれのお姫様ごっこするには10年早い。

少年にはこれからも、ビシビシ指導していく所存である。

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