第25話 少女の夢を打ち砕こうの会
「はぁ…」
「また溜息ですか?」
「少年は良いな。悩みがなさそうで」
「いや、もうその下りはお腹いっぱいですから。因みにここは王都の南にあるクシン村ですよ」
「おいおい、人が溜息を吐いてるのに理由も聞かないのか?少年はいつからそんなに薄情になったんだ」
全く人情紙風船とはこの事だ。
「はいはい、分かりました。それでどうしたんですか?一体」
「ポエリ。甘やかすと際限なく調子に乗るわよ?」
「まあほっとく分けにも行きませんし」
アルビダを見るとロリボディに戻っている。
がっかりもいいところだ。
しかしこいつら、あれだけ仲が悪かったのに、いつの間にこんなに仲良くなったんだ?
まさか出来てんじゃないだろうな?
まあ、それはそれで面白そうだからいいけど。
「実は困っているのだ」
「困っているって何をです?」
「ある少女の夢を、諦めさせたい」
「夢…ですか?」
そう、夢見がちなお子ちゃまの夢を断ち切る必要が俺にはあった。
一人の大人として、俺は迷える子羊を導いてやらねばならない。
「詳しくは話せないんだが、一人の少女が頑ななまでに夢を追い求めてる。出来ればそれをすっぱり諦めさせたい」
「見込みがないって事でしょうか?」
「見込みはある。多分将来有望だ」
「それなのに諦めさせるんですか?」
「その通り!」
子供はあまり好きではない。
だからと言って、破滅の道を驀進するのを黙って見過ごすわけにも行かないだろう。
何より俺自身にもとばっちりが来る可能性がある。
それだけは避けたい。
「親御さんが反対してるとか?」
「親は賛成してるな、たぶん」
「えっとそれはつまりこういう事ですか?親が認めていて。更には、将来有望ないたいけな少女の夢を叩き潰したいと?」
「その言い方には若干悪意を感じるが、概ね正解だ」
気まずい沈黙が流れる。
意図はちゃんと伝わったようだが、伝わったからこそのこの気まずさ。
「あの、何かの冗談ですよね?」
「俺はいたってまじめだぞ」
「あんた、そんな酷い話をよく堂々とできるわね」
二人が汚物を見るような目で俺を見て来る。
ちゃんと事情があっての事だ。全てを包み隠さず話せば二人も理解してくれるだろう。
だが、夢の中で現実の話をするのは何故か憚られる。
これは以前からなのだが、現実の事を口にしようとすると、何故か本能的に心にブレーキの様な物がかかってしまう。
「とにかく、事情は詳しく話せないが、少女が夢を追い続けるのは酷く危険なのだ。だからこそ、俺は彼女を止める必要がある!」
「それ、本当に止めないと駄目なんですか?」
「危険ねぇ……嘘臭いわね」
こいつら俺の言う事全然信じてねぇ。
どんだけ俺は信用されてないんだよ!
「だあ!もう、信じるとか信じないとかはいい!案を出せ!案を!!」
「そう言われましても……とりあえず、新しい夢を見つけさせるとか?」
夢か…確かに悪くないな。
あの年頃の心は移ろいやすい、新たな道を示してやるのは名案だな。
諦めさせようとするから反発するのだ。
「恋とかどうかしら?」
「恋か…」
確かに、恋に夢中になれば夢どころではないな。
しかし、10歳のガキンチョにどうやって恋をさせるかだ。
これも名案ではあるが、如何せん手段が無い。
俺が口説くなど、論外中の論外だしな。
そんな事をすれば、俺の人生が別の意味で終わる。
「危険という話が本当なのでしたら、その危険性をきっちり教えてあげるのが一番いいかもしれませんね」
現状認識か……
やはりその手が一番か。
自分がバラバラに分解されるかもしれないとなれば、まどかもきっと怖気づくに違いない。
「結局その子って、誰なんです?」
「細かい事は気にするな」
「現状を詳しく把握していた方が、より的確なアドバイスが出来ると思うわよ?」
「断る!」
それが出来れば苦労しないぜ。
だがまあ、大体の方向性は固まったな。
「やれやれ、人に相談しておいて、細かい部分は聞くなってのはずいぶん虫のいい話ね」
「まったくです。自分は疑われるとすぐ怒るくせに、その癖こっちの事は信頼してくれないんですから」
「お前らいつまで無駄話をしているんだ!ここには遊びに来たんじゃないぞ!」
たぶん。
事情はまだ聴いてないから分からんが、遊興で来たんじゃないのだけは確かだろう。
自分で話を振っておいて、都合が悪くなると注意して話題を断ち切る。
まさに嫌われ上司の典型的行動でその場を収める。
周りから嫌われる危険な手ではあるが、こいつらに嫌われても屁でもないので、実質俺にはノーリスク! ノーダメージよ!
さあ、お仕事仕事!
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