第26話 決めポーズ

「勇者様。村を一通り見て周りましたが、やはり誰もいません」


此処は王都のはるか南にあるクシン村。

人口200人程度の小さな村だ。

そんな小さな村から、突然住人が全て消えたと報告があり、その調査の為に俺達はここへやって来ていた。


発見したのは、定期的にこの村へ物資を運んでいた行商人だ。

その報告を受け、調査官が調査に訪れたが、何の手掛かりも得られずお手上げ状態。

その為、勇者である俺が呼ばれたのだ。


勇者には、通常の人間では扱えない神の領域に近い魔法が扱える。

当然それらの中には強力な探査系の魔法もあり、真っ当な方法で手がかりを得られない大規模な事件等は、全て勇者に回って来る事になる。


正直こういったチマチマした物より、魔物と大立ち回りする系の夢の方が個人的には好きだったりするのだが。

とはいえ、これだけ大規模な人身消失なら調査だけで終わることは無いだろう。


ビシィ!


「まあそうだろうな。これで村人が全員帰って来てたら、調査官達は何してたんだって話だしな」


一応確認の為、少年に村内をチェックさせたのだが、やはり報告通り人っ子一人居ない事が確認できた。


バッ!


「それで何か気付いた事は無いか?」

「すいません、これと言っては…」


少年が済まなさそうに言葉を紡ぐ。

一応念のために聞いただけで少年を責める気などないのだが、少年はそうは受け取らなかったようだ。

そもそも、少年がざっと見て周っただけで何か掴めるなら、俺はここに呼ばれてはいないだろう。


サッ!


「気にするな。組織の事で思い当たる節は無いか?アルビダ」

「あたしはそこまで深く組織に食い込んでいたわけじゃないから、以前話した以上の情報は無いわよ。確かに組織ならこれくらいの事は容易いでしょうけど。でも報告じゃあ、金品は奪われてはいないんでしょ?」

「ええ。人が忽然と姿を消しただけで、家屋が荒らされた形跡はないそうです。当然金品の類もそのままです」

「だとしたら組織の可能性は低いわね。人身売買目的なら、猶更金目の物を放っておくわけが無いもの」


金品の類が奪われていない事からモンスターの可能性も考えられたが、それにしては争った跡が無く。

また、遺体も無い事から可能性は低いと思われる。

仮に、モンスターが全ての住人の遺体を餌や苗床として巣に持ち帰ったとしても、血痕や争った跡は必ず残るはずだ。


ススッ!


「そういえば調査官の報告書に井戸水の報告はあったか?」

「いえ、たぶんなかったと思います」

「成程ね。500人もの人間を痕跡なく連れ去ろうとしたら、まず無力化を謀る必要があるって分けね」


ババッ!


「ああ、圧倒的な軍事力で降伏させるか、広範囲の状態異常魔法で黙らせるか、もしくは飲料水に毒物を混ぜるのが効率的だろうな」

「なるほど!」


少年が感心したように声を上げる。

毒が発見されれば、そこから足跡をたどることも可能だろう。


ズバッ!


「では頼んだぞ。少年よ」

「あの、それは構わないんですが。勇者様は先程から何をやられているんですか?」

「見ればわかるだろう?かっこいい決めポーズの練習だ」


左手で顔を押さえ、右手を肩に水平にして横に伸ばしつつ答える。

うん、これは悪くないな。


「さっきからずっとこの調子さ。気持ち悪いったらありゃしない」

「ふ、女子供にはわかるまい」


俺は半身で、少年をビシッと指さし告げる。


「さあ行け!少年よ!」


そんな俺を、少年とアルビダは生暖かい眼差しで見つめるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る