第29話 二人の勇者
「やれやれ、今日は散々な一日だったぜ」
最悪な夢から始まった一日は、やっと終わりを告げようとしていた。
壁を蹴り壊したときはどうしようかと思ったが、幸い隣の住人は出かけた後だった為、さっと魔法で直して事なきを得た。
だが夢で受けたストレスは結局一日中尾を引き、その影響で仕事ではミスを連発。
本当に踏んだり蹴ったりな一日だった。
いい大人が夢に一喜一憂して、実生活にまで影響が出るのは流石に自分でもどうかと思うが。
まあいい。
嫌な事は寝て忘れるに限る。
風呂から上がったばかりの俺は髪を拭くのもそこそこに、パジャマを着てベッドに寝転がる。
頼むから今日は良い夢を見せてくれよな…
そんな事を思いながら目を瞑る。
▼
「ふむ…」
目の前には強大な神殿が建っていた。
辺りを見回すと、大量の魔物たちの死体と、その中に立つ一人の男が目に入る。
その男が視界に入った時、一瞬我が目を疑い何度か見直したが、やはり見間違いではなかった。
そこには俺が居た。
正確には夢の中の俺だ。
なんで俺が目の前に居るんだ?
ていうかこいつが俺なら、俺は誰だってんだ?
まさかキャスト変更!?
前回の夢で大ポカをやらかしたから、勇者を首になって、村人1とか2になってしまったのだろうか?
自分の着ている服を見て、それは確信に変わる。
だって、パジャマ着て突っ立てる勇者なんて聞いた事が無いし。
マジかよ!
勇者から村人って、会社だったら代表取締役から平に転落するレベルだぞ。
俺は村人の夢なんか見たくねぇぞ!
「混乱しているようだな、無理もない。詳しくは話せないが、お前には力を貸して貰いたい」
「は?貸す?力を?村人の俺が?」
「お前は村人ではない。勇者だ」
「え?でも俺パジャマだぞ?それに勇者ならお前だろう」
勇者が俺を勇者だと言ってくる。
だがどう見ても目の前の勇者こそが勇者だ。
「とにかく力を貸してくれ。ポエリとアルビダはこの神殿内に捕らえられている」
「二人がこの中に?」
「ああ、だが二人は邪神に捕らえられている。助けるにはお前の力が必要だ」
「邪神?ひょっとしてあのリッチか?」
「そうだ。お前もあの二人を助けたいだろう?」
確かに、助けられるものなら助けたい。
それにあのリッチ野郎に借りを返したい気持ちもある。
「ほんとに俺は戦えんのか?」
「それは問題ない。安心しろ。」
勇者が俺に予備の剣を投げてよこす。
「それを使え」
「鎧はねぇのかよ?」
「必要か?」
ま、いらねっか。
よくよく考えれば、勇者として着ていた服も大して防御能力は無かった。
まあ剣さえあれば十分だ。
「では行こう」
勇者が神殿に向かって歩き出し、俺はその後に続く。
前を歩かれるのは若干ムカつくが、よくよく考えれば前衛の方が危険なわけだし、奴には精々壁になってもらうとしよう。
「所でここどこ?」
「細かい事は気にするな」
やれやれ、少年ならちゃんと答えてくれるのに。
やっぱ少年は必要だな。
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