第30話 人質

ザザンッ!


2本の剣閃が煌めき、同時に2体のデーモンが崩れ落ちる。

その音を聞きつけてか、更に4体のデーモンが通路の奥から姿を現す。


限界突破オーバーリミット魔法マジックフレア!」


俺の手から放たれた光球がデーモンの一匹に当たり、次の瞬間凄まじい閃光と衝撃が辺りを吹き飛ばす。

通路に現れたデーモン4匹は、その圧倒的破壊力に耐えきれずに消し飛んだ。


「すげぇ。本当に魔法を受けてもびくともしねぇな、この建物」

「神代の時代の物だ。余程の事でもない限り傷一つ付く事は無いだろう」

「魔法撃ち放題だな!」


建物や洞窟内だと、倒壊や崩落の危険を避ける為力をセーブする必要がある。

だがここなら、それを気にせずに全力であの野郎をぶちのめせる。

脳裏にムカつく骨野郎の顔が浮かぶ。

待ってろよ!クソ野郎!


前衛は勇者に押し付けるつもりだったが、気持ちがはやりついつい前に出てしまう。


「あまり単独で前に出るなよ。先ほども言ったが、ここは夢だが、夢の中で死ねば現実のお前も死ぬことになる」

「わあってるよ」


夢の中で死ねば現実にも死が訪れる。普通に考えればそんな事はありえない。

そもそも自分と同じ顔をした勇者の言う事等、全く信頼に値しない。

のだが、万一本当だったら怖いので、一応気を付ける事にする。


まあ、要は死ななければいいだけだ。


「おっと又おいでなすった」


次は三つ首のワン公。ケルベロスだ。

ワン公だなどと言ったものの、その体躯は人間のそれを遥かに上回る。

更にケルベロスは首だけでなく心臓も3つ備わっており、高い生命力を持つ魔物だ。

とはいえ、所詮犬は犬。

俺の敵じゃないぜ。


3つの首が同時にブレスを吐く。

ブレスをかわす。などとまどろっこしい真似をする気はない。

炎をそのまま突っ切り、剣を薙ぐ。

その一撃で三本の首が同時に宙を舞う。


「無茶をするな」

「ちゃんと防御壁を発動させてるから、別に無茶でもなんでもねーよ」


ブレスを喰らう直前防御壁を張って、ダメージを無効化しておいたのだ。

魔力の消費が激しい為常時展開は難しいが、このようにピンポイントで使う事で絶大な効果を発揮する。


「さあ!ガンガン行こうぜ!」

「やれやれ」


やっぱ勇者はこうでなくっちゃな!



「よう!やってくれたじゃねぇか!借りを返しに来たぜ!」

「く…くくくくくく、ぶわっははははははははははは」


俺たち二人の姿を見て、玉座に踏ん反り返る邪神が狂ったように笑いだす。

何がツボったんだ?

女子高生でもあるまいし、いくらなんでも笑いすぎだろう。


ここは神殿最奥にある祭壇の間だ。

祭壇の奥には一段せりあがった形で玉座が備え付けられており、そこに邪神は悠然と腰かけている。

祭壇からは青い光の柱が立ち上り、ポエリとアルビダがそこに捕らわれていた。

二人共気を失ってはいるようだが、命に別状はなさそうだ。


「俺達二人を前に座ったままとは、随分と余裕だな。人質でどうにか出来るとでも思っているのか?」

「ククク、すまんすまん。別に彼女たちを人質として扱うつもりはない。その二人は勇者をおびき寄せる只の餌だ。二人を連れ去れば、勇者がどんな顔をするのか見たかったのでな」


ふざけたやろうだ。

ますますぶった切ってやりたくなる。


「だったらさっさと解放しろ」

「そうしてやってもいいのだが、やはり何事にも褒美は必要であろう?二人は私を倒せた際の褒美として預かって置こう。しかしまさか勇者が二人とはな。くくくくく、このような想定外を起こしてくれるとは、やはり人間という生き物は面白い」


二人を包む封印は強力な物だ。

破壊できなくもないが、それをすれば中の2人の命が危険にさらされてしまう。

その為力押しではなく、時間をかけて解除する必要があるが、当然そんな時間を目の前の化け物は与えてはくれないだろう。


「こういう偉そうに大物ぶってるやつに限って、負けそうになると人質ががどうなっても良いのかって言いだすんだぜ。はーやだやだ」

「生きる為ならばプライドも捨てる。悪い手ではないと思うがね?まあ、私には必要ないだろうが」


挑発も無駄か。

やっぱ真っ向から戦って、人質を盾に使う間もなく倒すしかないな。


「油断するなよ」

「お前は小姑か!」


勇者が剣を構え、それに続いて俺も剣を構えた。

それに応えるかのように邪神が玉座から立ち上がる。


ちっ、座ってりゃいいものを。

どうやら相手も油断はしてくれない様だ。

仮にも神の称号を冠してるんだから、もっと踏ん反り返れよな。


「そう言えばまだ名乗っていなかったな、我が名は…」


ザンッ!

相手が名乗りを上げきる前に斬りかかる。

骨の名前なんざ興味ねーよ。


だが俺の一撃は軽々と片手で弾き飛ばされる。


「やれやれ本当に短気な男だ。このままではその二人を傷つけかねんぞ?」

「なに?」


邪神が指を鳴らすと、2人が閉じ込められている祭壇が地の底へと飲み込まれていく。


「これでお互い周りを気にせず戦えるという物だ。さあ、かかってきたまえ」

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