第31話 召喚
さて、弱った。
これは非常に困った。
剣を振るいながら考える。
目の前に対峙する邪神が思っていた以上に強い。
勇者と二人がかりでほぼ互角。
自分で言うのもなんだが、俺と勇者のコンビネーションは完璧に近い。
相手が何を望み自分がどう動けばいいのか、それが手に取るようにわかる。
恐らく勇者もそう感じているだろう。
阿吽の呼吸による最高のコンビネーションだ。
そしてだからこその手詰まり。
正直、これ以上俺と勇者のコンビに伸びしろは無い。
この状況を打開するには、余程の無茶をするか。
近接主体の戦いを魔法戦に変えるしかないだろう。
だが目の前の邪神はどう見ても魔法タイプ。
だからこそ、俺と勇者は迷わず近接戦を選んだのだ。
そう考えると魔法戦はあり得ない、後は…
そんな事を考えながら俺は剣を振るう。
だが容易くその一撃は躱される。
相手の躱す動きに合わせて勇者も剣を振るうが、魔力を纏った片手で弾かれてしまう。
この手が厄介だ。
俺はともかく、勇者の手にしている剣は聖剣と呼ばれる強力な武器だ。その聖剣の一撃すら弾いてしまう。
かなり強力なスキルだ。それ故、最初はすぐに魔力切れを起すと踏んでいたのだが、邪神との攻防は既に30分も経過しており、残念ながら魔力切れを起こす兆候は未だ見られない。
(このままではらちが明かん。俺が奴の相手をするから、お前はその間にフリーザーとフレイムを召喚しろ)
ああ、そういやいたな。そんな奴らが。
でも無理じゃね?
今俺達の居る祭壇の間はかなり広い。
だがそれはあくまでも人間の視点から見てだ。
巨大なドラゴンはこの空間ではまともに動けないだろう。
(いや、無理だろう。フリーザーは兎も角、フレイムなんか呼んだらぎゅうぎゅう詰めで全く動けないぞ?)
勇者の念話に対し俺も念話で答える。
敵の目の前で作戦を話し合ったら只の馬鹿だからな。
(問題ない早く呼べ)
ほんとかよ。
呼んでからやっぱ駄目でしたとかだったら、本気でぶん殴るぞ。
俺は邪神に向かって剣を大上段から振り下ろす。
それを邪神は後方に飛び退き回避。その動きに合わせて此方も後方へ飛び退き、魔法の詠唱を開始する。
「む?魔法か。させんよ」
邪神が俺の詠唱を阻止すべく、無詠唱で魔法を放つ。
大した威力ではなさそうだが、此方の詠唱を止めるには十分なものだ。
だがその攻撃は、射線に割り込んだ勇者の防御壁によって阻まれる。
ナイス勇者!
「やらせんさ、時間稼ぎさせて貰う」
「何の魔法を使う積もりかは知らんが、無駄だ。貴様を射線軸に置くよう動きさえすれば、此方には放てまい?」
どうやら今唱えている詠唱が、召喚魔法とは考えていないらしい。
だがそれは当然の事。
通常の召喚魔法で呼び出した僕など、この場では何の役にも立ちはしないのだから。
詠唱を唱えながら勇者の様子を伺う。
やはり旗色が悪い。
相手が此方の魔法を気にして動きが制限されている為、かろうじて抑えられているといった感じだ。
にしても、この召喚魔法の詠唱クソ長いな。
魔法は強力な物であればあるほど呪文が長くなる。
ミストロジー級の魔物を呼び出す魔法だけあって、驚くほど詠唱が長い。
無詠唱化出来れば楽だが、こんなクソ長い呪文を無詠唱化するぐらい短縮しようとした場合、あり得ない量のMPが消費されてしまう。
流石にそんなMPは持ち合わせていない。
因みに、無詠唱化は基本一般人には使えない類のチートスキルだ。
よし!詠唱完了!
「契約の名の元、我汝を欲さん。出でよ、我が僕フリーザー!!」
俺の目の前に輝く青い魔法陣が生成され、フリーザーが召喚される。
あれ?でも魔法陣滅茶苦茶小さくね?
その答えはすぐに分かった。
何故なら光り輝く魔法陣から現れたのは巨大な竜ではなく、一人の人間だったからだ。
青い瞳に青い髪、執事服姿の眉目秀麗な青年。
それが魔法陣から出てきた人間の容貌だ。
……………え!?
あれ?呪文間違えた?いやそんなはずは……
え?間違えてないよね?俺。
「何を呼び出したかと思えば、只の人間だとはな。自分達の盾にでもするつもりかね?」
「ふ」
青年が鼻で笑い。
そして息を大きく吸い込み、吐き出す。
吐き出された息は青く光り輝き、勇者と邪神に襲い掛かる。
冷気のブレスか!?
ていうか指示も出してないのに、勝手に勇者ごと攻撃すんな!
だが、勇者は背後に迫るブレスを予測していたのか、防御壁を展開しつつギリギリで躱す。
「な!?」
そのため邪神は冷気のブレスをもろに喰らってしまう。
「お前粗チンか!」
「主よ、その呼び方はやめて頂きたい。私もその事は一応気にしているのでな」
ていうか何で人間の姿してんだこいつは?
ていうか、粗チンの癖にイケメン過ぎてムカつく。
「があああ」
邪神の叫び声が響き渡る。
ブレスの直撃で邪神の肉体が凍り付いた一瞬のスキをついて、勇者が渾身の一撃を叩き込んだのだ。
だが肉体が凍結していたのは一瞬だったため、追撃を加える事はできない。
邪神の反撃を警戒した勇者は、一旦間合いを開ける。
「ぐううううう」
邪神が唸り声をあげ、此方を睨んでくる。
なんでこっち!?
凍らしたのはフリーザーだし、一撃加えたのは勇者じゃん!
何故俺を睨む!?
「フリーザー!援護しろ!」
「了解した」
勇者の命令にフリーザーは素直に従う。
呼んだの俺なのに、あいつの命令聞くのかよ……
しかも邪神は思いっきりこっち睨んでくるし。
あれ?俺ひょっとして踏んだり蹴ったりじゃね?
まあいいや、細かい事は気にしない。
何故なら俺は偉大な勇者だからだ!
世の中の理不尽を寛大に受け流し、俺は引き続きフレイム召喚の詠唱に入る。
フリーザーがあんなにイケメンなら、フレイムもさぞかしお色気むんむんの美女として出て来るに違いない。
美女の登場。
それに比べれば邪神討伐など2の次3の次だ。
むふふふ、楽しみですなぁ…
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